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読書記録『小隊』著者:砂川文次


読書記録の目的

読了後の感想をまとめることで、

自身の本に対する読み方の認識や姿勢を見直し

読むことの深化を図る。

自身のインプットした情報を

他者が読むことを意識した上で

アウトプットすることによって

話すこと・聞くこと、

書く力、読む力、伝える力を総合的に

維持・向上させることを旨とする。


本との出会い

本を読むきっかけは、

自衛隊に所属していたとき

※同じ部屋 に住む、
(※これを居室という)

後輩のIから「これ、面白いですよ」と

何冊かの本を勧められたことに端を発する。

Iは今年入隊した新隊員だが

今年30歳、以前も自衛官として勤務して

そのまま民間へ転職しその後、また古巣である

自衛隊へ再入隊してきた、

いわゆる“出戻り組”である。

再入隊してくる人はいるっちゃいるが

絶対数は少ないのでまあ珍しいっちゃ珍しい。

新隊員は10人前後、中隊に入ってきたが

Iはとりわけ新隊員のなかでも

落ち着きがあり先輩である一個上の達した

躾事項は当然として常に率先して動く。

しかし、器用な方ではないようで

「動きは早いが結果として出来ない」ことが

散見されるのも彼の特徴で1つの愛嬌とも

言えた。

不器用でも常に何かを真剣に取り組む彼は、

私は嫌いではない。


・私は読書を日常の一部として

習慣化されているくらいには

好きな部類だが、これまで

ミリタリー系の本に触れたことがなかった。


ジャンルという枠組みにとらわれず

本を楽しむことを信条としていたが、

知らず知らずのうちに、

やはり自分で自分の枠を越えることは

出来ず、偏りが生じてしまうらしいことに

気付く。

兎にも角にも、

Iから3冊を拝借したわけだ。

これが『小隊』という本との出会いである。

・あらすじ、要約

第164回芥川賞候補作。

元自衛官の新鋭作家が、日本人のいまだ

知らない「戦場」のリアルを描き切った衝撃作。

北海道にロシア軍が上陸、

日本は第二次大戦後初の「地上戦」を

経験することになった。

自衛隊の3尉・安達は、自らの小隊を率い、

静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。

そして、ついに戦端が開かれた―

Amazon 商品ページから引用


当小説は、『小隊』とタイトルがあるが


物語は「小隊」、「戦場のレビヤタン」、


「市街戦」の3部で構成されており

それぞれが独立した物語として展開する。

タイトルにもなっている「小隊」は、

「戦場のリアル」を追求したと言われても

素直にストン、と腑に落ちてしまうことが

否応なく約束されているといってもいい。

「小隊」は安達3尉という

※陸上自衛隊の
(以下、陸自と呼称する)

幹部自衛官が小隊を率いて戦闘行動を取る。

ちなみに、陸自の3尉は

正式名称を三等陸尉といい

幹部自衛官のなかで1番下っ端である。

自衛隊の階級について少し説明すると、

下から士・曹・尉・佐と

概ね4つに分けることが出来る。

幹部自衛官といわれる階級は尉からである。

高校を卒業して陸自に入隊すると

二等陸士、略して2士から始まり

一定期間が経つごとに1士、士長へと

昇任していく。

そして軍曹といわれる陸曹へ昇任するためには

各選抜試験、(学科・体力テスト等)をパスし

そこから陸曹になるための教育を受け、

全ての課程を修了すると晴れて三等陸曹、

3曹へと昇任する。

そうして昇任を重ねるごとに

2曹、1曹、曹長と階級が変わる。

そして幹部自衛官はというと、

2つのパターンが存在している。

部外と部内からのルートである。

大学を卒業して幹部自衛官の

採用試験に合格すると当初「曹長」の

階級からスタートする。

これがいわゆる大学という

部隊外から人が来るので部外と呼ぶ。

一方で部内は、順調に昇任を重ねていき

自衛官としてキャリアを積む陸曹は

部内幹部候補生の試験を受けることができる。

これが部隊内から人が入るので部内と呼ぶ。


そして物語の安達3尉は小隊を指揮する

立場にいながらも当然ベテランである陸曹の

キャリアには敵わず、しかし幹部という

階級は上であるという自衛隊の建前の部分で

四苦八苦する描写があり、非常にリアルに

描かれていると思う。

良いな、と思った言葉の表現

ここからは具体的に良いなと思った

言葉を抜粋していく。

もちろんネタバレも含むので注意されたい。

無数の手続きが、

総じて一つの義務となり、

自分を支えている。

『小隊』ー「小隊」p88、L11

戦闘の起点は、

誰かが決めるのではなくて

多分自分が決めるのだ。

でも終わりは分からない。

『小隊』ー「小隊」p94、L11

「小隊長、どこ行くんですか」

侘しい行軍のさなか、木村がついに

沈黙に耐えかねた。

そんなこと、おれにも分からない。

安達は黙っていた。

『小隊』ー「小隊」p126、L5


ここでは3つ抜粋をした。

①は初めての実戦で

安達自身が身震いしつつも

小隊長として、幹部自衛官として。

訓練で培ってきた全ての事柄が自分を自分、

自衛官が自衛官足らしめているということを

よく表している。

それは半長靴の靴紐の結び方であったり、

起床ラッパで飛び起きる教育隊だったり、

号令で動くことを徹底した日々の連帯行動で

あったりするんだろうなと思った。

確かに実戦という「超非日常」では

こうした背景、訓練、手続きが

いざというときモノを言うのだと

まるで自分が経験したかのように

納得してしまう、

この文章は説得力があった。


②はこれもまた、

戦争が実際起きた時にもしかしたら

感じることだろうなと思えるモノだった。

「戦場」をリアルに描写する、

その一つひとつの文章が

徹底的に自分ごととして落とし込まれている。

私も元々、自衛隊に勤務していたが

演習の時思ったことがある。

山林の中で見張りをしていた時のことだ。

季節は春から初夏へ移行しようとする5月、

夜でも蒸し暑い気温が続いていた。

その日の夜は大粒の雨が降った。

しかし、そんなことより私は

目の前が、いや、後ろが、左右が

気になって仕方ないのである。

なぜなら目の前に広がる視界、

1メートル四方で地面を区切ったとすると、

そこにヒルがうようよ蠢いているのである。

数えるのは途中で諦めたが、

大体その範囲内に7匹以上も見てとれた。

それがその目の前だけなら良いが

前後左右を見回すと、それぞれ同じ空間に

同じ密度で蠢いているのを認めてしまった。

雨衣を着込んでいたり、半長靴は戦闘服と

隙間なく結んであるため侵入出来る

空間はないはずだが、どうも自分の身体を

這っているようなイメージをしてしまう。

温度も高く湿度も高いのでジメジメと

こもる熱気に加え、雨衣を着用しているため

通気性は最高に悪い。そして目の前には

もう数えることも考えることも途中で

放棄してしまうほどの夥しいヒルの群れ。

その時私は思った。

戦争というのは、案外、

銃弾で仲間が撃たれたとかそういう時ではなく

こうした少しの、命と比べて

天秤にもかからないような小さなストレスが

身体の奥底から

蝕んでいくモノなのかもしれない、と。

この作者である砂川文次氏も

元々は自衛隊に所属していたとあるので

やはりそういう意味では、

同じ経験をした身としては

一つひとつの文章が、言葉が

響いてしまった。

最後の③は安達3尉の心情、

本音が垣間見える

モノであったと思う。

ロシア軍と衝突した結果

CP(戦闘指揮所)が空爆によって消失し、

命からがら爆風やらなんやらで土を口に

含みながらも這いつくばる安達と

先ほど上官が戦死した分隊員の1人である

陸士、木村との会話である。

→新入りの小隊長としての苦悩、

「死にました」という簡潔な報告、

いつまで経ってもこない応答、

これらが散らばった零細のビーズのように

積もりに積もって、という安達はなんとも


筆舌に尽くしがたい心情である。



また、

一方で、この組織は往々にして情報が過早に、

あるいは直前にもたらされることを思い出す。

『小隊』ー「小隊」p33、L15

ここがめちゃくちゃ自衛隊という

組織あるある過ぎて思わず、

吹き出してしまった。

総括

・「小隊」を取り上げたが、その他

「戦場のレビヤタン」、「市街戦」、

全て共通するキーワードは

「緊張と弛緩」であると感じた。

「小隊」では開戦の狼煙が始まる前の

ゆっくりとした時間、

防御陣地をいつも通り構築し、

指揮官会議にて情報共有するなど

現実感のない、

ともすれば訓練かのような

風景でしかなかったりが、

「戦場のリアル」を緻密に

描写することに成功していると感じた。


個人的に

「戦場のレビヤタン」から傭兵という

人種の見解が面白かったり、

ためになる言い回し、お洒落な表現技法が

次々出てきたりするので

「小隊」以降も楽しく読むことが出来た。

とりあえず、

今までミリタリー系を読まなかった人たちにも

オススメできる良作だったし、

元自、現自衛官なら120%自身の経験から

共感できることがあると思うので

これもまた楽しく読めると思う。

最後に『小隊』を貸してくれたIには

深く感謝し、

当読書記録を簡単ではあるが

終わろうと思う。

ps:最近全然note更新出来てないので、
これからも投稿を少しでも頑張ろうと思う。

そのためには有効な時間の使い方を再度勉強し直すことも必要だろうかと考える今日この頃。

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