『恋のためらい フランキーとジョニー』

 ミシェル・ファイファー演じるコーヒーショップのウエイトレス、フランキーが、長距離バスで故郷からニューヨークに帰ってくるところから映画が始まります。

 アメリカで長距離バスというのは、いわゆるグレイハウンドがほとんどですけど、要するに庶民の足ですよね。アメリカの長距離鉄道アムトラックは基本輸送用で、人間が乗るのはどちらかというと観光列車的な扱いで、本数もあまりないし、駅間もすごく離れている。アメリカで車がないということはかなり大変で、かなりの都市部で地下鉄やトロリーが走ってるならともかく地方はかなりきつい。
LAに行った時は、とにかく道に人が歩いてなくてバス利用自体観光には無理だと思ったし、アンカレッジでは郊外に宿泊していたので路線バスを利用してたんですが、やはり格差を感じた。アンカレッジ中心部の路線バスターミナルは、結構やさぐれたかんじがして、やばい夫婦喧嘩ぽいのが起こったりもしていた。でも喧嘩止める人がいてよかったし、乗客はみなおだやかだった。

 アンカレッジの中心地から北へバスで30分ほどいった一帯は実は全米で2番めと3番目に、小学校で話されている言語の種類が多いそうです。要するに、移民がすごく増えている。
わたしが2016年にアラスカを旅したときに泊まった、そのエリアにあるベッド&ブレックファストのまわりを散策すると、タイ料理レストランや食材屋、ファラフェルの屋台、トンガ系教会、ドミニカン・レストランがポツポツと並び、、そのむこうには、巨大なエスニック・スーパーマーケットがありました。タイ料理をテイクアウトで食べていると、宿のおばあちゃんが、うちのあたりはとてもインターナショナルなのだと教えてくれたのでした。ちなみに小学校で話されている言語の種類が多い1位はブルックリン。
 
 アンカレッジ郊外がそういうかんじなのにもびっくりしたけど、そのあとに行った、北極海の町バローの一日ガイドツアーで、ひととおり観光ポイントを見てから、時間もあまったので、たまたまやっていた高校のアメフトの試合を見ることになった。フードスタンドが1軒出ていて、見るとメニューには「スパムむすび」がある。お店は、ポリネシアン系の女性ふたりがやっていた。ハワイに日本からの移民が行って、そこであみ出されたスパムむすびが、ハワイに移ってきたポリネシアン系の人びとに受け継がれ、そこから北極海の町に移住した人たちによって提供されているのを日本からの旅行者(わたし)が買う。

 混ざり感をひとめでみてとれる、ニューヨークのクイーンズやブルックリンのような場所でも、ある程度住み分けがある。
地方へ行くと、それがもっと、ぽつん、ぽつんと、それぞれの国出身の人たちのコミュニティがあり、それは、いきなりできたものでもないわけだけど、コミュニテイどうしは離れているから、外部からいきなり観光に来た者にはわからない。たまに車で案内してもらう機会なんかがあり、例えばアトランタ近辺でおいしいコリアンレストランに連れて行ってもらうと、そこは一大コリタンタウンであったり、アトランタ郊外のROMEという小さな町のバス停にいたら南米の人かな、というかんじの兄ちゃんにスペイン語でずっと話しかけられてたのですが(もちろんわからない)、あとでホテルにあった新聞をみていたら、ペルーからの移民コミュニティが大きくなっているという記事があったり、アトランタのスーパーでレジで働いてる人がほとんど漆黒の肌に白いターバンとドレスの女性たちですごく美しかったのですが、彼女たちはエチオピア人だと聞いた。

 『フランキーとジョニー』では、ミシェル・ファイファー演じるウエイトレスと、刑務所を出たばかりのコック、アル・パチーノが、ギリシャ移民のおじさんがオーナーのコーヒーショップで出会います。厨房にも不法滞在のコックがいて、警察が来るというと逃げ出そうとするし、オーナーのおじさんがギリシャから呼び寄せたっぽい英語のまだあまりできない女の子がいたり、朝は常連さんの年寄りが多いんだけど、注文が細かくて、どれもアメリカっぽい。

 わたしはアメリカの朝ごはんメニューがとても好き。卵と薄いトースト2枚とコーヒーの基本セットで、卵の数、卵の焼き方、ベーコンやソーセージをつけるかどうか、パンの種類をホワイトかホールウィート(全粒粉)かライ麦パンかなどを選ぶ。トーストにつけるものは、適当にバターと、グレープジェリーがどさっと運ばれてくる。『タクシードライバー』では、ジョディ・フォスター演じる娼婦が、トーストにグレープジェリーをたっぷり塗ってから、砂糖をかけて食べていた。コーヒーはもちろんアメリカンでお代わり自由。ミルクはポーションだけど、日本のポーションの3倍くらいあるサイズで、なかみはふつうのミルク(これを日本で売ってほしい)。卵は目玉焼きなら片面焼きか両面焼きか、スクランブルエッグなのか、焼き具合も言う。この映画の常連さんのじいさんは、卵の焼き具合がrunningでなきゃだめっていうのがあった。半熟よりも、若干生っぽい、ようするに流れ出すみたいなかんじの焼き具合。

 フランキーは、いつも半袖のユニフォームの袖をくるくると折り返している。休憩のときにカフェの裏で飲むテイクアウト用の容器に入れたコーヒーは、プラスチックの蓋の縁の一部をガリガリと噛んで平らにして、飲み口にしている(当時は、スタバぽい飲み口がついた蓋はなかった)。休憩中、コックのジョニーは客の警察官とハンドボールをしている。ゲームが終わって警察官は「いいゲームだったな。さて、オレは犯罪者を捕まえに行ってくるわ」って仕事に戻っていく。フランキーは子供のころガールスカウトに入っていたので救急処置ができ、あと、厨房の大男でも開かない瓶の蓋を開けるのが得意。このコーヒーショップのウエイトレス仲間はボウリングのチームを作っていて、メガネの同僚は亀を飼っている。フランキーのアパートはいかにもニューヨークっぽい古い部屋で、正面のアパートの住人も色んな人がいる。隣には俳優業をしているひげのゲイ男性の親友が住んでいる。ベッドはソファーベッドで、寝るときはベッドにセッティングしなきゃいけない。バンダナをねじって頭に巻くダサいやや強引で鈍感なジョニーも、フランキーも心の傷を負っている。『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・フィールドも同じくらいの年齢で隣にひげのゲイの親友が住んでいた。

 アンカレッジのB&Bをひとりでやっているおばあちゃんは、すべてのゲストの記録をノートにつけていて、絶対に同じ人に同じメニューを出さないそうです。とても綺麗に手入れされた立派なおうちの2階が4部屋ゲストルームになっていて、部屋ごとに名前がついていて、それぞれゲストが泊まれるように部屋にバスルームをつけたりクローゼットを改装してTVを入れて観音開きのドアをつけたのは亡くなった夫だと言っていた。2階の共有スペースには本がたくさんあって、「このコーナーは女性運動の本、こちらのコーナーはアラスカの歴史の本」と案内してくれた。ネイティブ・アートの支援をしていたり、親戚だか近所の人だか、具合の良くない肥満の女性を1階で間借りさせ面倒をみているようだった。
その宿へは、アンカレッジから北へ向かうマウンテンビューというハイウエイをバスで走り、マウンテンビュー・カーウォッシュという、そのまんまな名前の洗車場の名前がそのままついてるバス停で降りる。
そして、カーウォッシュといえば、映画『スケアクロウ』で、ジーン・ハックマンが、自分はカーウォッシュの店をやるんでいっしょにやろうぜと同じ時期に刑務所から出たアル・パチーノを誘う話だった。★

『NO GOAT WANTS MY PRESENT』

わたしのプレゼントをほしいヤギはいない

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