冬、童貞、穴、穴、穴。(Part 3)[完結]

(前回のつづきです)

その日からO君のビジネスにひと手間が加わった。毎晩、仕入れた本をビニール袋に詰めては、勉強部屋の窓から通りを眺めた。人気のいないタイミングを見計らって防風林に入り、袋を土の中に埋めていたのだ。
当然必要な穴は一つや二つでは足りなかった。なるべく綺麗にスコップで埋め直してはいるが、一か所に集中させると目立ってしまうかもしれない。彼は穴を広範囲に散らばせた上で目印を用意し、その目印の位置と本のタイトルを書き込んだ地図も用意した。
とはいえ土の下ともなれば、当然いずれ雪が積もって使えなくなる。あくまで窮余の策でしかない。彼は冬の到来までには、何とか別の方策を練らなければならないはずだった。

しかしあの日、例年よりも早い初雪が降った。
授業中にしんしんと積もりゆく雪を見たO君は気が気ではなかっただろう。なにせ翌日に取引の約束があったのだ。目当ての本は土の下、その土も今や雪の下だ。
その晩、彼はスコップを引っ掴み、大慌てで防風林に飛び込んだ。

O君の犯したミスは三つある。

まず一つは、焦って確認を怠ったせいか、防風林に入るところを近所の住人に目撃されていたことだ。
これはあくまで僕の推測だが、担任は先述の通り「中学生らしき人物」という言い方をしていたものの、近所の人はハッキリとO君だと明言したのではないだろうか。直接O君の親に注意すれば良さそうなものだが、なにせ相手が日頃から怒声を飛ばす元ヤンの女性となれば、君子危うきに近寄らずという言葉が脳裏によぎっても不思議ではない。

二つ目のミスは、O君の用意した肝心の目印が、ただの大きめの石だったことだ。木と石の配置をメモしていた地図は、雪が積もっただけでただの落書きに成り下がった。こうなってしまうと、なんとなくの記憶を頼りにその辺りを掘ってみるしかない。雪ごと土を掘れば目立ってしまうのはわかりきっていたが、彼はやるしかなかった(一応、雪を熱で融かすという案も思いついたらしく、100円ライターで立ちむかってみたが歯が立たなかったと言っていた。普通、やらずともわかる)。

そして三つ目は、何よりこんな事業を始めてしまったことだった。
最終的にO君は出頭し、担任の説教と母親の鬼の拳が炸裂。彼は愛する母の見守る中、かじかむ手で全てのエロ本を掘り起した。
こうして彼のヒットビジネスは終焉を迎えた。

ちなみに僕は彼にエロ本の手配を頼んだことはない。僕はエロ本を買うドキドキも楽しむ変態だったので、他人に依頼するのはむしろ損だったのだ。
O君にそう言うと、「お前は素質がある。俺と組まないか? いい金、掴ませてやるよ!」とバディとして勧誘されたことがあった。

「う~ん、そっちの仕事に就いていたら、今頃もっと幸せだったかなぁ……あ、いやいやいや、そんな仕事は存在しない!」

仕事で疲れると妙なことを考えてしまう、今日この頃である。

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mono-less

モノレスエッセイ

mono-lessの書いたエッセイです。ちょっとだけお付き合いくださいね。
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