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「週刊少女コミック」の萩尾望都 Ⅵ 『トーマの心臓』3 -なんだいユーリ-

トーマとエーリク 1,1 なんだいユーリ トーマの思い出に囚われたくないと考えたユーリは、独りトーマのお墓に行き、その前で最後に届いた手紙(遺書)を破る。 そして 「きみになど支配されやしない!」と宣言する。 区切りをつけたと思い、墓地を出ようとするユーリの前に、トーマヴェルナーそっくりの少年が現れる。 まさかと思い声を掛けると、相手はいきなり「なんだいユーリ」と自分の名前を呼ぶ。トーマが生き返った? 死んだはずの人間そっくりの人物が現れる、というのはサスペンス映画

    • 「週刊少女コミック」の萩尾望都 Ⅴ 『トーマの心臓』2  -アルコホル?-

       言葉の感覚萩尾望都作品は、絵の上手さ表現力、特にその線に多くの魅力がある。お話もよく出来てるなーと思う。けれどもそれのほかに、読んでいて言葉の使いかたがちょっと独特だな、と思うときが有る。 お話の流れに乗っかって、なにも考えずに読んでると、ある時、一つの言葉に急にストップを掛けられるような瞬間がある。  1、いちばん人が死ぬ時間 物語が始まってすぐ、トーマ自殺のショックから悪夢を見たユーリ、夜中に目を覚ましてしまう。隣のベッドのオスカーも起き上がる。 「何時?」と聞

      • 「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅳ 『トーマの心臓』1 -少年の解放感-

         1、いまさら昔の話萩尾望都はマンガファン特に自分の世代には特別な存在だし、多くの人がその作品を語っている。ファンの人の思い入れの文章から、マンガ評論家、研究者という人たちによる、分析や研究書等がいくつも出て、今まで散々語られて来てる。 その中でも『トーマの心臓』は『ポーの一族』と並んで、萩尾望都の代表作だから、特に多く語られている。 初期作品の中では『11人いる!』を入れて、トップ3だと思う。 いろいろな世代の人を交えて、オールタイムで萩尾望都作品の人気投票しても、この三つ

        • 「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅲ  『萩尾望都初期作品集』下 空前絶後

           1、神様になる前に昔の作品がなぜか突然、「週刊少女コミック」に再録されることになる。 萩尾望都はそれで生活が助かった、そのお金で竹宮恵子山岸凉子とヨーロッパ旅行をしたと書いてる。 自分はこれで、デビュー当時のマンガの多くを読むことができた。 今考えると、これはとても有りがたい良かったことだと思う。 それが無ければ初期の作品は、単行本(コミックス)で読むしか無いけど、それだとほぼ、1977年の『萩尾望都作品集』からになってしまう。 この時には萩尾望都は「少女マンガの神

        「週刊少女コミック」の萩尾望都 Ⅵ 『トーマの心臓』3 -なんだいユーリ-

        • 「週刊少女コミック」の萩尾望都 Ⅴ 『トーマの心臓』2  -アルコホル?-

        • 「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅳ 『トーマの心臓』1 -少年の解放感-

        • 「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅲ  『萩尾望都初期作品集』下 空前絶後

          「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅱ 『萩尾望都初期作品集』上 宝の山だ

           1、昔のマンガが今の雑誌に? 小学生のころ、妹が買った「週刊少女コミック」をパラパラめくっていたら、萩尾望都の短編マンガが載っていた。作品はもう覚えていないが、ドタバタコメディだった気がする。 お話が、他の少女マンガのラブコメのようなウエットな感じがなくて乾いている、キャラクターがクール(ハリウッド映画のコメディみたいとか言われたと思う)。ただ絵はちょっとだけ古い感じがした。 そしてページの枠に、こういう文字が書かれていた。 萩尾望都初期作品集。 萩尾望都がデビュー当時

          「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅱ 『萩尾望都初期作品集』上 宝の山だ

          「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅰ   『この娘うります!』

           1、週刊少女コミック子供のころはマンガ好きだったので(当時の子供は皆そうだったけど)、目の前にあるマンガはなんでも読んでいた。 妹が買っていた少女マンガ雑誌も読んでいた。 妹は「週刊少女コミック」は買っていたけど、「別冊少女コミック」は買っていなかった。だから萩尾望都作品の中で『ポーの一族』『11人いる!』は雑誌連載時には読んでない。 同じクラスの女子が「フロルは男になれるのかな」とか言ってるのを、”「フロルが男になる」ってなに?”とか思ってた。 萩尾望都は「別冊少女コミ

          「週刊少女コミック」の萩尾望都  Ⅰ   『この娘うります!』

          『ふたりの平成』(橋本治・中野翠)       -予言の書-

          部屋を片付けようと散らかった本をまとめていて、なんの気なしにページをめくると、片づけを忘れて読んでしまうことが有る。 ちょっと前、物置になっている部屋を空けるために、積み上げてあった段ボールを整理していたら懐かしい本が出て来た。 橋本治と中野翠の対談本『ふたりの平成』。 奥付見ると平成三年七月一七日出版になってる。 時代の変化1989年1月7日昭和天皇が崩御されて、元号が平成になる。 同じころに手塚治虫、美空ひばりが亡くなって「一つの時代の終り」と言われた。 世界では、ベ

          『ふたりの平成』(橋本治・中野翠)       -予言の書-

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 下   -理解のある彼女ー

           自分が気づいたら泥沼にハマってた時  母親のようにマチアがボクの所に来て  目が啓かれるような言葉を言ってくれた  「今のままのあなたで良いのよ」 1、理解のある彼女 1、1 マチア『ロンド・カプリチオーソ』の登場人物は少ない。父親母親は、始まってすぐ事故で亡くなる。ニコルを好きになる牧場の少女セーラは、アルベルに「付き合うな!」と言われて退場する。アルベルとニコル、そしてヒロインのマチア、この3人だけで物語が進む。 「弟の才能を怖れ嫉妬したアルベルは、ニコルの目が見え

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 下   -理解のある彼女ー

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 中  -おまえが居なければ!-

           1、嫉妬  1、1 ニコル 『ロンド・カプリチオーソ』は、萩尾望都への嫉妬を描いた作品だという。 竹宮恵子は、萩尾望都の何を怖れ嫉妬したのか。 秀才の兄アルベルに対して、天才の弟ニコル。練習しなくても、見よう見まねで、いきなり滑ることが出来るニコルの天才性。 それと、萩尾望都の、一度見ただけでそれが描けてしまうという才能を、重ねているのだな。 又、感性でそれまでと違う表現が出来てしまう、萩尾望都の表現力の革新性。 ニコルの才能は、目が見えなくなっても衰えない。   

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 中  -おまえが居なければ!-

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 上  -黒い髪の悩める少年

           1、『一度きりの大泉の話』  1,1 大泉サロン1970年代の少女マンガブーム、その時代を牽引した24年組、その中心だった萩尾望都竹宮恵子が一時期同居していて、そこに若いマンガ家やそのタマゴたちが集まって切磋琢磨したという、伝説の「大泉サロン」。 今では多くの人が当時を回想し、色々語られている。特に竹宮恵子は”若い自分たちが少女マンガに革命を起こそうと、熱気にあふれて居た”と、美しい想い出として当時を度々語っている。それに比べると、萩尾望都が当時を振り返るのを見たことが無か

          『ロンド・カプリチオーソ』(竹宮恵子) 上  -黒い髪の悩める少年

          『海街diary』⑤ 番外編「通り雨のあとに」後編  ー吉田秋生の「つぐない」ー

           1、『つぐない』2007年の映画『つぐない』。(ネタバレが有ります) 『通り雨のあとに』を読んで違和感を感じた時、これを思い出した。 あらすじ ”イギリスの名家の姉と使用人の息子。その二人の恋を覗き見した妹、彼女が付いた嘘によって、恋人同士は引き裂かれてしまう。やがて第二次世界大戦が起こり、彼はフランスへ、姉は家族と絶縁し、看護師としてロンドンへ。彼は、戦場からイギリスへ、彼女の元へ帰ろうと、海を目指す。辿り着いた海岸には、船を待つ沢山のイギリス軍人が。彼女との再会だけを

          『海街diary』⑤ 番外編「通り雨のあとに」後編  ー吉田秋生の「つぐない」ー

          『海街diary』④  番外編「通り雨のあとに」 前編                 ーすずは、何故顔を隠しているのかー

           1、『通り雨のあとに』 単行本の9巻が最終巻の『行って来る』。その中の「行って来る」で『海街diary』本編が終わる。その後、「通り雨のあとに」と言う番外編がある。 四姉妹の父親が再婚した陽子。その連れ子の一人和樹を中心とした山形(河鹿沢)での話。 この後、ここを舞台に、和樹を主人公にした『詩歌川百景』のシリーズが始まる。「蝉時雨のやむ時」が、『ラヴァーズキス』と『海街diary』を繋ぐ作品だったように、この話が『海街diary』との間を繋いでいる、と言えばそうなんだけ

          『海街diary』④  番外編「通り雨のあとに」 前編                 ーすずは、何故顔を隠しているのかー

          『海街diary』は何故”名作”なのか③    ー描かれて居ないものー

          同じ舞台だけど別の世界『海街diary』は多くのファンが付いてヒット、映画にもなった。自分もこの作品にハマった。誰もが安心して読める名作だと思う。なのだけど、その為に排除されたものがある。  1、『ラヴァーズ・キス』 『海街diary』にハマって『月間フラワーズ』を読んでいたのだが、掲載が三ヵ月に一度なので次を待つのが長い。単行本も読み終わってしまった。他に何か無いだろうか、と思って本屋の棚を見たら、この本が有った。 「海街」がヒットしていたので、それに乗っかって鎌倉の観

          『海街diary』は何故”名作”なのか③    ー描かれて居ないものー

          『海街diary』は何故”名作”なのか②       ー鎌倉の四姉妹ー

          『海街diary』が「好き」なところこれまでの吉田秋生作品。読めば面白いけど、心に引っ掛かる棘みたいのが有って、無条件に好きと言えないところが有った。しかし『海街diary』には”大ハマリ”した。この作品の良い所は何だろう。  1、舞台が鎌倉 まず一番は、鎌倉を舞台にしていること。 吉田秋生が幼い頃育って、今も住んでいるらしい。都会では無いが、田舎過ぎもしない場所。「古都鎌倉」と言われるように古き良き日本の伝統が有るように感じさせる土地。神社仏閣、江ノ電、その他観光名所が

          『海街diary』は何故”名作”なのか②       ー鎌倉の四姉妹ー

          『海街diary』は何故”名作”なのか①  -吉田秋生作品の思い出-

          吉田秋生作品と私 1、『少女たちの覚醒』 ちくま文庫「現代マンガ選集」の少女マンガ編、作家恩田陸が選んだ【少女たちの覚醒】と言う本、”現代マンガ”という括りなのに、選ばれているのは殆ど1970年代の作品と言う偏った選集。 70年代って、いわゆる「24年組」とそのフォロワーの人達が活躍し「少女マンガ」に限らず、マンガ表現を革新した時代。少女マンガが時代の最先端だった。 1963年生まれの恩田陸がその時代に思春期を過ごし、その時代の少女マンガに今でも特別な思い入れが有るのは、

          『海街diary』は何故”名作”なのか①  -吉田秋生作品の思い出-

          森卓也が、小林信彦の悪口を書いたことから、色々思った事。     ー下ー

          『日本橋に生まれて』 1、『生還』週刊文春の、小林信彦「本音を申せば」が休載になった時、来るべき時が来たかと思った。 同じ年代の作家タレントの多くが亡くなっていっている、それに比べるとこの人は元気だなと思っていた、この年代で新しい映画TVドラマアイドルを見つけ出す好奇心の旺盛さは凄いなと思っていた。とはいえ八十代、いつ亡くなってもおかしくない。しかし、それなら報道がある筈だから生きてはいるのだろうが、もう書けないような体調なのだろうと想像していた。 そう思っていたら、暫くして

          森卓也が、小林信彦の悪口を書いたことから、色々思った事。     ー下ー