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鱗雲 ―海の中、雲の向こう―

鱗雲 ―海の中、雲の向こう―



 ふと考えた。 

 あの大きな雲が鱗なのだとしたら、その向こうにいるのは、一体、どんな生き物なのだろうと。

 屋上のフェンスに体を預け、空を仰ぐと、もうすっかり秋のそれだった。病院の雰囲気というのは、どうも苦手だ。たとえ病気でなくても、その空気に当てられれば妙に落ち着かなくなってしまう。思わず逃げてきた屋上からは、敷地内の様子がよく見えた。

 病院は坂の上にあった。道両側の銀杏並木は黄

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【朗読】交差駅【モノカキ空想のおと】

【朗読】交差駅【モノカキ空想のおと】

〈①〉
三連休の最終日。
することもなく、しかし部屋に閉じこもっているのにも耐えかねて
何かしら心を動かすような出来事が向こうからやってこないかと
そんなどうしようもなく受け身な考えを引き連れて、いつもとは反対の電車に乗った。
あてはなかった。
しかしあてのない旅に憧れはあった。
知らない道を心惹かれるままに歩いて、その先で出会う景色や人の生活に触れ、
疲れたら適当な店に入りおすすめの品とコーヒー

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【朗読】めくる【モノカキ空想のおと】

【朗読】めくる【モノカキ空想のおと】

〈 ① 〉

あ、そうだった。
ページを捲って呟いた。
12月の次のページは、横線だけが並んでる。12月終わりの手帳だってことを、すっかり忘れてしまっていた。
1月の予定を書きたいのに、1月がない。
「新しいの、買わなきゃな―」
去年の9月からの手帳はもうお別れ。
今度は12月始まりの手帳を買おう。11月のページを開き、To do欄に手帳と書いた。
ふと、月のはじめに書かれた「飲み会」の文字に、あ

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