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憂鬱と平和の象徴

28歳最後の日、
街路樹の脇で鳩が死んでいるのを見かけた。
正直なところ鳥は苦手なのだけれど、
土の上に倒れて目を瞑るその鳩は
今まで目にしたどの動物より安らかな顔をしていて
思わず頬や頭を撫でてみたくなった。

スマホを取り出し「鳩 死骸 見つけたら」で
検索してみるが、今日はあいにく日曜日。
役所の死骸処理班へかけた電話は繋がらない。
どうやら自力で処理するしかないらしい。

いったん家にビニール袋を取りに帰り、
鳩を抱き抱えて、自宅に持ち帰り、
燃えるゴミの日まで玄関先で保管。
2日後の朝、ゴミ収集車の中に飲み込まれる
柔らかな鳩のからだを想像する。

近くのスーパーで当初の目的であった買い物を済ませ、
とりあえず自宅へ戻ると、急に雨足が強くなった。
雨粒でほんのり湿ったコートを着たまま
半額シールの貼られた総菜を冷蔵庫に片付ける。
生ゴミにまみれて潰される鳩をもう一度想像すると、
再び玄関を飛び出す気力は無くなっていた。

29歳最初の日、
鳩の死体は居なくなっていた。
念の為にと持ってきたビニール袋を
ポケットの中でギュッと握り締めると
自分の心にもギュッと確かに皺が寄った。

そのまま何事も無かったように満員電車に飲み込まれながら、
穏やかな死に顔を何度も思い浮かべて小さな命を弔う。
それが途轍もなく身勝手で独り善がりな
ただの自己満足と解りながら。

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