特殊なクルマを作っている工場を訪ねました⑵

霊柩車は
どうやって作られているの?

 霊柩車は、トヨタとかイスズといった自動車会社が特注で作っているわけではなく、町工場が買い入れた新車や中古車を霊柩車仕様に改造して販売しているというところまでが前回のルポでかわったことです。
 前回につづき、ライフサポート・エイワの寺山さんに話をうかがいました。


 仕入れた中古車を補修し、普通に乗車できる段階にまで仕上げてから霊柩車へと改造していくのが工場での流れなのだと教えてもらいましたが、「霊柩車にしなくていいから、そのまま売ってくれない」というお客さんが出てきたらどうするのだろう?

「販売しません」
 寺山さんの答えは簡潔だ。
 霊柩車を販売するのが仕事で、うちはクルマ屋(中古車販売業者)ではないというのが理由だそうだ。

 では、霊柩車にするクルマを、お客さんが見つけてきた中古車で作ってほしいという要望があった場合はどうなのか。

「たまにそういう依頼もありますが、なるべくお断りしています」
 どうして?
「なかには、キズだらけの状態のものを持って来られることがあって。お客さんに、『このキズを1つ取るのに3万円かかります。10箇所だと30万円になります』そういうふうに説明しても、なかなか理解してもらえないんですよね」

 キズが多ければ、それだけ手間が増え、そのぶんの加工賃を計上することになる。そういうロスを少なくするために寺山さんのところでは、ベースとなる車両を選ぶ場合にはキズの多いものは避けている。だから基本的には車両選びは任せてほしいのだという。


車体はどうやって
伸ばしているの?

 今回、いろいろ説明を受けながら、なかなか呑み込めなかったことがあった。霊柩車は車体が後ろに長いのが特徴だ。
 既存の車両を改造し後部を伸ばすのは、どうやって伸ばすのか?
 延長する幅は、だいたい60~180㌢が目安だそうだ。伸ばす目的は、運転席の背後に棺を載せるスペースをこしらえるため。

「伸ばす場合、ここから切るんです」
 寺山さんが指さしたのは、4ドアの乗用車の後ろのドア部分の上部。ボディを真っ二つに切断するという。

「うちでは切断はできないので、専門の溶接工場に頼んでいます」
 うちではできない……。外注先の工場にはきっと大がかりな切断機があるのだろう。このとき、わたしの頭の中に浮かんだのは大きなギロチンが、ガシャン‼と降りてくる映像だ。
 実際の作業はイメージしていたものとは、まったく異なるものだということがわかるのは後日、寺山さんの案内でその現場を見せてもらってのことだ。

 切断作業の流れとしては、二つに切り離した後、離れたボディの間に「延長部分」の板金を接続する。延長幅が長いものだと、後輪の位置を後方に付け替えることになる。
 そうした加工を行うにあたって、マニュアルのようなものがあるのかと訊ねたら、車両ごとに仕方が異なるため、とくにペーパーのようなものはないそうだ。

 ということは、頭の中にあるものだけを頼りに作業をするということ?
「そういうことになりますね」
 すごいなあ。メカオンチなだけにすごく憧れてしまう。その切って伸ばすという、車体のサイズはどのようにして決まるのだろう。

「お客さん(販売先)がまだ決まってなくて作る場合だと、いまだと長いものにはしません。ボディを切って伸ばすのも、長さによって金額が変わってきます。どっちが売りやすいかというと、短いほうです」

 素人目には、長いほうが見栄えがよく、需要もありそうに思えるのだが。

「たしかに5、6年前までは、長いものを作ることが多かったんですが、時代に合わなくなってきたんですね。たとえば、長い300万円のものと、短い200万円のもの。どちらをお客さんが選ぶかというと、安いほうでいいよとなりますね」

 さらにリムジンタイプのように長いものにと制作期間も長くなる。完成までに数ヶ月という場合も稀ではないという。

「最近はリムジンを頼まれることが少なくなってきていますね」

 たとえば、人気の高級車レクサスをリムジンタイプの霊柩車に改造するとなると、一台の「加工」金額は約1000万円。ベース本体を新車で購入した場合には、2000万円を超えることになる。

「葬儀の単価が低下して、最近では30万円くらいが多くなっているときに、2000万円の霊柩車を買って、どうやって原価償却するのかということですよね」

 それでもリムジンタイプの注文がまったくないわけではない。大手の葬儀社や互助会から、一度に複数台の注文が入ることがある。それは限られたケースで、寺山さんの工場で生産している割合でいうと多くは、価格を抑えた中古車を霊柩車に改造したものだ。

 ところで霊柩車の購入者だが、葬儀社やご遺体搬送の会社とは限らない。近頃はお寺さんが購入することもあるのだとか。
「先日も一台買っていかれましたね」

 お葬式は葬儀社の領分だと思いがちだが、お葬式の歴史を調べてみると、現在のお葬式のルーツは禅宗の寺院が始めたもの。次第に葬儀の手順や様式が煩雑になり、専門業者が生まれたそうだ。しかし檀家離れが進む中、お葬式の請負に積極的になる寺社が増えつつあるというところだろうか。



霊柩車は「黒」とは限らない?


 前回、白いバスに目を引かれたが、工場に置かれている霊柩車の中にも「白」が数台混じっていた。

「霊柩車の色ですか。黒以外に白もありますよ。ただ白を求められるのはすでに黒を持っていて、2台目や3台目というケースに限られます」

 霊柩車といえば「黒」と考えがちだが、白い霊柩車の需要もあるという。

「お客さんから聞いた話では(葬儀を頼まれる人の)中には、目立たないように白がいいというご家族もおられるそうです。たとえば、若い娘さんがなくなったときに黒の霊柩車はかわいそうだから、白がいいと選ばれることがあるとか。逆に、お葬式を頼まれるのが年配の人だと、やはり黒でないといけないという人も根強いみたいですね」

 寺山さんが言う「お客さん」は、霊柩車を購入してくれる葬儀社やご遺体搬送の会社。購入パターンは決まっているそうだ。
 新しく会社を設立して購入する一台目は、「一般的な黒」と決まっている。仕事が軌道に乗り、台数を増やそうという場合に白が選ばれる。つまり、白を持っているというのはキャリアを積んで軌道にのってきた会社ということになるようだ。

車体の
あのマークは?

 もうひとつ、並べられた霊柩車を眺めていて気づいたことがある。車体の後ろの側面に付いている、S字型のマークだ。クルマによって微妙にデザインが異なっている。
「霊柩車」を示すものなのだろうか?

「ああ、これは霊柩車のマークというんじゃないです。“ランドボー”と言って、霊柩車はもともとアメリカからやってきたものです。さらに元をたどれば幌馬車にゆきつくみたいですね」

 そういえば、葬儀関連の本を読んでいると、アメリカの南北戦争の時代に、戦死した兵隊の遺体を幌馬車で運んだというのを読んだ記憶がある。腐敗を抑えるための、遺体の処置技術が発展したのだとも。

「このカタチは、幌を上げ下げするときに、軸があるでしょう。その名残りで、マークの存在が認知されるにつれ、霊柩車に付けるマークとして定着していったみたいですね」

 並んでいる霊柩車ごとに、マークのデザインが少しずつ異なるのは、霊柩車を生産する会社が考案したロゴのような意味合いがある。

 寺山さんの工場のマークは?
「うちでは、そういうのを付けたりしていません。ノーブランドと言われたら、そうかもしれませんが」

 マークの付いている車両と、付いてない車両がある。どういう違いなのだろう。
「付いているのは、すでに霊柩車として使われていたのを買い取ったものです。うちは、これをきれいにして販売します」

 整理しておくと、工場で生産される霊柩車には、二つのパターンある。
 新車、もしくは中古の乗用車を改造する「新車の霊柩車」と、霊柩車として使用されていたものを補修する「中古の霊柩車」だ。

「うちでは、中古霊柩車を再生させた場合、それがライバル会社のものであっても、付いていたマークを外して付け替えるようなことはしません。まあ、エンブレムみたいなもの。だから付いたまま販売します」

 寺山さんの工場では近年、こうした「中古霊柩車」の販売も増えているという。

「中古霊柩車は、もちろん新車と比較した場合に価格としては安くはなります。ただ、走行距離も10万キロを超えて、フルに使いきっていることが多いので、使える年数が限られます」

「中古霊柩車」の場合には、内装の革も張替え、エンジンも取り替えることになる。
「一台一台クルマを見たら、どういう使われ方をしていかわかりますよね」

 霊柩車は乗り手の人柄をも表してしまうものらしい。使い方が丁寧で、大事に使われたのが一目でわかるものもある。

「たとえば、このクルマ。10年くらいは使っていたのに、内装もきれいなんですよね」
 そういうクルマは手入れても最小限となる。


霊柩車の
セールスマン

 ところで霊柩車の販路だが、寺山さんのところではインターネットのホームページで新車情報を発信している。それだと「待ち」になる。ほかに宣伝はどうしているのだろうか。

「最近は、同業者でグーネットだとか、カーセンサーとかいう雑誌に霊柩車を出すところも出てきていますが、うちはそういうところには出しません。

 どうして載せないか?
 販売価格が出てしまうのがよくないんです。うちのお客さんは葬儀社やご遺体搬送会社といった、エンドユーザーばかりじゃないから。
 うちはセールスの人たちにもお願いしていて、彼らはうちから仕入れて、そこに利益を載せて販売するわけです。仮に、うちから200万円で仕入れたとします。それをお客さんには250万円で売る。そこが透明になっちゃうと、彼らはエンドユーザーに売りにくくなっちゃいますよね」

 寺山さんはセールスマンを大事にすることで、宣伝に投じる経費を抑えてきたそうだ。

 ぐるりと工場を見回すと、工場の隅に場違いと思える、カワイイ中古車がある。

「ああ、見つけましたか」
 寺山さんが、隠していた玩具を見つけられた子供のように笑った。

「これは、たまたま霊柩車を売った先のお客さんが持っていたもので、要らないから引き取ってくれないかと言われるので下取りしてきたんです」
 納入先の葬儀社の倉庫に、放置された状態だったものを引き取ったものだという。

 このクルマは後ろを伸ばして、霊柩車というわけにはいきませんよね? 愛車にでもされるんですか。
「コレクターじゃないので、それはない。ヤフオクにあげようとしているところです」

 寺山さんにとってクルマはすべて商材だ。コレクターが喜びそうなクラシックカーであってもテンションが上がったりはしないらしい。エンジン部分を整備した後にネットのオークションに出すという。

「こういうクラシックカーにはマニアがいるので、出せば売れます」
 自信満々の口ぶりだった。

「ただ、お客さんがマニアだと下取りするのにも値段が高くなるんですが、いくらでもいいからと言われたので。手のあいた人間が交替で作業をしています」

 このクルマ、3週間後に工場を再訪したときには姿が消えていた。オークションに出したら、即落札だったという。

「あっという間でしたね。価格は、マニア相場よりも100万円は下に設定しましたから。高く売ろうとすると時間がかかります。でも、あくまで霊柩車の販売が仕事ですから、高い値段で買ってくれるお客さんを待つよりも、すぐに出ていってくれるのがいちばん。まあ、うちは損はしてないけど、儲けにもなっていませんし」

 それにしても、もうすこし値段を上に設定してもよかったのでは? 首を傾げ「そっちは本業ではないから」という答えが返ってきた。

写真©山本倫子 朝山実(ランドボーとクラシックカーのみ)
つづく
次回は、霊柩車工場を始める前の寺山さんの意外な前職について聞いていきます。

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最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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朝山実

霊柩車工場見学記

どのようにして霊柩車はつくられているのか? 工場を見学してきました。
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