朝山実

聞き書きライター gdke0647@yahoo.co.jp すみっこ、脇道、路上、後日談に興味がわきます。 著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など。 「ウラカタ伝」http://waniwanio.hatenadiary.com/

「しなないでね」と送り出されるドキュメンタリー

自分だったら、拾うだろうか?
 百ページをこえたあたりだった。レースを撮影していたカメラマンが、登山道に落ちていた煙草の吸殻を見つめている。一瞬の躊躇。いつもならすぐに拾っていたという彼が迷ったのは、背負った荷物がいつにもまして重たかったからだ。
 アルピニストでもある彼は「こんなの拾いたくねえよ。吸わねえし……」とも思うが、腰を屈めた。あのとき拾わなかったことを後々後悔したくなかったからだ。先ほ

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『団地と移民』と『蒼い時』と『主戦場』

『団地と移民』(KADOKAWA)というノンフィクションを書いた安田浩一さんのこと。

 安田さんは、『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)をはじめ、社会派ルポを本領とするノンフィクション作家というふうに見られている。間違いないのだけれど、安田さんにはカチッとした枠組みからコボレオチルものをすくいとろうとするライターとしての癖がある。脇道にそれかかる。その先々で発見をする。そういう

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「しょぼい喫茶店」とプカジャと力雀

「メシ通」というweb媒体初仕事で、「しょぼい喫茶店」を取材させてもらった。
 西武新宿線「新井薬師前」駅から徒歩5分。住宅地に隣接した道路沿いにあり、店名が「しょぼい喫茶店」。店主は24歳の若者で、その彼が書いた『しょぼい喫茶店の本』(百万年書房)という本のインタビューだった。

 本の内容をかいつまむと、就職活動がうまくいかず「会社に向いていない」と落ち込んだところから、ネットで見かけた「しょ

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30の視点で語られる、あるお葬式の一夜

滝口悠生『死んでいない者』(文春文庫)を読んで

   それ息で吹いたらだめなんだよ。   え。   線香の火、こうやって振って消さないと。   え、うそ。どうしょう。

 小説の中に出てくるシーンで、高校の制服姿の知花が、祖父に線香をあげようとしたとき、叔父の一日出(かずひで)にダメだといわれ、動揺する。どうしょうと聞き返され、口にした一日出も困ってしまう。こうした、だれもが一度は経験してきたよ

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『ノースライト』横山秀夫さんとラークマイルド1㎎

『ノースライト』(新潮社)を読んで、作者の横山秀夫さんをインタビューした。会っておきたい。しゃべっておきたい。話を聞かなければ。そう思わせる作品だ。6年ずっと直していたというだけはある。昔書いたものに手をくわえるのは大変だ。文章の運びがすごい。一気になんかいかない。考えながら読ませる。

「アサヤマさんが相手だと、どうも煙草の本数が増えるんだよなあ。医者からは控えるように言われているのに、どうして

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横山秀夫の『ノースライト』を読んで、ブルーノ・タウトを知りたくなった

横山秀夫の6年ぶりの最新刊『ノースライト』(新潮社)は、表紙カバーにも描かれている一脚のひじ掛け椅子の謎をめぐる長編小説だ。

 ブルーノ・タウトという建築家の名前に覚えはあったが、どういう人かは、横山さんの小説を読むまで知らなかった。
 ブルーノ・タウトが日本に滞在していたのは1930年代の3年間で、ナチスに批判的であったために身の危険を覚えドイツを出国(ユダヤ人ではなかった)、後にトルコに向か

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