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インタビュー田原町08 『大川総裁の福祉論!』の大川豊さんに聞きました


2/10㈯
浅草・Readin’Writin’ BOOK STOREにて

「インタビュー田原町08」

『大川総裁の福祉論! 知的障がい者と“食う寝るところ、住むところ”』(旬報社)を書かれた大川豊さん(大川興業総裁)をゲストに、福祉の現場取材の様子をお聞きしました。

2時間のダイジェスト記録です。

Readin' Writin' BOOK STOREにて


2/10㈯の「インタビュー田原町08」のゲストは、お笑い集団「大川興業」総裁の大川豊さん。
車椅子のお笑い芸人・ホーキング青山さんをデビューさせたり、完全な暗闇の中で行われる舞台公演などを試みてきた異色のお笑い集団「大川興業」を率いる一方で、
北朝鮮やイラクに突撃取材、
『日本インディーズ候補列伝』(2007年・扶桑社)ではマスメディアが取り上げてこなかった「泡沫候補」たちを「インディーズ候補」と呼んで取材しつづけてきたひとだ。


話すひと=大川豊さん
聞き手(文・写真撮影)=朝山実


1990年代に「週刊宝石」があったころ、大川さんオススメ本を語ってもらう連載で月イチくらいでお会いしたり、「AERA」誌で人物像を探ろうと半年くらい密着取材させてもらったことがありました。
コロナもあり、しばらく舞台公演にも行っておらず「どうされているのだろう?」と思っていたところ、先日ポレポレ東中野で前田亜紀監督のドキュメンタリー映画『NO選挙、NO LIFE』公開記念イベントのゲストトークに来られているのを拝見。

「今度、本が出ます。内容は福祉の現場です」
イベント終了後、畠山理仁さんと前田監督がサイン会をされている側で、帰られるお客さんにパレスチナ支援募金のチラシを素早く手渡しされているのを見ていて、相変わらず、すぐに行動できるひとなんだなあ。
そこで、すこし本の話をうかがいテーマが「福祉」と言われ、
???
刊行された本を読んで、ときおり首相の記者会見で障がい者施設の実情を説明しながら質問をされているのを目にしてきたことが、ようやくつながりました。

ポレポレ東中野。
『NO選挙,NO LIFE』トークショーで。
左は畠山理仁さん。


簡単に『大川総裁の福祉論!』(旬報社)について説明しておくと、
「1 暮らす」
「2 楽しむ」
「3 働く」
3つのキーワードで、12人にインタビュ―する本です。
冒頭登場するのは、衆議院議員の野田聖子さん。
24時間の自宅介護が必要な息子との暮らしを話されています。

ある日の深夜、血液中の酸素濃度が急降下し、アラームが鳴りやまなくなったときのこと。

〈野田 パニックになっていたその時、突然頭の中に「カニューレ」っていう言葉が浮かんできたんですよ。
大川 痰を吸入する「気管カニューレ」ですね。
野田 そうです。家族が定期的に痰の吸引をしないと、チューブが詰まって呼吸ができなくなっちゃうんです。そこで(後略)

切迫した出来事の話ながら、不謹慎をおそれずにいうと「カニューレ」という耳なれない言葉が耳にのこったのと、すごいなあと感心したのは、大川さんが野田さんの言葉を受け「気管」と足して聞き返したこと。

本ではさらに野田さんと大川さんとで、痰の吸引の詳しい話がつづきます。
野田さんの息子さんが成長され、特別支援学校でなく近所の小学校に通い、言葉を発し「ばか」とか「おばば」といった言葉を発するようになる。
そのことを野田さんは楽しげにされているのが面白いというか、読むうちに野田さんに対する印象が変わりました。

インタビュー田原町の当日は、大川さんにそのときの様子をあらためてお聞きしました。

大川さん(以下、太字部分は大川さん) うちの母がクモ膜下出血で倒れたときに、痰を吸い出すのでやったことがありまして。大学生の頃だから、もう40年くらい前になりますが。

福祉に関心をもたれるようになったのは、お母さんのことがあったからなのか、訊いてみたところ、大川さんは腕組みしたまま、さらっと「ぜんぜん違いますねえ」と返してきた。
しばらく目を見つめていたもの、それ以上でも以下でもないという。どうしても、こういう取材をする身としては関係づけたくなりがちだけど、ああ、そうなんですかと返していた。相撲でいうなら、立ち上がったとたん、うっちゃられた格好だった。

20年以上むかしに取材して書いた「現代の肖像」(AERA)のコピーを会場でお配りしましたが、ひさしぶりに見返してみて、大川豊の核心に迫るという意気込みが初々しく、いまならもうすこし肩の力を抜いて書くだろうとも。

この日、印象に残ったことといえば、会場である書店に入って来られたときに、「ええっ。すごいですねえ」店内をぐるりと見てまわられたこと。
二階は天井桟敷になっているというと、ズンズン階段を上がっていかられるし。トークの中でも、福祉の対策向上を訴えるため常日頃、国会の議員会館を訪れてはコンコンとノックし資料を配布。そうやって勉強会の案内をされているとか。こんなふうな勢いなんだろうなと思いました。

そもそも福祉の現場を見に行くようになったのは、政治や選挙の取材をしていると、困っている親御さんや福祉関係の人から声をかけられるんですよ。だけど、取材しても北朝鮮やイラクのようにアウトプットできる場所がないんですね。
お笑いと障がい者ということでいうと、(
大川興業が主催の)すっとこどっこい、というお笑いライブがあるんですけど。そこでホーキング青山さん(先日残念ながら訃報がありました)をデビューさせたんですけど、両手両脚が不自由な車椅子芸人を舞台にあげるというのが当時はタブー中のタブー。うちらが差別しているんじゃないかと言われて、もう大変だったんです。障がいを笑うとはトンデモナイと。ええ。相当責められましたから。

ただ、障がいのある人がお笑いをやりたいとなったときに、やれないことがおかしいと思っていて。ずっとうちはゼロ円で、誰でもお笑いデビューができるということをやってきて。よそだと、お笑いの学校に100万円かかるとか言われてますけど。舞台に出るにもノルマなし。だからもうお客さんが来なくてタイヘンなんです(笑)。
おい、なんとか人を連れてきてくれと言っても、「総裁。スミマセン。わたくし、不登校なもので友達がひとりもいないんであります」と言われるし。

たとえ障がいがあってもお笑いのステージに立てるというのをいち早く実践していたこともあり、大川さんのところには通常の芸能事務所には来ないような問い合わせがあるという。

そうなんです。ジブンは障がいがあるんですけど、フーゾクに行きたいんです。行けるところを教えてくださいとか。そういう電話がかかってくるんです。
どうするか? 
だから、ええ、調べましたよ。一軒一軒、電話して「そちらのお店は車椅子でも入れますか?」とか。そう、わたしが訊くんです。なぜって、スタッフは忙しいですし、ほかに電話してくれる者はいないですから。
そうすると、なかにはお勤めの女性が「わたしの弟も施設に入っていて」とやさしく答えてくれたりするんですよ。で、この店とこの店は理解がありますよ、とその人たちに返していたんです。
もう何年もやっている福祉施設めぐりもそうですけど、そういうのはぜんぶアウトプットできていませんよ。だけども、記事にするよりも、目の前にある切実な問題を解決することが大事じゃないですか?

じゃないですか?と見つめられ、そうですねと応じていた。
もちろん、大川興業としての「仕事」にもなっていないという。あれこれ考える前にまず行動を起こすというのが大川さんのライフスタイルなんですね。

『大川総裁の福祉論!』を読んでいて、とくに印象に残ったのは、自傷他害のおそれのある利用者を受け入れている福祉施設を訪ねたときのやりとりだ。
それぞれインタビューの終わりに大川さんは「取材後記」を付けていて、メモのような後記の中で、ある施設の女性職員に質問したときのことを綴っている。

〈若い女性職員に、自分よりも大柄で力の強い男性の利用者さんがいる中で、どうやって「他害行為」に対応しているのか、「怖くないのか?」など聞いてみた。
 通常、強度行動障がいのある人を受け入れる施設では、男性職員が力で抑えつける。すると、利用者さん側も男性の姿を見るだけで身構え、防御態勢や攻撃態勢を取る。しかし、女性職員は、決して力で抑えつけることはしないし、できない。それが読み取れるので、利用者さんも防御態勢をとらない。だから、実は女性のほうが向いていて、いざという時に男性職員が助けるなどの連携をするのがいいと話してくれた。〉

この日のインタビューでも、取材時の写真などをプロジェクターで映しながら、大川さんにひとつひとつ、施設を訪ねたときの様子を聞いてみた。

ここはもう、すごいんですよ。最初は職員も殴られ、噛みつかれもする。ただ、この施設に入った利用者さんは、みんな手をつないで散歩するとか、独自の取り組みを通してだんだん暴れなくなり、障がいのレベルも下がるんですよ。それはとてもいいことなんです。が、ここに重大な問題があって。障がいの認定レベルが下がると、施設に支給される介護給付金が減額されるんです。

つまり、利用者の状態がよくなると施設の収入は減る。
「おかしいと思いませんか?」と大川さんは首をひねる。

ほかにも取り上げられている中には知的障がい者が参加する国際的なスポーツ大会を運営するひと、「障がい者の性」の問題に取り組んでいるひと、障がいのある人たちが描いた絵を会社や公共施設にレンタルする事業を展開する美術館、東海テレビ放送制作のドキュメンタリー映画『チョコレートな人々』(2022年・鈴木祐司監督)でも知られる「久遠チョコレート」の夏目浩次さんも取材している。

この日、大川さんが着ていたトレーナーの胸の画をじっと見ていると、「よく気づいてくれました。これはですねえ」福祉施設の利用者のクガショウヘイさんが描いた作品だという。

クガさんが描いた画を写真に撮り、シルクスクリーンで大川さん自身トートバッグなどにもプリントしているという。

ラインもやったことないのに、いちから勉強してベースを使ってお店をつくって、ええ、うちで販売もしています。じつは、プリントするのにあらためて原画を借りにいったところ、クガさんは「捨てました」というんですよね。ええっ!? 何で、と思うでしょう

大川さんがクガさんの作品を初めて目にしたときに、こんなに細かく描けるということに、すごいねえと言うと「あげます」とクガさんが言うので、「ダメだよ。大事にとっておかないと」と帰った。クガさんはどうも「いらない」と言われたと思ったのか。やむなく、そのとき撮っていた写真をもとにプリントしたのだという。

🔻こちらでクガさんの作品をプリントしたシャツなど見られます
https://ookawakogyo.base.shop/

「働く」をテーマにした最終章では、東海テレビのドキュメンタリー映画『チョコレートな人々』(鈴木祐司監督)でも紹介されてきた、愛知県豊橋市に本社がある久遠チョコレートに行かれています。

きっかけはですねえ、CBCラジオの番組のリスナーさんから教えてもらいました。久遠さんには、知的障がい者も、シングルマザーも、親を介護されている人も働かれていて。社長の夏目さんは障がい者にも最低賃金を出そうというので頑張っておられるんですよね。

これは『チョコレートな人々』からの受け売りだけど、チョコレートづくりは失敗しても溶かしてつくりなおせるというのと、障がいをもった人たちが働くことに適しているのは、量る、練る、切るとか作業を分割し、工程ごとのスペシャリストになることが可能という利点がある。

そう。たとえば、シイタちゃんという箱づくりのスペシャリストがいるんですけど。この彼がすごいのは、多動特性もあり、自閉症のため言葉でのコミュニケーションが難しいというので、「すごいねえ。なんで見ずに組み立てられるの」とボクは驚き心の中で話しかけている。そうすると、こちらの表情を読み取ってくれたんでしょうねえ。一言も会話はしていなかったのに、ボクが帰るというときに、作業を止めて見送りについて来る。突然のことに夏目さんも「ええっ。シイタさん、どうしたの?」と驚いていましたねえ。


久遠チョコレートの箱を組み立てるスペシャリスト、シイタさん。
下は、工場で働く人たちと大川さん。
(提供/大川興業、下も)


当日、取材現場の様子を説明してもらうのに、プロジェクターを使い背後のスクリーンに写真を次々と映していたのだけど、熱が入ると「ここ、ここです」大川さんが立ち上がって話しだす。配信ではそのたび大川さんの姿がフレームからハミ出ていたらしい。

2時間、客席からの質問タイムを交えながら、最後は大川さんからジャンケン大会プレゼントとサイン会で締めくくりました。

※3月4日(月)には、阿佐ヶ谷ロフトAでも、本の刊行記念イベントが予定されています。聞き手は大川さんと長年選挙取材を共にし、映画『NO選挙、NO LIFE』(前田亜紀監督)のメインキャストでもある畠山理仁さん。


左・店主の落合さんと話する
サイン会。
福祉施設に行くことが多いから、マスクは常時するようにしている
探検するようにズンズン、二階を観に上がる大川さん
当時の「現代の肖像」は本人がサインしたものを掲載していた。
このために大川さんは9000円の筆を購入し、畳大の模造紙に書いたという。
写真は、本公演の舞台のための小道具(マスク)の群れの中に入ってもらった。
撮影者(比田勝大直カメラマン)のアイデア。


大川豊(おおかわ・ゆたか)
1962年東京都生まれ。大川興業総裁。明治大学在学中にお笑い集団「大川興業」を結成。就職試験で153社不合格となり、85年大川興業株式会社を設立。芸人であるとともにプロデューサーとして若手芸人育成のためのライブ「すっとこどっこい」を毎月開催。政治経済ネタを得意とし、北朝鮮、イラク、9・11直後のアメリカなどを現地取材。東日本大震災、熊本地震などの復興支援活動も行い、近年は福祉・医療の現場にも赴き取材活動を続けている。著作に『日本インディーズ候補列伝』(扶桑社)ほか。


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