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Design for the future vol.1 - クリエイティブも新しい風をつくれる

世界で起きているさまざまな環境問題に対して、私たちがクリエイティブを通してどのように未来を見ているかを紹介する企画「Design for the Future」。東京・ロンドン・ニューヨークのmonopo各オフィスで取り組んだプロジェクトを通して、ブランド・エージェンシー・個人の役割を問いながら、私たちが学んだことを共有していきます。

第一弾は、monopo NYCのファウンダー小迫敏珂(こさこ・としか)による「クリエイティブも新しい風をつくれる」です。



クリエイターとして、リソースの使い方を今一度見直す。


世界各地でみられる急激な気候変動。私たちは今、未来のために環境について考えることが必要となりました。従来のビジネスの形や働き方を大きく変えることは、どの業界にとっても簡単なことではありません。では、クリエイティブ業界にいる私たちには、脅威的な外部変化に対応するために、そして未来のためにどのような変化を生み出すことができるのでしょうか?


クリエイターなら誰でも、一度はファッションや音楽業界の有名ブランドとのコラボレーション、また大型キャンペーンの企画を手がけることを夢見たことがあるのではないでしょうか。しかしそのプロジェクトによって一体どれだけの人がどれだけの期間影響を受け、行動を変え、社会にどのような恩恵をもたらすのか考えてみることで、私たちにとって意義のあるプロジェクトの指標が変わっていくかもしれません。


カルチャー・スポーツ・エンターテイメントの分野は、すでにクリエイティブリソースが集中しているとも言えるのではないでしょうか。クリエイターが「やりたがる」分野であるがために、クリエイティブへの予算が低いこともしばしばあります。自分がやらなくても、他にやりたいクリエーターはたくさんいる ー そのような状況を鑑みた時に、「今まで自分がしてこなかった選択」について考えてみるのはどうでしょう。例えばプロジェクトの目的を、単発的な売り上げ向上ではなく、長期的な意識を育てることに置く、など様々な選択肢が出てきそうです。


「業界全体の動きを変える」ほどの大それたことができなくても、個人として、クリエイターとして、選択できることがたくさんあります。そして私は、慣れ親しんでいた分野や手法から少し離れ、社会的に価値があると感じる新興分野のビジネスをサポートするということが、私たちにできるもっとも簡単なアクションではないかと思うのです。今回はmonopoで担当した二つの風力発電分野のケース・スタディを通して、新しい産業分野とのコラボレーションで得た具体的な学びを共有します。



1. Ørsted - 再生エネルギーへの変革

  • Ørstedとは

洋上風力発電をはじめとした再生可能エネルギーを世界的にリードし、最もサステナブルな企業にも選出されているエネルギー企業「オーステッド」。以前は石油のみを扱っていた「ブラック・エネルギー」の会社として知られていましたが、デンマーク政府の助けもあり、現在では完全に「グリーン・エネルギー」への移行を果たしました。彼らの勇気ある転換についてのストーリーは、あらゆる企業に対してインスピレーションを与えています。

  • monopoの考え

表現が制限されることが多い世の中だからこそ、クリエイター自身が境界線を超え、新しいことに挑戦する必要があるのではないかと考えました。そして「どんな未来を作るべきか」という広いレンズを通した時に、一つのサービスや企業だけでなく、業界全体や環境問題に対する人々に向けて語りかけるといった挑戦が生まれました。

本件はアジア市場における認知向上のためのプロジェクトでしたが、monopoではソーシャルメディア・Webサイト・屋外広告・テレビコマーシャル、そして地元の新聞に至る様々な媒体を、また一般市民から政府機関までの幅広い層の人々を意識したコミュニケーション戦術を企画しました。



2. PowerX - まだ見ぬ未来を想像する

  • PowerXとは

日本のスタートアップ企業「PowerX」は、誰も見たことのない新しい製品の開発に取り組み、クリーンな未来を創り上げています。「海のテスラ」とも呼ばれる彼らの事業もまた、洋上風力発電によって作られたエネルギーをつくる・溜める・運ぶことを目指しています。


彼らは海で作られたエネルギーを運ぶための運搬船を製造し、さらにそれらエネルギーを一般に広く使ってもらうための蓄電池をも提供することで、再生可能エネルギーによる電力を世界中に届けます。電気の燃料を運ぶ時代から、電気そのものを運ぶ未来への移行を可能にし、再生エネルギーが大規模に普及した未来をつくります。


  • monopoの考え

新しいチャレンジを試みるスタートアップにとって、広く一般の賛同や理解を得ることは簡単ではありません。monopoは革新的で未来的なPower Xの取り組みが、どのように私たちの生活をよくしうるのか、多くの人にわかりやすく伝える必要がありました。


PowerXの製品がどのように人々や地球に平和をもたらすのかを想像する際に、3Dアニメーターの孫 君杰(ソン・ジュンジイ)氏とのコラボレーションは不可欠でした。未来的であるけれども異質感のない、リアルだけれども静かなCGI表現によって、海で電力を運ぶ船の光景・大型蓄電池が日常生活にある様子・生産目的だけでなくコミュニティにもなりえる工場の形を可視化しました。



新しい風を起こすために。


これらのプロジェクトを通して私たちが学んだことは、「自分たちにも新しい未来を描くことでき、楽観的な未来を実現する上で重要な役割を担うことができる」ということです。


従来の広告仕事は、様々なビジネスや商品を面白く・魅力的に見せる仕事と捉えられることが常でした。歴史のなかで「クリエイティブ」が経済至上主義のツールとして発展することもあり、環境持続性よりも消費を助け、人の生活よりも利益に焦点を当てていた時代もありました。


今回取り上げたエネルギー産業は私たちの生活にとって欠かせないものの一例ですが、気候変動や経済不況・社会不安が問題となっている現代においては、クリエイティブを人間中心・環境中心に移行させる必要があります。


一人ひとりに影響力があり、誰もが未来をかたちづくる力になれること、そして自分の持つパワーに自信を持つことができれば、私たちは課題から目を背ける代わりに、小さくとも行動へと向かうことができるのではないでしょうか。


■ ライター : monopo NYC ファウンダー 小迫敏珂(こさこ・としか)

セントラル・セント・マーチンズにてコミュニケーションデザイン修士課程を習得中にカムデン区議会にてUXデザイナー・リサーチャーとして働く。
卒業後UXデザイナーとして、国内外の企業のサービスやプロダクトのコンサルティングおよび設計に多数従事したのち、2019年にmonopoにジョイン。クロスマーケットのブランディングやコンテンツ企画、また近年ではソーシャルインパクトの分野でのコミュニケーション設計を担当する。2021年よりmonopo New Yorkのファウンダー兼マネジング・ディレクター。2022年度Forbes Japan誌「30 Under 30」受賞。2023年より awwwards 審査員。




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