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monopoの新たな支社がパリに。プロデューサー友谷朝子が「monopo Paris」を立ち上げるまで。 - Vol.5 「ヨーロッパ遍歴」

2023年秋頃、クリエイティブエージェンシーmonopoは、パリに支社monopo Parisをオープンさせる。ロンドン、ニューヨーク、そしてサイゴンに続く5つ目の都市に進出することになるけれど、すごいスピード感じゃない?そもそも、なんでパリ?

「パリでチャレンジしたい」と自ら立ち上がり、monopo Parisのファウンダーとなったmonopoプロデューサーの友谷朝子(ともたにあさこ)さん(以下、朝子)。monopo Londonのコーファウンダーであるアートディレクター/デザイナーのメラニーさん、ストラテジストのマテイスさん(両者、以下敬称略)とタッグを組み、現在ロンドンに拠点を置きながら奮闘中。

3人に定期的にインタビューしながら、この海外支社設立プロジェクトを追いかける。

(インタビュー・執筆:常松亜子)

半年ぶりのベルリンにて

目下、ウェブサイトが着々と出来上がってきているmonopo Paris。チームフォト撮影も無事完了したけれど、どちらも現在最終仕上げ中で、お披露目まであと少し。そのため今回は少し趣向を変え、パリへの引越しを控え、ロンドンから一時ベルリンに“帰郷”中の朝子にインタビュー。

以前のインタビュー内でも教えてくれたように、朝子がmonopo Parisを設立する大きな理由のひとつに「自分の働きたい働き方をする」というのがある。今後、彼女がかたち作っていく「理想的な働き方」とは?そのエッセンスを探るべく、これまで複数都市で体験してきたさまざまな「働き方」について振り返ってもらった。

筆者常松と朝子、ベルリンにて

ー 大学を卒業してから4年間、東京でpoweredby.tokyoのプロデューサーとして働き始めたのがキャリアのスタートだよね。

朝子:そう。初めて動画制作とかをやり始めたのもこの頃。主にpoweredby.tokyoのオリジナルコンテンツを作ってた。その後、「もっとクライアントワークもやりたい」というので所属をmonopo Tokyoに移って、「たくさんの人といろんな世界を作り込むのって楽しい!」という感覚を知った。大学在学中からインターンもしてたけど、卒業してからは4年間。どうやって大きな案件を回すのかとか、形式に沿って仕事をすること全般、この間にすべて東京でひたすらがむしゃらに学んだよ。

ー その後ベルリンに拠点を移して……当時の働き方について教えて。

朝子:ベルリンに行って初めの一年間はフリーランスのプロデューサーとして仕事をしてたんだ。ドイツのスタートアップ企業とか老舗のプロダクションとか、いろんなクライアントがいて。私はシェアオフィスを借りていたんだけど、大体そこで19時くらいまで仕事をする。同じオフィス内のみんなも同じ感じだった。

で、帰り道にカフェとかバーに寄って物を書いてたんだ。なんでもかんでも、たくさん書いてた。「今日はこういう気持ちがあるから書き留めておこう」みたく。これが習慣化すると、心にも脳にもスペースができる。さらに、自分で書いたことを見返して「これはどういうことなんだ?」と向き合って深く考えられる。そんな「余白」がたくさんある働き方をしていた印象が強いな、ベルリンは!

湖がたくさんあるベルリン

ー それは意図してやっていたことなのか、それとも自然とそういう生活になったの?

朝子:午後6時、7時になったら見事にみんな帰るんだよね。というのも、仕事後に家で家族と過ごしたり、友達と川縁でビールを飲むとかっていうのはもちろん、例えば興味のあるエキシビジョンを見に行ったり、政治に関するディスカッションを聞きに行ったり。そういう各々の「自分の時間」のプライオリティがめちゃくちゃ高い。そんな人々を見ていたら、私も自然とそうなったのかな。で、それが私の場合は「仕事終わりにバーで一杯やりながら物を書く」だったんだよね。

ー ベルリンを離れた今でもその習慣は続けてる?

朝子:そうだね!頻度は減っちゃってるけど続けてるし、このおかげで自分の中にある思想との向き合い方と、そのまとめ方が少しだけ上手くなった気がする。例えば新しいプロジェクトの準備をする時でも、アイデア出しをしなくちゃいけない時とかも、“そうぞう”するのって“イマジン”の方も“クリエイト”の方も時間が必要。でも時間がいつもたくさんあるわけじゃないから、常に自分の思想をクリアにしておくことは大事。そのために「なんでも書く」という私なりのワザを発見できたのは、ベルリンのおかげ。

ー あくまでも自分の生活を支えるためにあるのが仕事であって。だからこそ、ベルリンに住む人は私生活と仕事の境界線がハッキリしてる人が多いよね。その内容がなんであれ、「これはお金のためなのか、それとも自分のためなのか」みたいな個々人の判断基準を持っていて。その判断基準はかなり人それぞれ。

朝子:みんなそれぞれの信念が強いし、それを強く主張しながら生きてるように感じるよね。周りの主張や信念に対してもオピニオンを持っていることがかなり当たり前。だからこそ、「自分が主張したいこと、曲げたくないところ、自分の信念ってなんなんだろう?」と感じる機会も多い。それについてすごく真剣に考えたわけではないけど、そういった自分の信念みたいなものを確立する隙がある街だったかな、ベルリンは。

あと、誰かが自分の信念を主張したときは、その場にいる全員が一旦それを大尊重する、みたいな傾向がある。まず否定から始めることは結構タブーで、「それしちゃダメでしょ」みたいな空気になる。個々人の信念が社会的に尊重されてる。それだからアーティストとかもたくさんいるんだろうし。

monopo x RadicalMedia パーティー

ー でもさ、「仕事」目線でいくと個々人の信念や主張が強い上に、労働時間は短い。ベルリンで仕事するのってすごく大変そう(笑)。全体を管理するプロデューサーのような立場の人にとっては特に……。実際はどうだった?

朝子:クリエイティブアイデアを考えるのって、止まることがないと思うんだ。頭の中で四六時中起きている。「あ、次はあの企画考えなきゃな」って、常に頭の片隅でなってるからさ。 ふと目にした映像とか、誰かが言ったこととかから「これだ!」みたいな。そうやって日常生活の思わぬところでひらめいたりするじゃん。あくまで私の経験上の話しかできないけど、そういうことを誰とでもフランクに共有し合えたから、むしろとても仕事がしやすかった。クライアントともそういったコミュニケーションを気軽に取れる分、進みが早いなと感じた。

これは、ベルリンに縦社会的なしきたりがあまりないからこそ。移民だらけの街で、働いてる人全員生まれ育ったカルチャーも違えば母国語も違う。必然的にそうなるんだよね。

ー なるほど。あとは、プライベートの優先順位が高いことが結果的に「仕事の効率向上心」に貢献してる部分もあったりすると思う?

朝子:どうなんだろう。ただ、確かに「仕事時間内に終わらせないと」っていう気合いは入る。早い人は午後5時とかに営業終了しちゃうから(笑)。

これは余談だけど、パリの人々も夕方にはきっちり帰る。夏休み期間もめちゃくちゃ長い。ちょうどこの間、monopo Parisでお世話になってる弁護士の会社が「8月いっぱいはお休みなのでまた9月に」みたくなってて(笑)。「期間中、オフィスは閉まっています。よろしく!」みたいな。全く機能しなくなる。でも、もうそういうものとしてしまえば、みんなそれに合わせるしかない。それでも世の中は回るし、仕事も実際にちゃんと回ってる。「こういう仕事の仕方もあるんだな!」と、目からウロコだったよ(笑)!

みんなそれぞれの思想の中でお茶をする昼下がり

ー ベルリンの人々も店も、ものすごく「営業時間」がハッキリしてるよね!「今日の営業時間は終了しました。私が個人的に興味のないことは今日はもう受け付けません。私の時間は私のためにあります」みたいな(笑)。

朝子:本当に。仕事終わりの付き合いとかももちろんあるけど、例えば金曜日の午後5時くらいになったら、「ビール飲み行く人ー!」みたいな感じで、あくまでも軽いノリ。それで行くか行かないかは、完全に自由。なぜなら、お互いにお互いの私生活をめちゃくちゃ尊重した働き方をするから。

俗に言う「仕事と私生活の間の線引き」って、どんなに個人的にすごく大切にしていたとしても、周りの人たちがこのバリューをどれだけ大切にしているかによって結構左右されてしまうものだと思う。その点、ベルリンではこれが社会的にとても重視されてる。

ー ベルリンの社会に馴染んだ働き方をしていたんだね。最後に、そんな中で日本人として感じたことについて教えて。

日本人の気遣いとか、やわらかいコミュニケーション。これって素晴らしいなと改めてすごく感じた。日本に帰ってみんなに会ったり、日本から旅行でヨーロッパに来ている人に会う度に思うのが、「やわらかくて肯定的だな」ということ。 日本人ってよく「そうなんだ」って言うよね。 まずは一旦、絶妙にポジティブに受け入れてみるところがある。平和ボケしてると言えばそうも捉えられるのかもしれないけど、良い意味でポジティブシンキングなんだと私は思う。自分の周りの世界と優しく接して感謝する姿勢というか。「有難い」という言葉にあるみたく、「これは決して当たり前じゃないんだ」っていう感謝の仕方とか。こういう哲学や精神は、日本にしかない日本らしい良いところ。

祖母のいる静岡へ向かう新幹線より

ヨーロッパみたいな個人主義のコミュニケーションでは、相手がどう捉えるかとか、「この会話の後にお互いが気持ちよく帰路につけるか?」とか、そういうのは二の次になることもある。確かにそんなの仕事には関係ないし、どうだっていいことなのかもしれない。でも、「みんなが気持ちよく会話を終えられるのか」「帰り道を良い気分で歩けるのか」「このプロジェクトを終えられるのか」みたいなのは、私的には結構大事にしていること。だからこそ、日本人ならではのやわらかな接し方というのは、世界のみんなにも体験してもらえたらいいなと思ってるよ。

こういうとこね

続くVol.6では、monopoのカルチャーでもあるチームフォト撮影について(次回こそは!)をお届け予定。どうぞ、お楽しみに。



monopo Paris Instagram: https://www.instagram.com/monopo_paris/

▼monopo Paris連載・Vol.1はこちら!


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