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monopoの考えるブランディング「見た目や世界観。それはブランディングの一部です。」

2021年秋から約1年間にわたり進めてきたアミークス社のリブランディングプロジェクト。monopoはステートメントの開発からロゴなどのVisual Identityを作成した他、クライアントの従業員がWebサイトや営業資料などを内製できるようにするためのブランドブック作成までを担当しました。
本記事では、課題発見からアウトプットに至るまでの一連の流れをインタビュー形式でご紹介します。

プロジェクトメンバー

左から…
 寺井 大騎 Project Manager - 進行管理
 田中 健介 Producer / Account Executive - プロデュース / 全体統括
 見目 拓也 Art Director / Designer - アートディレクション
 稲熊 智貴 Creative Director / Copywriter - コンセプト/企画設計・コピーライティング

※オンライン参加
 岡田隼 COO / CTO(本プロジェクトではStrategic Planner)

聞き手:石原

クライアントのご紹介
株式会社アミークス

アミークスは、掃除代行業者として1981年に創業して以来さまざまなマーケットを開拓し、車や家具、住宅・オフィスなどのリペア(修復)事業を全国でフランチャイズ展開している。
現在延べ1,000人を超えるフランチャイズパートナーと共に、リペアという価値観を日本に広めていくというビジョンを掲げている。



「本当に必要なもの」を徹底的に深掘りする

――アミークスさんの課題は何だったのでしょうか。

田中:「最初は、パンフレットや資料など制作物の見た目を統一したいというご相談でした。そこから『そもそもなぜ見た目を統一したいのか』という視点で色々掘り下げてお話を聞いていく中で、課題はもっと深いところにあることがわかっていきました。
アミークスさんは当時経営方針を転換していた頃で、既存のビジネスモデルを再検討したり新規事業の可能性を模索したりしていました。その中で会社として何か指針になるものが必要だと考えた時に、既存の理念は社内にあまり浸透していないことが見えてきて、改めて理念から設計し直すことになりました。」

岡田:「ブランディングというと見た目の世界観の統一が目的化してしまう企業が多いんです。でも中長期目線で考えると、それは根本的な課題ではないんですよね。本当に欲しいものや必要なものはなかなか自覚できないもので、そこを僕たちが探って顕在化させるようにしています。」

――根底の課題をふまえて、monopoさんはどのような提案方針を定めたのでしょうか。

田中:「各ステークホルダーの印象を変えるためには見た目の世界観の統一だけではなく、アミークスさん全体のブランドエクスペリエンスを向上させる必要があると考えました。ブランドエクスペリエンスは、例えばフランチャイズのオーナーがアドバイスを受ける時や、部署を跨いだ社員同士がコミュニケーションを取る時などの中で感じられるものです。
そのためには、従業員たちの意識や行動を変えていくことが必要でした。」

稲熊:「まずは皆が一緒になって目指す指針となる言葉を置くべきだと考え、パーパスを設定することにしました。パーパス、ミッション、ビジョンなどの定義は諸説ありますが、私たちはミッションやビジョンは企業が目指す未来を定義した理念だと捉えていて、パーパスは企業だけでなく企業を取り巻くステークホルダーや生活者が共に目指していくものだと捉えています。
従業員たちの意識や行動はもちろん、フランチャイズオーナーという事業パートナーを生み出していくためにもパーパスが必要だと考えました。」

――monopoさんに最終的に決まったのはどんなところが評価されていたからでしょうか。

寺井:「アミークスさんの依頼を受けて、奥底の課題まで掘り下げて視野を広げた提案を最初にしたのがmonopoだったんです。そこで信頼していただけたのかなと。
あと今回の提案のポイントは『アミークスさんと一緒に作っていくこと』だったんですが、それが実際にできる体制がmonopoにはあったところと、コミュニケーションの取りやすさを提案段階で感じていただけたところだと思います。」

約4ヶ月超にわたってインプットと発散を重点的に行う

――実際にプロジェクトをどう進めていったのか教えてください。

寺井:「全体の流れで言うと、次のようなスケジュールで進めていきました。」

1. リサーチ:約1.5ヶ月
2. アンケート:約3週間
3. インタビュー:約1.5ヶ月
4. ワークショップ:約4ヶ月
5. ステートメント作成:約2ヶ月
6. ブランドガイドライン作成:約3ヶ月
7. ロゴ作成:約2.5ヶ月

※並行して実施している期間あり

田中:「リサーチからワークショップまでのインプットにはかなり時間をかけました。ワークショップの前に従業員一人一人とmonopoメンバーで、1組45分程で計20組くらいの1on1を行いました。
一人一人の声を聞くことの一番の目的は、今回のブランディングプロジェクトに従業員の皆さんを巻き込むことでした。もちろんそれぞれの意見も参考になることはあったのですが、その最大公約数を作りたいというわけではなくて。今までのミッションがトップダウンで作られていたものだったというのもあり、今回は従業員の方々に『自分たちが関わって作った』という意識を持ってもらうことが重要なことでした。」

従業員全員を巻き込むことを狙ったワークショップ

――ワークショップはどのような設計で行われたのでしょうか。

稲熊:「ワークショップは当初3〜4回行う予定だったのですが、人事部からせっかくならカルチャーについても議論したいというご要望があり計6回実施しました。
各回ごとにチームやテーマを変え、カルチャー・事業・理念設計について議論しました。毎回最後には各チームによる発表の時間を設け、チーム内だけではなく全社で認識を合わせていくことを重ね、ワークショップ最終回ではパーパスの案について収束させていきました。
パーパスについてはコピーライターである僕が最終的に言語化する役割ではあるのですが、今回は従業員の皆で決めるというスタイルを重視していました。というのも、以前の理念は役員たちだけで決めたもので、従業員たちの間で『見えないところで勝手にまとめられる不満』が出ていたようだったので、今回はそうならないようにと意識しました。」

――ワークショップを盛り上げるために工夫した点はありますか。

田中:「ワークショップ中のルールを定めました。活発に意見が出るように否定するのはダメだよ、とか。チームビルディングでも人事部の方と相談しながら、役職者と若手や普段なかなか接点のない人同士を組み合わせたりなどかなり気をつけていました。」

稲熊:「monopoも実際に各チームのメンバーとして入ってファシリテーションをしたり意見を述べたりしました。いつもの何倍もテンション上げて(笑)、チームの中で一番元気に振る舞うように意識してました。」

ワークショップのルール
ワークショップ中の様子(1)
ワークショップ中の様子(2)

アイデンティティを残しながらも未来を描く言葉とビジュアルに

――アンケート、インタビュー、ワークショップ…とたくさんの情報が集まったことだと思いますが、そこからどのようにステートメントに落とし込んでいったのでしょうか。

稲熊:「まず大事にしていたのが、ステートメントを作ることが目的ではなく、アミークスさんの社内に浸透して従業員が行動に落とせることが目的だったので、従業員の皆さんが『自分たちが決めた』と思えるものを残したいということでした。ワークショップの発表会である程度核となる部分は見えたので、それをベースにしつつ共感性が高かったものを素材としてピックアップしました。アンケート含めてヒアリングに長い時間をかけてきたので、さまざまな意見が混ざり合う感じをなるべく出したかったんです。実際に『アミークスらしさ』を表現するいい言葉たちは従業員の皆さんからたくさん出てきていました。
結果、提案したコピーは一度で納得感を得られスムーズに決まりました。提案時には拍手もたくさんいただいて。僕自身がワークショップで実際に従業員の方々の声を聞いていたので、認識や目線も合わせられていたのかなと思います。」

――言葉を作る上でどのような思考やプロセスを踏まれましたか。

稲熊:「ワークショップも踏まえて色々と見えてきたアミークスさんのアイデンティティがあったので、それは残しつつも次の未来へ繋がるような言葉にすることを心がけました。創業から約40年間積み上げてきた過去と現在、そして今後変わっていくかもしれない未来で矛盾が起きないように、アミークスだからこそ進んでいく方向が描けたらいいなと思いました。今回コアとなった『つなぐ』という言葉はそんな考えにはまりましたし、アミークスさん側からの納得感も得られました。」

パーパスの他にも、ミッション、バリュー、カルチャーの言葉も作成しました。

――ロゴやブランドブックなどビジュアル面の制作において考えていたこともお聞きしたいです。

見目:「今回のメインの言葉である『つなぐ』をどうビジュアライズするかをまず考えました。『つなぐ』は言葉としての難易度は低くとてもシンプルでわかりやすいものなので、ロゴもシンプルにしようと思いました。
私もワークショップに参加させてもらって感じたことなんですが、アミークスさんには複雑で難解なロゴはあまり刺さらないなと。複雑なロゴは扱うのが大変で、従業員全員が会社の共通理解を持っていないと運用が難しいんです。今回のプロジェクトでようやく皆さんの意識が揃い始めてきたという段階でまだスタートラインに立ったところです。これから変わっていくという余地を残すという意図もありシンプルなロゴになりました。」

(従来のロゴ)

見目:「以前のロゴはエンジ色でしたが、なぜその色なのかという意図はあまり感じられませんでした。ロゴの色を変えるというのはなかなか勇気のいることだと思いますが、ワークショップを重ねて従業員の皆さんの中に『変わっていく』というマインドができていたのでここでも抵抗がなかったのかなと思います。 今後アミークスさんはテクノロジーを使ったDXや先進性のある新たな事業を展開したいというお話があったので、新しいロゴやコーポレートカラーにはそのような印象を持たせられる青色(ロイヤルブルー)を選びました。」

(ブランドブック表紙)

見目:「ブランドブックは採用面接や入社の時によく見るものだと思いますが、それを見て『いい会社に入ったな』と従業員が自尊心を持てるものにしたいという思いがあります。単に見やすくきれいにまとめるというよりかは、それが実現できるように気をつけていますね。」

稲熊:「個人的によかったなと思ったのが、アミークスのカルチャーを4つの言葉にまとめて『4 LINES』と名付けたんですが、そのビジュアルを見てめっちゃいいなと思って。LINEには『セリフ/言葉』や『つなぐ』という意味があります。そのニュアンスを『#』を模したアイコンにしたり4色でわかりやすく分けたりしてよく表してくれたなと。」

プロジェクトを通して従業員の会社への向き合い方が変わった

――プロジェクトを終えて、アミークスさんからの反応はいかがでしたか。

寺井:「ありがとうございます、は言われました。」

全員:「そりゃそうでしょ(笑)。」

稲熊:「長い時間をかけてアミークスさんも真剣に取り組んでくださったので、特にステートメントができた時には『感無量です』、『語り甲斐のあるものができました』と言っていただけました。僕自身も感無量でした。
あとはワークショップを通してカルチャーや従業員の会社への向き合い方は絶対に変わったという自信はあります。ワークショップの序盤ではなかなか意見が出しにくい雰囲気でしたが、回を重ねるに連れて若手の従業員さんがはっきりと意見を言ってくるなど会社に対する解像度が上がっている感じがしました。そのためにプロセスから従業員の皆さんに入ってもらっていたというのが狙いで、今回のプロジェクトで一番大事なアウトプットだったと思います。」

田中:「アンケートやワークショップを行った3〜4ヶ月の間は、従業員の皆さんにとって多分今までで一番会社のことを考えることになったのではと思います。そのために僕らからも結構課題を出していました。」

見目:「今回、コピーもビジュアルも提案がすんなり通ったのはありますね。それだけ最終的にはmonopoに対して共感や信頼をしてもらえたのかなと。
あとは従業員の皆さんのマインドが変わった感じはあります。以前のロゴがプリントされたネクタイがあるようなんですが、新しいロゴができてそういうアイテムはどうしたらいいかなどの相談もくれたりして、『変わっていこう』というマインドになったんだなと感じました。」

寺井:「Webサイトも今後リニューアルを検討されているようで、外向けにも発信していく動きはありそうです。」

COLLECTIVE CREATIVITYの精神で、クライアントのクリエイティビティに寄り添う

――最後に、「monopoの考えるブランディングとは」についてお一人ずつ聞かせていただけますか。

稲熊:「『ロゴなどの見た目の統一をするのがブランディング』だと思っている人はmonopoには1人もいないんじゃないかと思います。例えば取引先の人と商談する時にどう接するのかもブランディングの一つです。今回はそういったインナーブランディングの部分にもフォーカスして企業理念から変えていこうと提案しました。
今回のアミークスさんでもそうですが、ブランディングは作って終わりではなくスタートラインに立ったところで、ここから浸透させていくことが本番です。」

田中:「『ブランディング』自体が抽象的な言葉ですよね。クライアントはブランディングをすること自体が目的になっていることも多くて、何のためにブランディングをするのかが見えていないのです。見た目を整えることは目的じゃなくて手段です。
会社の周りの人たちにどんなイメージを持ってもらってどんな体験をしてもらうのかがブランディングの目指すところで、そこまでをクライアントと一緒に考えて作っていけたらいいなと思います。」

寺井:「monopoって巻き込み力が強いと思うんです。音楽やお酒好きの人たちが集まっていて皆でvibesを合わせてやっていくカルチャーがあって、相手の領域にも踏み込んでいくしこちらにも呼び込む。今回もアミークスの従業員さんたちと一体となってプロジェクトを進めてこれたのは、そういうmonopoのカルチャーがベースになっている気がしますね。」

見目:「ブランディングはすごく不確かなもので、『スケジュールは生き物』という考え方と似ていると思うんですよね。ブランディングはなぜこの世界でそのビジネスをするのか、なぜこの会社で働くのかということを追求していくことなので、時代が変われば考え方も変わるだろうしトレンドが変われば出し方も変わるだろうし。正解がないからこそ悩ましいものです。
だから、『一緒に頭を悩ませてくれる友達を作る』が最適解なのかなと思います。どこまで一緒に頭を悩ませてくれるかがクライアントの判断基準になるんだろうなと。」

岡田:「monopoは自分たちのことをCOLLECTIVE CREATIVITYと言っています。creativityはクリエイターだけが持っているものではなくて、世界中の人々、おじいさんや赤ちゃんでも持っていて、何かを楽しくすることや効率化する時に発揮するものだと考えています。それを世の中に出していくことやそれに価値を付けていくことがmonopoの存在意義なんですよね。
ブランディングとは、他と違うということを世の中やその会社のお客さんなど周りに理解してもらうことだと思うんですが、それを作っていくのがまさにmonopoのパーパスと合致してるんです。クライアントのクリエイティビティに寄り添うということですね。
今回は、アミークスさんのクリエイティビティを改めて世の中に伝えていくことを目指したプロジェクトでした。古いものをリペアして使っていこうとの思いで起業した人がいて、その商売が今も続いていることをきちんと世の中に価値付けしていく。そして今まで従業員がどう取り扱ったら良いか困っていたミッションやビジョンを改めて言語化し、価値あることをしている従業員たちのことをサポートしていく思いで取り組みました。」


monopoの「COLLECTIVE CREATIVITY」の思想についてはこちらもご覧ください



インタビューの中で何度か出てきた「これで終わりじゃない、ここからがスタート」という言葉。「ブランディング」の解釈が多岐にわたる中で、今回の事例からmonopoがブランディングをどう捉えてどんなアプローチをするのかが見えてきました。
“見た目を格好良くする”以外にも、ブランディングで解決できることはあります。社内で何かしら課題が出てきた時にはまずお気軽にmonopoにご相談ください。

お問い合わせはこちらから


インタビュアー・執筆:石原杏奈 (@anna_ishr
撮影:馬場雄介 Beyond the Lenz (@yusukebaba




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