シャアは極左:1

「そがな昔の事、誰が知るかい」

政治思想の世界において「赤」は社会主義・共産主義の色と相場が決まっている。

中国も、ソ連も、ベトナムも国旗の色は赤。日本共産党の機関誌は「赤旗」。フランス革命で「赤旗」がシンボルとして使用された事が由来だと言われており、その意味は、肌の色を問わず全人類の血は赤である、という事。反共組織であったナチスにも赤色が使われていたけれども、彼らも国家社会主義という名の社会主義なんだね。

さて、赤といえば。そうだね。赤い彗星、シャア・アズナブルだね。

機動戦士ガンダム(一般的に1stと呼ばれている)は基本的にあんまり政治思想の絡まない作品なんだけど、っていうかプラモデル売りたいからバンダイが作らせたロボットアニメなんだけど、ここからZ、ZZ、逆襲のシャアまで流れで観ると原作者である富野由悠季の思想がふんだんに織り込まれているのがわかってくる。

因みにキャラクターデザインの安彦良和さんは弘前大学の全共闘出身。バリバリの革命戦士として活動し、弘大本部を3週間占拠した罪で逮捕され除籍に。連合赤軍の植垣康弘さんとも交流があったそうだ。Yeah!めっちゃ極左!

で、原作者の富野さんはというと、この人も全共闘世代なんだけど左右どちらの運動にも参加せず、中立を貫いたんだと。いわゆるノンポリだね。ただ、全く興味ないかというとそうでもなくて、渦中にいる事を敢えて拒否した、いわゆるノンセクト・ラジカルの部類に入るんじゃないだろうか。

過去のインタビューを読み解くと、富野青年は「左右どちらも過激になりすぎるとヤバい」という割と当たり前の結論を早々に出している。更に「体制なんか学生運動では倒せない」と諦観している。いわゆるシラケってやつだろうか。そういう第三者的な視点から「人はわかりあえる筈だけど、結局はわかりあえない」という事を描いたのがガンダムだったんじゃないかな。

まあ、最初に書いた様にこの作品、大前提として元々はバンダイがプラモデル売る為のアニメ企画でしかない訳だけれども、ロボットウォーをダシにして言いたいことを言ってやろう、やってやった、というのが富野スタイルって訳だ。そこにシビれる!あこがれるゥ!

で、いよいよシャアの話、と思いきや、ここからがモノローグだ。

「やれんのぉ、わいらのやること、いちいちケチつけられたんじゃ」

機動戦士ガンダムは、地球の人口が増加し、人工居住地スペースコロニーに住まざるを得なくなってから半世紀、という時代背景で始まる。

地球から人が溢れると、地球に居られる人と追い出される人が出てくる。これはわかるね?それがどういう振り分けでそうなったかはわからないけれども……。おそらく、かつての日本におけるブラジルへの移民政策に似たようなものだったんじゃないかな。上手いこと言われて騙されたか行かざるを得ない事情があったか、いずれにせよ結果として追い出された人々がスペースコロニーで暮らす宇宙移民、つまりスペースノイドと呼ばれる事になったって訳だ。

人類が宇宙に居住し始めてから半世紀後の世界において、地球に住む人は特権階級、スペースノイドは被差別民という色分けになっていた。

地球に住む人々(アースノイド)はスペースコロニーで生産された資源・財産を吸い上げるだけでなく、自らの利権を拡大し、開発を繰り返して地球を汚染させていった。地球を統括する国家「地球連邦」は明確に利権の象徴だ。彼らは伝統を重んじ変化を嫌う。宇宙がどれだけ住みよくなっても、絶対に地球から出ようとはしない。いわゆる保守派の土地持ち・お金持ちって事だね。

翻ってスペースノイドは、やむなく宇宙に放り出された人達だ。彼らにしてみれば地球人の存在は面白くない。植民地のような扱いを受け、人としての尊厳をも奪われた。そんな状況の中、過酷な宇宙環境に進出・適応する事で、人は生物学的にも社会的にもより進化した存在になれる、と考える者が出始めた。これがニュータイプ思想だ。

「そうでも思わにゃやっとれんよ!」
「ワシらは宇宙にも順応できたんで?地球人には無理じゃろうが!」

というのが彼らの本音だろう。ニュータイプの存在は、つまりはスーパー・スターであり救世主だ。新たな価値観の創出によって、虐げられた我々を救い出し、導いてくれる存在。そのような存在は必ず現れる、と信じられた。そして、この思想はいつしか被差別民であるスペースノイドの心の拠り所になった。「ジオニズム」と呼ばれるものだ。

これを提唱し、指導したのがジオン・ズム・ダイクン。つまりシャアの親父さん。

しかし、この「ジオニズム」の中に、過激な思想を持つ者が現れたんだ。

「お前ら構わんけ、地球連邦をササラモサラにしちゃれい!」

それがザビ家。ジオン・ダイクンの側近で政治家として大きな富と権力を持つ一家だ。彼らは理想と展望だけじゃメシは食えねえよ、とばかりに穏健派のジオン・ダイクンを暗殺し、権力を掌握。民衆を扇動して味方につけ、密かに軍備を整えてジオン公国を名乗り、地球圏に宣戦布告をしたって訳だ。

「地球人はカスじゃけえ!皆殺しにしちゃるけん!」
「地球人を掃除してな!地球をキレイにするんじゃ!エコクリーン大作戦じゃけえ!」

元々スペースノイドは被差別民であり、何もしないと痩せ枯れていくだけの人達であった。だからザビ家の過激な思想は大衆に支持されたんだね。優秀な指導者によってドラマティックに変革を起こす。これは左翼思想のシンボリックな現象だけど、革命思想が大衆に浸透する頃に陳腐化していく好例でもある。

戦争するのに、これぐらいの理由があれば充分だ。哀しいことに現実世界も同じだ。これがガンダムのテーマだと思う。

あれ?ニュータイプどこにいった?そう、この時点でニュータイプ思想はどこにも存在しない。

「ジオン・ダイクンはああ言うとったがよ、ニュータイプなんて出てこないじゃないの!ありゃウソじゃ!」

ザビ家はそう考えていた。恐らく民衆も薄々と気付いてた。ニュータイプが出現しないことに対しての苛立ちを地球への憎悪に付け替えた、という風に考える事もできる。これがまさに思想の陳腐化と言うべきもので、ニュータイプは建前としての存在に貶められてしまったんだ。

ザビ家によって変質させられたジオニズムだが、一人だけニュータイプの存在、そして、ニュータイプによる人類の変革を信じてやまない人間がいた。それがダイクンの息子、シャア・アズナブルだ。

(続く)


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