ジェットタオル

ジェットタオルの音が苦手だ。
今でこそ平静を装って使用できる程度には大人になったが、小さい頃はあれがかなり苦手だった。音も怖ければ、使い方もなんか難しい。中で上手に手を動かさないと、乾くのにかなり時間を要する気がする。わたしだけ?
あの起動時の「…ォブォォオオオオ―――」という音がもう怖いし、その音量がずっと継続されるのも怖い。1度音が終わりかけたのに、センサーが反応して再起動する時なんてジェットタオルが定めた時間通りに手を乾かすことができなかった!と泣きそうになるし、使っている間ずっとトイレ内に音が響いているのも嫌だ。特に大きなトイレだと、その時近くで手を洗っている何人もの人に自分のジェットタオル技術の無さと騒音を撒き散らしているのだと思うともう、辛くて辛くてたまらなくなって、すぐにそこから逃げ出したくなる。でもジェットタオルを数ターン分使った挙句、結局びしょびしょの手のままその場を後にするだなんて1番恥ずかしいのだから、1度手を入れたら最後、パサパサに乾くまで音を鳴らすしかない。

ここまで書いていて、ふいにイタリアの「真実の口」が思い浮かんだのだが、もしかするとジェットタオルが怖いのはあれに近いのかもしれない。口のように開いた機械の中に手を入れると大きな音とともに強風が吹き荒れる。なんだか食べられてしまいそうで、幼い少女であったわたしにとってはそれが怖かったのかもしれない。いくらそれがお化けではなくて手を乾かす機械だと分かっていても、何人もの大人がなんてことない顔で使っていくのを見ていても、万が一にも自分の時だけこの大きな音を出すものが牙をむいたら……そう考えると怖くてたまらなかったのだ。まあ、今はそんなことないし、単に大きな音が怖いだけかもしれないけれど。

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