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01-3 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

ホルモンの森に消えゆく人たち
01-3 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

寺田ひろみは無気力になり寝てばかりいた。

引きこもりの日々が続いていた2006年春のある午後、ここの家主であり元同居人でもあったユーコが心配して部屋に押しかけてた。

「居るなら内鍵は締めておいた方がいいよ。」
ユーコは合鍵で入ってきて、散らかった部屋を呆れてながめ、それから、ベッドで横になっている寺田ひろみと目を合わせた。
「ひろみ、あんた携帯も繋がらないから…心配したよ!」
「……ごめん…」
寺田は気怠そうにベッドからゆっくり起き上がった。

この住まいはもともとユーコが暮らしていた。
表参道に面した老朽化した集合住宅の3階の一室。
10年前に寺田か転がり込みこんでそのまま居ついてしまったのである。
8年前ユーコが結婚したため、それから寺田は一人で住んでいる。

この住宅は取り壊し計画があるのだが、立地のわりに家賃が安いので、なかなか居住者が出ていかない。

出ていけば新しい入居者は募集せずに空き部屋にしておくらしいのだか、居住者のまた貸しが横行しいて、すべての部屋が埋まっている状態なのだ。
古い造りで少し不便な面もあるのだが、アンティークな雰囲気があり、出窓からは銀杏並木が見られる。
1Fにはオシャレな店が軒を連ねていた。ユーコが用事でこちら方面に来るときは、かならずここに立ち寄ることにしている。
借主が自分名義になっていることもあるが、どうも寺田はユーコにとって目が離せない存在になっていた。

離れで猫を飼っているような感覚にどこか似ている。

illustration:holmium

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