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01-8 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

はじめに

この小説は、私MONTANとholmiumによるユニット「Dos Gatos」4枚目のアルバム「ホルモンの森」から派生してできています。https://note.mu/dosgatos/m/m81afbc35a2f7

ホルモンの森に消えゆく人たち
01-8 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

寺田ひろみが失踪してからひと月が過ぎようとしていた。

手掛かりはまるで無し。警察もお手上げの状態だった。

ユーコは、何もかもなくなった部屋に、

木製のテーブルと2脚の椅子を設置して仕事をここでするようにした。

もしかしたら、寺田がひょっこり戻ってくるかもしれないと思ったからだ。

仮眠用に淡いベージュのソファーベッドも追加した。

寺田がいなくなった日が遠のくほど、物が少しずつではあるが増えてくる。

渋谷にある総合占い館で営業している予約制占い業務の数を減らし、

それ以外はここに来て12月発売予定の本の書き下ろしページ分の執筆活動に充てていた。

事情を知らない編集担当がここに来た時、物があまり置かれていないので、

「アンティークなスタジオのようですね。」

と言って老朽化した部屋を興味深げに見まわしていた。

「カメラマンを用意しますので、ここで撮影した写真も掲載しませんか?」

と持ちかけられたのだが、あまり気乗りはしなかった。

寺田との思い出の場所を見知らぬ人に荒らされるようで嫌なのだ。

ユーコは始め断ったのだが、担当者の情熱に負けて、

1日だけならばということで承諾をした。

そんなある雨の日の午後、その部屋でユーコは寺田との接点を模索するために

自分自身の占いをしていた。

ユーコはこれまで寺田に対して本格的に占ったことがない。

生年月日が不明だったせいだ。

テーブルの上に、残されたCDを置き、傍らにメモ書き。

寺田ひろみと出会った日:1996.04.14 日曜 晴れ

寺田ひろみが失踪した日:2006.05.15 月曜 曇り

数字を見ると面白いことに気が付く。

年はぴったり10年後、414と515は回文的でありひと月のずれ。

天候は晴れから曇りへとひとつズレている。

何か関連性を強く感じる。

特注のタロットカードの寓意画が描かれた22枚の大アルカナをテーブルに伏せて置き、

右の手のひらをのせ時計回りに4回、逆回りに4回、円を描くようにカードを混ぜる。

次に左手のひらに変えて5回同じことを繰り返した。

それから無作為に1枚のカードを選び表面を開いた。

正位置の「隠者」。

見えないものを探す…。その言葉がすぐに浮かび、ユーコは気を高めて瞑想し何かを感じ取ろうとしていた。

ふと磯臭い匂いがしてきた。頭の中のスクリーンに映し出される漁港の風景。

断片的に映像が流れる…バスケットボール、女子校生、突然の闇…。

「ピンポーン」

突然呼び鈴がなった。

ユーコは現実に引き戻された。

(ひろみ?帰ってきたの?)

慌てて玄関のドアを開けると、そこに居たのは初老の男だった。

薄手のスーツはグレー系で、中のシャツは薄紫。ノーネクタイ。

地味で渋い感じの小柄の紳士。

「日浦です、元刑事の…。ご無沙汰しております。覚えておりますか?」

黒い折りたたみ傘を閉じてる。茶色のショルダーバック。

そのベルトが食い込む肩口あたりが雨に濡れていた。

「ええ、もちろんです」

10年前、寺田ひろみの身元を調査していた刑事だった。

2年前引退したが、今回の寺田ひろみ失踪のニュースをみて、

どうしても渡したいものがあるというのでやって来たのだという。

ユーコは中に入ることを進めたが、日浦は頑なに拒否した。

玄関前の共有スペースの向こうの木々の葉に雨が強く当たる音がしていた。

2メートルほどのスペースに雨水が入り込んできている。

茶色い鞄からクラフト紙でてきた厚みのある封筒を取り出し、

半ば強引な態度でユーコに手渡した。

「10年前の捜査とはまったく関係ありません。それだけは確かです。

ただ、貴女に渡すべきかどうか、ずっと悩んでおりました。」

日浦は困惑した表情でそう告げると、右手の階段方向に向かい、

そそくさと立ち去ってしまった。

ユーコは、まるで厄介者を押しつけられたような気分になり、

しばらくその場で呆然としていた。

やがて、ユーコは占い途中のテーブルの上に、少し雨に濡れたその封筒を置いて、マルタックのひもをぐるぐるとほどいていった。

中には、黒い太ひもで綴じられた古いA4用紙の束。

ユーコは取り出してパラパラとめくってみる。

鉛筆で書かれた報告書の草案のようであった。

寺田博子に関して数ページにわたる記述と写真のコピー。

10年前の捜査段階で記録していたものらしい。

内容から察して、署には提出されなかったものだと思った。

18歳当時の寺田博子と思しき女子高生の上半身のモノクロの写真のコピーがあった。

おかっぱ頭の純朴そうな雰囲気が、なんとなく失踪した寺田ひろみを連想させた。

最後のページに彼女が住んでいたと思われる住所が書いてあった。

千葉県大原町●●●●

漁港の町、先ほどの占いのイメージと同じであった。

illustration:holmium

01-9 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合(最終話)

01-7 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

マガジン「ホルモンの森」https://note.mu/dosgatos/m/m81afbc35a2f7

ホルモンの森:第1話:ネコネコの森に帰って来たよhttps://note.mu/dosgatos/n/n10596e3bf6e3?magazine

Dos Gatos ホームページ http://holmium201312.wix.com/dosgatos

ブログ◆ユニット曲 迷子のツインスター「ホルモンの森」よりhttp://montan18.blog.fc2.com/blog-entry-284.html

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