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01-5 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

はじめに
この小説は、私MONTANとholmiumによるユニット「Dos Gatos」4枚目のアルバム「ホルモンの森」から派生してできています。

ホルモンの森に消えゆく人たち
01-5寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

「例の楽曲提供の話、断っちゃったんだってね。」
二人は居間でアフタヌーン・ティーの紅茶を飲んでいる。
ライトグレーのスウェット上下のままの寺田は黙ってうなずき、ティーカップに息を吹きかけていた。
「相変わらずの猫舌ね。アイス・ティーにすればよかったかしら?」
「ううん、大丈夫。」
床には読みかけの雑誌やらコミックが乱雑に置かれている。
モスグリーンの柱の時計は午後3時。

「ひろみねぇ~、こんな生活をしていたら、ほんとうに猫になっちゃうよ。」
ユーコは気を使って、ひろみの具合の様子をうかがっていた。
「それも悪くないね。夢の中で違う自分になっていた気がするんだ。このごろ、寝るのが楽しみになっちゃって…」

寺田はナイーブというか打たれ弱いというか…そんな内面を抱えつつ、子供っぽく無頓着でズボラな性格をあわせ持っている。

ユーコと初めて会った時、寺田は過去の記憶を失っていた。名前だけは覚えていた。年齢も実のところ分からない。あったときは18歳から20歳くらいかなぁとユーコは思っていた。一緒に暮らすようになって、仮の身元引受人になったが、一向に素性は分からないまま、ずるずると来てしまった感がある。

警察の捜査は最初の数カ月で打ち切られたんだと思う…
その後なんの進展もなかった。
当時、探偵を雇うほど金銭的な余裕はなかったし
検査のために病院も勧めたが、寺田は激しく拒否した。
その内本人がなにか思い出すだろうと、ユーコはたかをくくっていた。
共同生活に支障はないし、むしろ気兼ねをしない良いパートナーであった。
純朴、悪く言えば世間知らずな寺田に対して、ユーコはいろいろ教えてあげた。素直に自分好みに変わっていく寺田を妹みたいに可愛く思うようになっていた。母性本能をくすぐられるというか、ファッション、メイク、髪型、香水などなど…寺田はどういうわけか、柑橘系の匂いが苦手だった。バニラのような甘い香りを好んだ。そこは自分と違うなぁと思うが…。

ユーコはなんだかお人形遊びをしているような感覚になることが楽しかった。それでも寺田が時折見せる独特な感受性は、ユーコをハッとさせる。
音楽の才能はすごい。一度聴いた曲はすぐに覚えてしまうし、サイレントギターで再現してしまう。(住宅事情で、アコースティックギターだと近所迷惑になるので禁止にしている。)
作曲する時も思いつくと、言葉と同時にさらっとできてしまう。
シンガーソングライターってみんなそうなのかな?とユーコは最初思ったが、すぐにそれが特殊なものだと気付かされた。

illustration:holmium

01-6 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

01-4 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

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マガジン「ホルモンの森」

https://note.mu/dosgatos/m/m81afbc35a2f7

ホルモンの森:第1話:ネコネコの森に帰って来たよ

https://note.mu/dosgatos/n/n10596e3bf6e3?magazine_key=m81afbc35a2f7

Dos Gatos ホームページ http://holmium201312.wix.com/dosgatos

ブログ◆ユニット曲 迷子のツインスター「ホルモンの森」より

http://montan18.blog.fc2.com/blog-entry-284.html

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