01-6 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合
はじめに
この小説は、私MONTANとholmiumによるユニット「Dos Gatos」4枚目のアルバム「ホルモンの森」から派生してできています。https://note.mu/dosgatos/m/m81afbc35a2f7
ホルモンの森に消えゆく人たち
01-6 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合
2006年5月15日・月曜日、東京は曇り空。
日課の早朝散歩の途中、寺田ひろみは森の中で道に迷っていた。
「あれぇ、おかしいなぁ〜。そろそろ木の上にビルが見えるのに…。」
家主で元同居人のユーコの勧めで始めた早朝の散歩である。
この森は何度も足を運んでいたのに、こんな事は今までなかった。
いつもなら新緑の木々の向こうに、高層ビルの頭が見えるはずなのに…。
そこには青々とした空が広がっているだけだった。
(あれ?いつの間に晴れたんだろう。)予報では終日曇りのはずだった。
クヌギの木が多く目立つようになり、間を埋めるように低木が増えてきた。
雑草の高さが増し、道が獣道の様に狭くなってきた。
(おかしいなぁ〜、一本道だから迷うはずないのに…。どこかで変な所に入っちゃったのかもしれない。)
寺田は元来た道を引き返すことにした。
だが行けども行けども風景が変わらない。
まるで同じところをぐるぐると回っているような感覚になった。
脇の下から気持ち悪い汗が流れる。
小さな青いリュックから携帯電話を取り出してユーコに連絡をしようと思った。
困ったときは、すぐユーコに連絡するクセがついている。
寺田は携帯音痴で電話番号登録もユーコにやってもらった。
だが何の反応もない。
電話が通じない。
ようやく電波が届いていないのに気が付いた。
「そんなバカな…街中にある森なのになぜ!?」
寺田は頭が真っ白になった。
突然のハプニングでまともに考えられない。
時間もわからない。まだ午前中だとおもう。
思うだけだが、携帯電話の時計はAM3:00。
時間が戻っている…!?
「携帯が壊れただけよ…。」
寺田は背筋に寒気を覚えた。
「誰かいませんか~!」(誰かいませんか~!)
「誰か~!」(だれか~!)
小さく木魂が帰ってくる。
シ――――ンと静まり返った森。
寺田はそこに立ち止まったまま泣きたくなった。
「東京の森で遭難する?あり得ないでしょ!」
なんだか怒りもこみ上げてきた。
(そうだ、夢だ。これは夢なんだわ。)
喉がカラカラに乾く。
噴き出た汗が着衣に纏(まと)わりつき体を冷やす。
とてもリアルな夢…いや現実…?
そのうち、左の方から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
鳥のような鳴き声。
[コッチャ・コイ][コッチャ・コイ]
[コッチャ・コイ][コッチャコッチャコッチャコッチャ]
寺田は誰かに呼ばれているかのような錯覚を覚えた。
雑草が生い茂り道はないのだが、ふらふらと鳴き声のする方へ入り込んでいった。
邪魔な低木の枝をかき分け、膝上くらいの草を踏みつぶしてゆっくり進んでいった。
急に道が現れた。赤茶の土の上に疎(まば)らに砂利が敷き詰められているような細い道だ。
その道をさらに進むと、だんだんと森が開けてきた。
「ああ、良かった。何とか出られそうだわ。」
開けた森の先には、見たこともないような大きな木があり、
澄み切った青空が広がっていた。
その木の少し離れたところに、風変わりな木造の建物が見えてきた。
不思議な光景だった。
寺田はしばらく呆然とそれを眺めていた。
illustration:holmium
マガジン「ホルモンの森」
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ホルモンの森:第1話:ネコネコの森に帰って来たよ
https://note.mu/dosgatos/n/n10596e3bf6e3
Dos Gatos ホームページ
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ブログ◆ユニット曲 迷子のツインスター「ホルモンの森」よりhttp://montan18.blog.fc2.com/blog-entry-284.html
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