見出し画像

「U-23マーケティング部」を通して、Jクラブが見つけた若い世代との共創の形とは

今年1月に発足したU-23マーケティング部。総勢40名の学生と、約10ヶ月間、合宿や試合を含めた40回300時間に及ぶプログラムを走り抜けました。
最終課題となった「U-23プロデュースデー 青春スタジアム」を終え、改めてこの活動を振り返りたいと思います。

▼U-23マーケティング部とは

U-23マーケティング部(U-23)とは、23歳以下の学生を対象にしたマーケティング組織のことです。約40名の学生が参加し、毎週木曜日や試合日に活動を実施しました。

3つの目的を念頭に活動を始動

詳しくはこちらの記事にまとめています。

U-23を発足するにあたり、クラブ内で決めたルールが一つあります。それはこの活動に参加する学生たちをクラブのリソースにしないということです。
クラブのリソースとして学生を集めてしまうと、今回掲げた目的からは遠ざかってしまい、捉え方によっては学生のやりがい搾取のような形になってしまうためです。
昨年、高校生マーケティング探求を実施した際にも、相田さん(モンテディオ山形 社長)と「山形で若者が活躍できる場所をつくろう」という話をしました。あくまでこの活動はクラブだけのためではなく、地域のためということをお伝えしておきます。
ちなみに、昨年高校生マーケティング探求を実施した際にクラブで携わった人間は相田さんと僕の2人しかいませんでした。はじめての試みのため、とにかくハードで…もう来年は…というのが正直な気持ちでした。しかし、参加してくれた高校生との解散式を兼ねたBBQで、高校生たちの達成感に満ちたとびっきりの笑顔を目の当たりにし、2人で肉を焼き続けながら来年も絶対にやろうと謎の約束を交わしたことが鮮明に覚えています。(とにかく肉を2人でずっと焼いてました笑)

▼10ヶ月300時間のプログラム

年明け1月から開始したU-23は10月8日をゴールとし、全40回、300時間(講義や活動は150時間、その他MTGを含めると300時間)のプログラムで行われました。
プログラムは主に、講義(インプット)、試合に向けた企画(イベント、グッズ、チケット販促)に分類されます。

講師は錚々たる方々を招聘しました。
LEXUSや伊勢神宮のクリエイティブ/プロモーションを手掛けたマンジョット・ベディ氏をはじめ、リサーチやSNSマーケティングを強みとしているTesTeeの横江社長、ニコニコ超会議を運営するドワンゴのプロデューサー、コンテンツマーケティング領域で急成長を遂げているアウモ(グリーグループ)の安藤社長…
大人がお金を払ってでも聴講したいような話ばかりでした。
とにかく、ここのインプットの部分は徹底的にこだわりました。クラブの人間やスポーツに関わる人の話だけではなく幅を広げてあげること。山形にいても一流の人の話が聞けるということを実現したかったのです。

講師からはマーケティングの専門スキルだけでなく社会人として成功するためのアドバイスもお話いただきました

試合にむけた企画は、最終のプロデュースデーを除き4回実施しました。講義やワークで学んだことをもとに、イベント、グッズ、チケットの3つのカテゴリに分かれて企画が進みます。
忘れはいけないのは、ここはビジネスの場です。学園祭ではないので、中途半端な状態でのリリースはさせませんでした。とあるチームは1ヶ月かけて準備をしてきましたが、最終的に時間切れとなり、企画を遂行できませんでした。
学生にとっては辛い経験だったと思いますが、ビジネスの場では当たり前です。お客様に楽しんでもらえない、儲からないことはどんな企業もやりません。

その中でも、素晴らしい企画もいくつか誕生しました。その一つが「効き米チャレンジ」です。

3種類のお米の銘柄をあてる企画 当選者にはお米1合をプレゼント

対戦相手が秋田県であることから着想されたこちらの企画は、美味しいお米の生産地である秋田県、山形県のお米を実際に食べ比べしていただくことで、お米の違いを理解し、両県が誇るお米へのリスペクト・愛着を深めることを目的に行われました。
学生が両県庁に提案し、3種類のお米の提供をしてもらえることになり、当日は秋田サポーターの方にもたくさんご参加いただき、早々に200食が完売。正解率は30%くらいでしたね…

企画から運営まで学生が主導して実施


広報チームが実現した「激論・モンテサポ会議 -親子サポ編-」も素晴らしい企画でした。

グループに分かれ学生がファシリテーション役を担った

講師の方より、現場・現物・現実の三現主義の重要性を伝えられた広報チームは、「今ご来場しているお客さまの生の声を聞くことから始めよう」となり、メインターゲットである親子を対象にサポ会議を実施しました。
クラブ側でもNPS調査はしていますが、やはり生の声はアンケート以上の濃度があり、今後のマーケティング活動に役立つ意見を多数いただくことができました。

GIRLSDAYで企画された「フルーツパフェ作り体験」はソーシャルネイティブ世代の学生らしさ満載の企画でした。

不揃い果物を使用するなど社会問題も取り入れた企画

今回も秋田戦同様、両県の魅力である果物に着目した企画なのですが、もう一つ工夫がありました。それが不揃い果物の活用です。営業部サポートのもと、スポンサー企業様にご提案をし不揃い果物を無償で提供していただくことになりました。
フードロスという社会問題を捉えた企画はソーシャルネイティブと言われるこの世代故の企画なのかなと感じました。

スポンサー企業の社長に企画をプレゼンする学生
こどもを中心に人気を集め用意したパフェは完売

この他にも、「ワイン飲み比べチケット」や「おらだのサマーフェスティバル」、「世界に一つのフラッグ作り」など、さまざまな企画を展開し、その度に知見を深めて行きました。

この活動が途中でだれることなく、最後まで盛り上がった要因の一つはコミュニケーション活性化の仕組みにありました。
実は半分以上の学生がオンラインで参加しているため、通常時のコミュニケーションはSlackとZoomを活用しています。多い時は1日に何百通ものやり取りが発生し、コミュニケーションを深めていきました。コロナが収束し、全てを元に戻すのではなく、DX移行の恩恵を活用したハイブリッドでの運営がうまくはまったのだと思っています。
また、誰かの呼びかけに「反応」する習慣はすごく大事なことで、主体性の一歩だということを学生には伝えてきました。

後半になるにつれ熱く気持ちの入ったSlackが飛び交うように

▼学生プロデュースの「青春スタジアム」

夏には天童市の温泉宿で1泊2日の合宿を行いました。この合宿には社長をはじめ、各セクションの部長、メンターなど総勢10名以上の大人も参加しました。
いよいよ、10月のプロデュースデーまで2ヶ月を切ったタイミングです。初日に各チームごとに自分たちが創りたい企画をプレゼンします。この時点では、4チームの発表、全てのプレゼンを否定しました笑 意図的といえば、意図的ですが。
プレゼンを聞くと、確かに学んできたことは活かされているのですが、どこか想いがふわふわしている。みんなが本当にやりたいことは何なのか?色んなことを犠牲にしてここに集まっているのはなぜか?そんなメッセージも含めて学生たちにフィードバックをしました。
何人かは不満そうな顔してたので、この時は「うわあ。嫌われたな〜w」と。
一方、このタイミングで半ば旅行気分で来ていた彼らの表情が変わりました。
フィードバックをもとに夜通し議論を重ねたそうです。翌朝、修正プレゼンの場で出てきたのが「青春」というキーワードでした。
この世代の学生は、高校、大学生活であたりまえの青春を経験できなかった世代です。
そんな自分たちが期待をして叶わなかった青春をこの日に再現しよう。
そして、多世代の方々に青春を思い出してもらおうという想いがこもっていました。イメージ動画が完成した時は、思わず泣きそうになりました。

休むまもなく議論を続ける学生たち

テーマが決まったら、あとは具体的な企画とプロモーションです。
ここからの1ヶ月半は学生も支えるメンターも激動の期間でした。
ビジネスは必ず数字で評価される。自分たちがどれだけ想いを込めてもチケットが売れなければ意味がありません。どうすればお客さんに伝わるか?情報に不足はないか?ターゲットのインサイトを見つけらているか?そんな問いを繰り返し数字と向き合ってきました。
学生招待のチームは、山形県、宮城県の学校に足を運びたくさんのチラシを配りました。

授業やバイトの合間の時間でチラシ配り

大人の運動会チームは、企業さんに問い合わせをし、直接訪問してプレゼンを行いました。

営業担当のサポートがあったのは言うまでもありません

イケおじ!いけねえ!販売チームは、監督に依頼して動画を撮影したり、手当たり次第身の回りにいる人に声をかけたりしました。
イベント企画のプロモーションを担う広報チームは山形県庁はじめ、山形市、天童市への表敬訪問も実施しました。
(余談ですが、この10ヶ月で最も成長したのは大学生に負けじと背伸びし続けた高校生かもしれません。)

山形市に表敬訪問

行動して満足するのではなく、それがどのように結果に反映されるのか。その大切さを身をもって感じることができたと思います。

週次の定例MTGで数字を共有し、目標に対する意識を高めた

迎えた10月8日当日。前日も雨、翌日も雨予報の中、その日だけは風もなく最高の晴れ日となりました。

大人の青春大運動会
10月9日はスポーツの日。こどもの運動会のシーズンです。
「大人だって本気を出したいんじゃないか?」そんな発想から生まれた大人の運動会。
全17チーム200名弱がエントリーした初めての試みは大盛り上がり。
参加された企業の社員様は皆さん口を揃えて「楽しかった!来年もやって欲しい!」とコメントをいただきました。

まさに大人の青春を感じる笑顔あふれる空間を創り出しました
ぐっと距離も近づいた障がい物競争

大人の体力測定グランプリ
50歳以上のイケおじイケねえを決める体力測定グランプリ。
何十年ぶり?の体力測定に闘志を燃やすイケてる大人の姿が。
測定後には、「毎年やってくれたらこれを目指して健康を維持できるな」そんなご意見や、「俺はまだまだこんなもんじゃない」と悔しさ満載で去っていく方など、まさに青春の一コマでした。

立ち幅跳びに挑戦するイケおじの姿 すごい跳躍力…

超こども縁日
こどもよりも大人が楽しんでいたんじゃないかというくらい多世代の人が参加していました。
すでにファミリー向けのコンテンツが充実している中、企画に四苦八苦したチームですが、最終的にはこれまでになかった新しい企画を用意し、この日お披露目となりました。
特にゲキムズチャレンジはやってはじめてわかる、刺激的な楽しさがあるようでたくさんの方がゲームを楽しんでいました。

こどもも大人も楽しめるゲキムズチャレンジ

最終的な集客数は目標に掲げていた10,000人には届きませんでしたが、学生の力でこのエンターテイメントの空間を創り出せたことは本当に素晴らしいことです。そして、結果を出すことは簡単ではないことを身を持って感じたことでしょう。

▼学生に対して本当に伝えたかったこと

ここまでプログラムや実施した活動を紹介してきましたが、クラブとして学生に本当に伝えたかったこととは何か。

学生とは定期的に1on1を実施し、これまでの活動を振り返るとともに、本人たちが自身の成長が見えるようにと心がけてきました。(1on1をしたのはメンターとして参加しているクラブ職員)
マーケティング部と銘打って活動をしていますが、決してサッカーのマーケティングのスキルだけを教えたいわけではありません。
僕たちが教えないといけないことは、本気になる楽しさや一人ではなく仲間がいるということの素晴らしさです。

はじめて否定される経験をした「夏合宿」
学校教育で否定をされる経験は多くはありません。現代の教育上、厳しい指導の加減が非常に難しいことは重々理解の上ですが、やっぱり挫折は大切な経験です。人ではなくコトに対しての否定はしっかりとしてあげるべきだと僕は思います。

自然と口に出るようになった仲間を想う言葉
人を全力で褒めたりとか、困っている人を支えることは少しの勇気があればできることです。誰だって承認されたら嬉しいものです。MTG開始時には、他の人を褒めるという時間を設けました。認めること、認められることの心地よさを感じたと思います。
特に、この世代の学生はコロナの影響もあり距離のある生活を余儀なくされてきました。
最初の方は互いの距離もあり、ぎこちない、どこか恥ずかしいという感情のままコミュニケーションをとっていましたが、時間が進むにつれ、本気で褒め合い、本気でぶつかるそんな関係を築けたのではないかなと思います。

時に乱暴で思いやりのない言葉を投げかけてしまう学生も見受けられました。
その度に一人ひとりと本音で向き合い、寄り添い対話を重ねてきました。

▼Jリーグクラブ×若者

今回のような取り組みをJリーグクラブ(プロスポーツチーム)がやる意味があるのか?その問いに対しては自信を持って「はい」と答えられます。

通常の企業が同じ取り組みをやった場合、もっと緻密なプログラム設計がなされ、分厚いサポート体制もつくれると思います。
一方で顧客の反応は同じようにはいかないはずです。
プロスポーツチームはファンビジネスです。チーム側がやったことに対して、お客さんの反応(フィードバック)や声が通常のビジネスよりも得られやすい特徴があります。
だからこそ、短い時間軸でPDCAを回すこともできると思っています。
今回の学生の企画も、リリースを出すたびにたくさんの反応をいただきました。
スポーツの特性がプログラムとの親和性を高めているように僕は感じています。

また、今回期間を通して非常に多くのメディアさんにもご反応/露出をしていただきました。これもスポーツチームが取り組んでいるからこその結果なのかもしれません。

▼若い人たちを巻き込むために必要なのは機会ではなく共創

どうしたら若い人たちを巻き込めるのか?これは地域に限らず、あらゆる場面で課題として挙げられることです。(Jリーグも例外ではありません)

若い人が挑戦できる機会を用意するのは確かに大人の役割かもしれません。でも、大人が敷いたレールの上では大人の想像をこえたイノベーションも若い人たちの本気もみることはできません。
好き勝手やらせることを推奨しているわけではなく、やらせて見守る、ずれそうになった時に寄り添う関係が大事だということです。

そして、何より、

カッコイイ大人が近くにいれば若者は離れない

ということです。

なぜ、若者が離れるのか?
それはカッコいい大人が周りにいないからです。
なぜ、若者が離れるのか?
それは若者から寄り添ってくれることを待っているからです。

ではカッコいい大人の定義とは何か?
若い人以上に夢や目標を持ち、仲間と本気で突き進んでいる人のことだと思っています。

自分が若い時にどんな人と一緒にいたいと思いましたか?
尊敬できる人いたいと思ったはずです。

今回で改めて分かりました。本気になりたい若い人たちはたくさんいます。それに大人が応えてあげなくてどうするんだ。
偉そうなことを言わなくても良い。寄り添って一緒につくることを意識すれば必ず若い人たちは反応してくれると思います。

そういった意味でも、今回最も成長したのはクラブのスタッフなのかもしれません。
学生の本気に向き合うことで、学生の活動を成功させたい、成長させたい、自分自身もかっこよくいたい。
そう思えたはずです。

最後に、参加したU-23メンバーのみんなへ

10月8日、真っ青なスタジアムで最高の青春を感じることはできましたか?
活動中に何度も投げかけた言葉「ただの思い出づくりで終えるのか、一生モノの仲間になるのか」
解散式での一人ひとりの言葉を聞いて、思い出以上のモノを得られたんじゃないかなと感じました。
みんながこの期間で実感したであろう「本気になること」ということ。
本気になる。もしかしたら、最初は恥ずかしいことかもしれません。
周囲から小馬鹿にされる時もあります。
人ともぶつかり辛い思いをする時もあります。
少しうまく行き始めると妬む人も出てきます。
本気でやればやるほど失敗の数も多くなります。
でも、それ以上に本気の代償として得られるものはたくさんあります。
仲間、自信、夢、希望、生きがい。
こんな青臭いモノが得られます。

僕は今、32歳です。みんなよりも10歳以上は年が離れていますが、常に本気で生きています。それは誰かと比較するのではなく、過去の自分と比較して本気で物事に取り組んでいるということです。
この先、それぞれ別の道に進んでいくと思いますが、どんな時も本気になるということを忘れないでください。
それでも辛くて、耐えられなくて、どうしようもない時はここに戻ってきてください。みんなを助けるカッコいい大人がモンテディオ山形にはたくさんいます。
みんなに会えて、共に10ヶ月を過ごすことができ本当に幸せでした。ありがとう!

楽しかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?