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ホームシックとえび天そば

年末年始になるとホームシックになる。
海外在住者のあるあるで、別に珍しくはない。


カナダ文化をリスペクトすべく、クリスマス前から料理作りに励む。パートナーの意向に沿いたい、できるだけ品数を増やしたいとひとりで勝手に盛り上がる。で、25日過ぎるとその反動で燃え尽き症候群。モチベーションが上がらない。

1週間後に新年を迎える。今度は日本文化を優先する。おせちを作る元気はもう残っていない。だけど、何もせずにボーっとしたまま新年を迎えてしまうと、元旦のホームシックはひどくなる。身体に鞭を打ってでも準備をしないとと思いつつも、時間だけが過ぎていく。

黒豆だけでも炊こうか。
そう思ったのは28日だった。買い置きしてた豆を水に浸し、4時間かけてゆっくりじっくり煮た。今年も餅が手に入らなかったので、もち粉で切り餅風のものを作った。

30日。なますくらいは作ろうと、うっすら紫色した大根を薄切りにした。甘酢できれいなピンク色に変わった。その鮮やかカラーを見たら、きんとんやほうれん草のおひたしを作る気に。やっとエンジンがかかった。

大晦日。カナダと日本文化が混在する日。簡単おせちを準備をしつつ、晩ご飯用にチキンパイも同時に作る。作り置きのパイ生地を冷凍庫から取り出す。あっ、ドレッシング作ってなかった!オリーブオイルとバルサミコ酢をチャチャッと混ぜる。
初めて作る洋梨ケーキの出来が悪くてテンションが急降下している時に、
パートナーがキッチンに入ってきた。

「蕎麦はいつ食べる?」

勝手に追い込まれていく気分になる。

蕎麦つゆは前日に作っておいた。昆布と椎茸の出汁にアメリカ産の醤油、
自家製日本酒とメープルシロップ。最後に日本の天塩で整える。
ランチタイムには少し遅れて天ぷらを揚げだした。気持ちが焦ると、その結果が料理に反映される。野菜のかき揚げはカラッと揚がらなかった。えび天も花が咲かなかった。最後のえびを揚げながら乾麺の蕎麦を茹でていると、暖めていたつゆが煮えたぎっていた。
慌てて火を止めた。

青ねぎと七味こしょうをパラリとかける。
熱々の汁が胃に染み渡っていく。
小さなえびがプリプリッと口の中で弾ける。
薬味の香りが鼻の奥を通り抜ける。
蕎麦つゆを飲み干した時、ため息のような声が洩れた。
心がほぐれ、身体の芯から温まった。


はやる気持ちも増す大晦日。
年越しそばを味わっているとモヤモヤは消えていた。
ホームシックに効く処方箋だった。


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