月が綺麗ですね

月明かりが綺麗な夜、好きな人に「月が綺麗ですね」と微笑まれたら、きっと頬を染めてしまうだろう。わたしは、月が綺麗ですね、という言葉に隠された意味を知っているから。

電灯もない田舎の夜の暗い小道を歩くために、唯一頼りに出来るのは月の光だった。
いくら足を早めても、次の角で右に曲がったとしても、いつまでもその道は、光から照らされることを外れない。
太陽が沈んでしまって辺り一面真っ暗なはずなのに、その先の道を進んでいけるのは、月の灯があるからだ。

何も見ることが出来ないこの先も、静かに照らしてくれるような月の明かりがあれば、進んでいける。
月の明かりのように、わたしが、あなたのその道の先を照らすことが出来れば、あなたが進んでいくのを見守ることが出来る。

「そんな月が、今宵はとても綺麗ですね」と、愛おしい人に、はにかむのだろう。背中にI love youを隠して。

わたしも背仲にI love youを隠している。
このnoteタイトルのイラストとして使わせてもらっている月の絵は、Kojiさんが描いたものだ。
Kojiさんの、「みんなのフォトギャラリーにあげるための絵を描きます」というツイートを見かけたとき、わたしはすかさず月の絵をリクエストした。
わたしが今ぞっこんになっているブックカバー作家(兼、Kojiワールドアーティスト)のKojiさんが描いてくれた月のイラストで、書いてみたかった話があった。
わたしの「moon」というペンネームについて。


わたしのペンネームである「moon」というのは、ある1枚のタロットカードからもらったものだ。
タロットカードは占いに使うカードで、1枚1枚それぞれ異なる綺麗なイラストが書かれていて、
占いでは、そのイラストからインスピレーションを読みとって答えを導くために使う。
わたしは一時期、タロットカードにどハマりしており、大アルカナ小アルカナ(アルカナとは、カードの呼称です)合わせて78枚もあるカードの意味を全て覚えていた。
正確にいうと、カードの意味には明確な答えがあるわけではなく、カードの向きを表す正位置逆位置によっても意味が変わる。それゆえ、完全に暗記をするものではないのだが、ある程度あらかじめカードに描かれた絵の意味を知っておくことは占う上で、必要なのである。
どのカードも意味を知ると、描かれたイラストに込められた思いや意味が納得出来る。


そんなタロットカードの中でたった1枚わたしがいつもお守りがわりに持ち歩いていたカードが「月 THE MOON」のカードだった。

このカードの意味は決していいものではない。
正位置での意味は「迷い、不安、戸惑い、偽り」であり、ほとんどのカードではポジティブな意味を示すはずの正位置で、ネガティブな意味を示す珍しいカードだ。
例えば恋愛相談の占いで月のカードが出た場合、カップルの場合はこの2人の関係について状況が悪化するかもしれない暗示を示す。
きっと興味本位での占いだったとしても、こんなカードが出てしまったら、不安でたまらなくなってしまうだろう。
逆に、逆位置の場合は「回復、危機回避」を示す。この場合は、逆に悪い状況から回復する兆しやこれから起こる危機を回避できるということを暗示している。
だからこの月のカードの場合は、逆位置が出たときに落ち込む必要はない。

タロット占いに興味を持ち、初めてタロットカードを手に取ったとき、無意識的にこの「月」のカードに惹かれてしまった。
意味を知ったらぼんやりとした不安に包まれて恐ろしいはずなのに、イラストの中には、悩ましい表情をした月の背後の山の向こうに、ちゃんと光に照らされた道が続いているところに。
行く手を惑わすようなぼんやりとした霧の向こうに、ちゃんとその先の道を薄明るく照らす月。
わたしは、そんな、月のような人になりたかったのだ。


夜は不気味だ。太陽が沈み、辺りが暗くなって何も見えなくなる。
けれど、よくよく考えると、「迷い、戸惑い、不安、偽り」はもはや、夜のせいじゃない。
太陽が照りつける真昼間の下でも当たり前に日常の1ページに溶け込んでいる。まるで、マンションの隣人のような存在なのだ。
そんな当たり前な「迷い」や「不安」がチャイムを鳴らして訪れたとき、その先が真っ暗だったら足がすくんで前へは進めない。その先に道があることすら知ることもできず、座り込んでしまう。
「迷いの先にも道がある。」
太陽のようにその先の結末まで見通してしまえるほどの明るさをもって照らすことなんて出来ないけれど、寄り添いながら、その先に道があることを知らす薄明るい光をもつ月になりたい。
そんな月の光を心の中に灯していたい。

だから、わたしはmoonなのだ。
その名を、そのカードをお守りにして、心の中に、その先の道を照らす薄明るい光をもっているために。

「月が綺麗ですね」と大切な人にいつか呟いてみたい。
けれど、わたしの翻訳はI love youではない。
わたしはあなたの月になりたい。
わたしはわたしとあなたの行く先に道があることを信じて照らし続けたい。


本当はそんなことを考えている。
けれど、照れくさいから、「月が綺麗ですね」という言葉の裏に隠れながら。


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