おでんハラスメント

おでんが好きだ。
出汁の染みた素材が温もりとともにスタンバイしている鍋を見ると、いくらでも食べれそうな気持ちになる。

昨晩会食で少しお酒を飲んだこともあり、今日の胃袋はあまり消化をやりたがらない。

お昼の時間にコンビニへ行き、食べたいものが見当たらずウロウロしていると「出汁が新しくなったおでん発売していまーす」と店長が呼びかけている。

普段大声なんて出さなそうな細身の店長が、声を張ってるもんだから、なんだか「恵まれない子供に募金をお願いします」と訴えられているような錯覚がおきる。

おでん……!食べなきゃ!

消化をやりたがらなかった胃袋も店長の訴えに刺激され、食指が動きだす。

今年初めてのおでん。

レジに立っている かっぷくの良いお母ちゃんみたいな店員さんに声をかける。

「おでんいいですか?」
「はーい。小さい器と大きい器どっちにしますか?」

ほんとは大きい器で永遠に食べていたいけど、お昼時で人もいっぱいいるし…。

「小さい方でお願いします。」「たまご、白滝、牛すじ、厚揚げ…まだ器に入りますか?」

ほんとは牛すじをあと一本追加したいところだけど、ここはランチタイムで賑わうコンビニ。昼間っから酒のつまみみたいなラインナップは避けるべきか…

「じゃあ、あと、がんもどき」

いったい何故自分が がんもどきを選んだのかよくわからない。普段一番選ばないものをなぜか選んだ。
今日は二日酔いはなかったと思っていたけど、気づかないレベルで意志が淀んでいるのかもしれない。

「以上でお願いします」
「はーい。おでん言いいますよー!」

おでん担当のかあちゃん店員さんが、レジ担当の細身の母上みたいな店員さんにシャウトする。店長の2倍ぐらいの声で。

母ちゃん「たまごー!」母上「たまごー」

「しらたきー!」「しらたきー」
「ぎゅうすじー!」「ぎゅうすじー」
「あつあげー!」「あつあげー」
「がんもどきー!」「がんもどきー」

ランチタイムで賑わっている店内、レジ担当の母上は聞き間違いがあってはならぬと、真面目さゆえに再度確認をする。細身の体からイメージぴったりの甲高い声で。

「たまごー!しらたきー!ぎゅうすじー!あつあげー!がんもどきー!、全部一つずつ!」

私の今日のランチメニューが細部まではっきりくっきりと、店内を歩く人々の耳元に届いたことは言うまでもない。

お昼時に活気の良いコンビニでおでんを買ってはいけない。

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