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【まほやく考察】フィガロの名前と音象徴

音象徴(おんしょうちょう)、という言語学の学問分野がある。

――こんなことを考えたことはないだろうか? 悪い人物や強いキャラクターの名前には濁点が多く、爽やかな好青年キャラの名前は清い響きが多い。ゴジラ、ガンダム…etc. このように、音そのものがある特定のイメージを連想させるような事柄のことを「音象徴」と呼ぶ。「ちいかわ」も「ポムポムプリン」も、なんだか文字も丸っこいから、おどろおどろしい怪物を連想することはないし、事実可愛い。

では、本題の「フィガロ=ガルシア」という名前を音象徴に当てはめてみるとどうなるだろうか。音声学者のジョン・ジェローム・オハラ(1941-2020)は、動物行動学の原則が言語や音と深く影響しあっているという説を唱えたが、それを踏まえて「フィガロ」という名をとらえ直してみよう。

【フィ/ガ/ロ(Figaro)】 

フィ…「い(/i/)」は、笑ったときの口角が上がった音と一緒のため、恭順の意。

ガ…「あ(/a)」威嚇+濁音

ロ…「お(/o/)」威嚇

音象徴の観点から見ても、彼の呪文「ポッシデオ(ラテン語由来、支配するの意)」にまさるとも劣らない強さがある。「い」は、相手の表情を強制的にスマイルにする特殊な音である。彼の名前を呼ぶとき、人は自ら恭順の意を示さざるを得ないのである。あとに続く「ガ」と「ロ」も「威嚇」を示す…と言われてもどこかピンと来ないかもしれないが、ライオンが「ガオー!」と吠える様子をイメージすると分かりやすい。つまり、北出身の魔法使いらしい、実に硬質な響きを持つ名前はやはり故のないことではないのだ。

【参考文献】『「あ」は「い」より大きい!? : 音象徴で学ぶ音声学入門』(2017年、ひつじ書房、川原繁人)…今回の記事の底本。ポケモンの名前についても書かれていて、言語学を身近に感じられる良本。ちなみにひつじ書房さんは言語学の専門出版社ですので、他にも興味深い本を多数刊行しています。