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三日月と太陽は燃ゆるのか?【ショートショート】


ミカヅキの愛情

ともかく、誰かに愛されたかった。誰でも良かった。愛してくれるなら。誰とでもキスをしたし、誰とでもセックスをした。誰でも良かった。愛して欲しかった。愛してくれる人を愛する、そんな日々だった。だけどそんな毎日は不毛で、何も生みはしなかった。愛してくれた人は、次の日は違う人を愛していた。だからミカヅキも、別の愛してくれる人を探した。それの繰り返しで、ミカヅキが愛を語れることはなかった。何度キスをしても、何度セックスをしても、本当に愛してくれる人など見つかりはしなかった。


タイヨウの愛情

ともかく、誰かを愛したかった。誰かを愛することで安心できた。愛した人が愛してくれると嬉しかった。だからもっと深く愛した。するとその愛にはまり込み、動けなくなった。愛して動けなくなった相手は、恐怖を感じて逃げて行った。また誰か愛する人を探す。それの繰り返しで、タイヨウが愛を語れることはなかった。愛した人とのキスも、セックスも、重すぎて相手を恐怖に陥れるだけで、本当に愛する人など見つかりはしなかった。



『宵』がせまるまでは。


ミカヅキとタイヨウの空

出会いは些細なことだった。男性インフルエンサーのライブで出会い、その後の飲み会で急接近した。ミカヅキは愛してくれる人を探していた。出会った時、この人に愛して欲しいと思った。愛されたい病のミカヅキは、久しぶりに「愛して欲しい人」を見つけた。ただ、キスして、セックスするだけではない関係を求める何か。ただ、愛されたくて腰を振っているだけではない何かがそこにはあった。酔ったふりをして、キスをしてみた。だがそれ以上に進めない。ミカヅキは焦った。愛されたいから、セックスに誘惑できないのだ。キスをしただけで驚いた顔をされた。純朴な、瞳。愛のないキスなど、したことがなかったのだろう。ただ愛されたくて、甘えたくていたミカヅキは、年下を意識するのは久しぶりだった。二歳年下だと言う、彼。名は、タイヨウと言った。ミカヅキからしてみたら田舎育ちの穢れを知らない男の子、と言った感じだった。ミカヅキにとって不幸なことに、タイヨウには彼女がいた。愛されたいからでなく、ただ愛したくて大事にしている女の子だった。その話を聞かされて、ミカヅキは無性に腹がたった。見つけたのに、「愛して欲しい人」を見つけたのに。ただそのタイヨウの恋愛は終わっていった。ミカヅキが何かしたわけではない。ただタイヨウの「愛しすぎ」が原因にミカヅキには思えた。それをタイヨウに告げた時、タイヨウは初めて自分が愛したい病であることに気づいた。ただ、自己承認のために、タイヨウは愛さなくてはならなかった。自分が自分であるために、誰かを愛さなくてはならなかったのだ。そんなタイヨウが、ミカヅキには新鮮に映った。ますますタイヨウに愛されたくなった。愛されたくて、好きと告げてみた。だが、どんなに愛したい病のタイヨウも、ミカヅキは眼中に入らなかった。不幸なことに、ミカヅキは男にも愛されたかったが、タイヨウは男を愛さなかった。自分のセクシャリティに悩むこともなく、奔放に愛してくれる人を探していたミカヅキが、初めてぶち当たった壁だった。女しか愛さない男。ミカヅキは、女でも、男でも、愛して欲しかったし、そうされてきた。ミカヅキにとって、タイヨウは逆にレアケースだった。タイヨウにとっても、自分に愛されたいと願う人間が男などと言うことは、人生において初めてのケースだった。ただ、当たり前の、ノーマルと言うセクシャリティの中で、当たり前に女性を愛してきた。それ以外、考えたこともなかった。どう考えても、ミカヅキを愛せるとは、思えなかった。そんな自分に愛されたいと願うミカヅキが、酷く純真に思えた。ひたすら愛に飢え、愛を求める、そんなミカヅキが、タイヨウには新鮮だった。

誰かに愛されたくて、誰かを愛したくていながら、二人は怯えていた。
人は弱いもの、とても弱いもの。怯えるのは、仕方がなかった。

だが、愛とは違う何かが、生まれ始めた。友情とも、愛情とも、違う、何か。タイヨウはその感情がまたしても新鮮で、夢中になった。もうミカヅキとキスをすることも、躊躇わなくなった。ミカヅキがしたいと言ったらキスをした。ただ愛ではないからセックスはしなかった。不思議とミカヅキもそれを求めてこなかった。タイヨウの初めての感情は、ミカヅキの愛されたい病をも満たしていく、慈愛のようなものだった。人によっては、それを、愛情と呼んだかもしれなかった。だが、二人の中で、違う、何か。いつしか共に居た、空のようなもの。

タイヨウに想われたくて、ミカヅキを想いたくていながら、二人は気づいていた。
人は強いもの、とても強いもの。気づいたのは、当然だった。

愛をも超えた、空。それこそ愛なのかもしれなかった。互いに結び合った光。時が経つほど、その光は美しい輝きになっていく。

その輝きを強く、そして明るくしていくことに、ミカヅキは、タイヨウは、喜びと、幸せを感じる。
人は強いもの。そして儚いもの。共に輝く西空を、不器用に保ちながら、美しく、二人は共に歩いて行く。

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