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魔術師の4つの力

The Four Powers of the Magus

アレイスター・クロウリーが、真の意志( True Will )を発見するための手段として「魔法・魔術」を推奨したことは先にお話ししましたが、ここでは、クロウリーの魔術の実践を成功させるために必要とされる【魔術師の4つの力】について話したいと思います。


クロウリーが創設したテレマ(Thelema)ですが、そもそもこの「テレマ」という言葉には、ギリシャ語で「意志」という意味があるそうで、また、クロウリーが 真の意志( True Will )ということを説くとき、その個人にしか働かない物差しやコンパスというものがあり、歩みを進めるその旅路の決定には、他の誰の物差しもあてがうことはできない、ということを前提とするようです。

真の意志を発見し、その実現のために行動するとき、その判断や行動の「基準」を見せる物差しはその個人特有のものでなければならない、ということなのでしょう。

その物差しやコンパスがそれぞれの持ち主にとって偏りなく不具合なく働くよう、キャリブレーション的に明言化されたのがこの【魔術師の4つの力】であり、それは魔術の実践(真の意志の発見)を成功させるために個人が持っているべきとされてきた「性質」のことを伝えるものなのではないか、と思うのです。

この【魔術師の4つの力】とは【VELLE - 意志を持つこと】【AUDERE - 勇気を持つこと】【SCIRE - 知ること】【 TACERE - 沈黙すること】であり、この4つの属性がバランスよく組み合わさることによって魔法の成功、つまり「真の意志」の発見とその実現に至ることができるとされています。その理由はいたってシンプルで、その属性のどれか一つが欠けても十分ではなく、4つの属性が揃っていないことには、それぞれの力の均衡が取れないからです。

とても興味深いことに、この4つの力はこの世の物質を構成する4元素(火・水・風・地)と対応関係にあり、また固定宮の星座( Fixed Sign: Aquarius・Leo・Scorpio・Taurus )とも関連しています。そしてこれら固定宮の4星座がスフィンクスを構成する4聖獣(ケルビム)であることから【スフィンクスの力】とも呼ばれています。タロットの中にこのテーマが繰り返し登場することからも、魔術師の4つの力・スフィンクスの力がいかに重要視されているかを窺い知ることができるでしょう。

魔術師の4つの力(スフィンクスの力)

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VELLE - To Will The Power | 🜂 Fire・The Wands
【意志を持つこと】

魔術を行うための知識と大胆さがあっても、意志の力がなければ何も起こりません。
魔術とは、心から生まれるすべての力です。この力は、何かが起こることを信じ、それを望むあなたの強さから生じています。
もしあなたがそれが起こると信じなければ、決して起こることはないでしょう。
あなたの強さは、あなたの意志であり、あなたの意志の力です。人間の心ほど強いものはありません。

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AUDERE - To Dare To Practice The Craft | 🜄 Water・The Cups
【勇気を持つこと】

魔法の実践を観察するための目と知識、そして意志の力があっても、実践する大胆さが欠けていてはその力は発現されません。
実践する勇気を持つこと、そしてあなたが何者であるかを決して恐れないでください。
もしもあなたが宇宙の本質を恐れないならば、あなたはその空間において自由なのです。
あなたの力はあなたの内側から現れるものであり、あなたは自分の体から生じるものを恐れる必要はないのです。

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SCIRE - To Know What You Are Doing | 🜁 Air・The Swords
【知ること】

魔術を行う意志の力と大胆さがあっても、知識がなければその働きに不具合が生じます。
魔術は危険なものではありませんが、自分が何をしているのかを知っておかないと、やっていることが間違った方向に進んでしまうことがあります。
自分が何をしているのか、何を意図しているのかを知ること。誰かが傷つく可能性がないか思考を巡らせること。
自分の言葉や行動を世間に放り出す前に、じっくりと考えてみましょう。

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TACERE - To Keep Silent | 🜃 Earth・The Disks
【沈黙すること】

黙っていることができなければ、他のことは力を失います。
自分の魔術を完了前に明らかにすることは、その力と効果を消滅させるからです。
魔法は人を怖がらせたり注目を集めるために使うものではなく、むしろ非常に個人的な作業であり、それについて他者に意見されると神聖さが失われます。沈黙という非常に難しいレッスンこそが神聖さを強め、力となるのです。
あなたが行ったことについて話せば話すほど、魔法の力は弱まります。
黙って行動しましょう。もしくは、話す前によく考えることです。
また、話すと決めた場合にも誰に話すのか気を配りましょう。
すべての目や耳があなたの思うように理解するわけではありません。

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後にクロウリーはこの4つの力に第5の力を付け加えて IRE - To Go 【行くこと】としました。

IRE - To Go | Spirit・YHVH
【行くこと】

それは神の力であり、この魔術師の4つの力を行使した結果もたらされる【動く・進む・顕在化する・旅する・進化する】といったような「前進する力」を表してます。これら4つの力を理解(体現)したならば、そこから先をどのように進むべきかがわかるというように、この「進む力」は魔術師の4つの力(ケルビム)を柱として「支えられている」ということができるでしょう。

カバラの「創造の4世界」のところで改めて述べようと思いますが、このケルビム(プリンス)によって支えられる【4つの力】は、実はコートカードそれぞれのスートのプリンセスたちに属しており、この4つの魔法の力を使うことで獲得される第5の力【IRE - 行くこと】によって、プリンセスの居場所であるところの 10 Malkuth と、次の階層であるThe Ace の居場所・1 Kether の間に双方の世界を繋ぐ梯子が現れ、「創造の4世界」の次のサイクルへ進んで「行く」ということなのではないか、と思うのです。

プリンセスの力は他の者たちの力と堅固に繋がっているものでなければならないのです。Chokmah(ナイト・Yod - 意志)とBinah(クイーン・He Primal - 愛)の娘(He Final)として Tiphareth(プリンス・Vau - 美)との婚約を実現するならば、そのとき神殿(Malkuth - 王国)は正しく建設され、彼女は「真の意志」を具現化する乗り物として強大な力となるのです。

The power of the Princesses must come from the harnessed forces of the others. If she is manifest as the Daughter of Chokmah (Will) and Binah (Love) and betrothed to Tiphareth (Beauty) then the temple (Kingdom) has been rightly built and she is the Throne for the Force of Spirit, and a mighty material force.

M.M,Meleen, Book M: Liber Mundi

はじまりの意志の力を持っているということ。
魔術を使う大胆さを備えているということ。
自分が何をしているのを知っているということ。
そして、魔術の完了に至るまでの持久力と沈黙を守っていられる慎重さを兼ね備えているということ。

この4つの力がバランスを保って行使される時、第5の力はプリンセスたち(つまりは私たち人間)の心の中心に行き先を照らす明かりを煌々と灯すのかもしれません。

その灯りが作り出した影に Ⅸ The Hermit の姿がちらりと見えた気がしませんか?