見出し画像

造形的な活動と経験

ちょっと短めのエピソードです.

ある学級に参観した時の出来事です.
低学年の図画工作科で「はさみのあーと」という題材があります.
白い紙を思うままにはさみで切って,そこから見える形から発想し,表したいものを考える内容です.


気ままに切る行為を大切にする

この題材のポイントは,「観念的に切らない」ことです.
切り取った形から見立て,想像し,アート作品にしていくことがねらいです.
車の形に切り取ろう,ハートの形に切り取ろうといった,形を優先するのではなく,気ままに切った形から想像できるようにします.

気ままに切る,といっても,図画工作科における技能では,創造的に活動できる技能の育成が大切です.
例えば,ギザギザに切る,ぐねぐね切る,細かく切る,ぐるぐるに切るといった,様々な切り方に気づけるようにします.

切った形を見立て,並べ,構成する

ある子供たちの様子です.
ジグザグに切った形を見ながら,
「これは猫に見えるね」
「たしかに」
「しっぽもあるね」
「おお」
「走るんだよ」
「いいね」
と,楽しそうにしています.

しばらく切っていると,
「なんだかいろいろできてきた」
「どんな感じ?」
「たくさん面白いのができてきた」
「へえ」
「博物館みたいになってきた」
というように,いろいろなモチーフが見えてきているようでした.

切った形を並べる行為から,構成を考えている様子です.

表現の中にある経験

このような,子供達が発想を楽しむ姿の中には,必ずといっていいほど経験が語られます.
猫を見た経験,猫の尻尾を見た経験,しっぽを振りながら猫が走っているのを見た経験.
様々なものが飾られているところ(博物館)を見た(あるいは行った)経験.

このように,活動の中で話される子供の表現に関する言葉は,猫と言っても,それは必ずしも他者に伝わるような猫とは限らず,自分自身の中に存在する経験の中の猫であるとも言えます.

図画工作科では,よい表現ができたと考えている子供に,表現のよさを自覚させたいと願います.そんな時つい,
「うまくできたね」
「上手だねぇ」
と,表し方のよさを価値づけてしまうことが多いかもしれません.

その一方で,もしかすると,子供が表現したいと思っているものには,その子固有の経験があるということは見過ごしてしまいがちかもしれません.なぜなら,猫は,猫の形や色が伝わることが大切なので,そこにどんな思いがあるのかは見えにくいからです.

しかし,子供に問うてみると,その表現の裏にある経験はとても豊かであることがあります.

「どんな猫なの?」
「どんな猫が好きなの?」
「猫ってどういうイメージ?」
「尻尾の形でお気に入りのところは?」
といった,その子自身が経験と結びつけて語れるように問うてみてはいかがでしょうか.
きっと,図画工作科のみならず,子供が経験で語ることに,その子自身の個性や感性が見えてくるかもしれません.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?