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ちょっと勇気を出したら世界がグンと広がった話

去年の9月、カナダの友人からメールがとどいた。

「9月30日の『真実と和解の日』にちなんでTracy Deer 監督の映画『Beans』のリンクを送ります。あとTracy監督を招いたZoom講演会もあるからもしよかったら参加してね。」

真実と和解の日(Truth and reconciliation day) はカナダの新しくできた祝日だ。カナダで何世代にもわたって行われてきた先住民迫害の事実に対する認識を高め、いまだ社会に影響を与えている問題と向き合う日。最近でも先住民寄宿学校の跡地から子ども215人の遺骨が発見されたといったニュースは記憶に新しい。

それが映画『Beans』との出会いだった。

本作は1990年にゴルフ場土地の拡張問題から長期戦の大きな暴力的な出来事まで至ったケベック州政府、オカ住民とモホーク族との対峙、オカの戦いについて取り上げている。

映画は、胸が痛くなるシーンが続いた。
『Beans』にはオカの戦いという大きな出来事を通じて、必死で毎日を生き抜こうとした人たちのリアルな姿が描かれている。
子供は子供なりの、大人は大人なりの身の守り方を見い出していく。その必死な対応に正解などない。
トラウマを乗り越えて強くなろうとすることは一体どういうことなのか。

この映画で人間の究極の心理を見た気がした。

そう、だから純粋にTracy監督の話を聞いてみたいと思った。朝早く起きれば日本からでもZoom講演会の時間に間に合う。

でもいざ講演会に登録しようと思った時に、いろんな不安が襲ってきた。英語ちゃんと理解できるだろうか。では一人ずつ質問どうぞとか言われたらどうしよう。そもそも何人くらい集まるんだろうか。Zoomは顔出しだろうか。
日本人は私だけだろうか。変に注目されたらどうしよう?小心者の私はいろんな考えが駆け巡る。

でも、ただTracy監督の話を聞いてみたい!その一心で講演会の参加に勇気を出して登録した。

当日、Zoomの中で顔出しした私の存在はやっぱりちょっと異質だったと思う。でも、やっぱり出席して良かった。 Tracy監督がこれまで関わってきた作品を聞いてわたしは驚き、胸が高鳴った。『アンという名の少女』、『Mohawk Girls』私がカナダにいた時大好きだった番組ばかり。嘘みたいだ。

Tracy監督はこの出来事で経験したトラウマに30年かけて向き合い、『Beans』の脚本に8年かけたという。今でも当時のことを思い出すと涙がでるという。そんな辛い出来事を作品に落とし込んでこの世に届けてくれたTracy監督に感謝したい。

監督の「ドキュメンタリー作品でも、真実がよく見えない作品があるのも事実。人の気持ちを本当に表現している作品はドキュメンタリーの分野じゃなくて真実を語っている。」という言葉の説得力はすごかった。
人間の感情とちゃんと向き合って分析してそれを映像化する。並大抵なことではないけど、このプロセスを行なってこそ初めて人にちゃんと伝わるのだと思う。
そしてそれが私が映画が好きな理由なんだと思う。

そしてそれがきっかけでカナダの先住民のことがもっと知りたくなって、小説『Five Little Indians』を読んで、映画『ブートレッガー 密売人』を観た。こんなふうにわたしの中で先住民の世界がどんどん広がっている。

『真実と和解の日』にちなんで、日本人のわたしに何ができるか。きっと大切なのはこの経験を誰かに届けること。
監督が言っていた「プラスワンアクション」。 自分が受けたこの影響を誰かに知ってもらえたら嬉しい。

Photo by Hermes Rivera on Unsplash

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