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『幸せは足元にある』

豊かな自然に囲まれて、人間も動物たちものびのびと生活しているトロイ村に、ケントという名の14歳の少年がいました。彼は、働き者の両親と祖母、そして、双子のかわいい妹たちとともに、質素だけれど穏やかな生活を送っていました。綺麗に洗濯されたカラフルなシャツとバミューダパンツが良く似合う、金髪の、活発なケント少年は、街に行きたくて仕方がありません。

今も幸せだけど、街に行けば、自分も家族も、もっと幸せになれる何かが沢山あるに違いないと信じていたから。街は遠いけれど、そんなケントを、お父さん、お母さん、おばあちゃんは、快く応援してくれました。だって、挑戦することは大切だし、経験して成長してほしかったから。

ケントはワクワクいっぱいで旅支度を終え、荷物を確認していた時、「大変だ、一番大事なもの忘れてた!」。家族の写真が入ったロケットペンダントです。「確か宝箱の中にあったはず」と、宝箱を開けようとしましたが、鍵がありません。「そうだ、大事な鍵だから、秘密の場所にしまったんだった。探しに行かなきゃ!」ケントは急いで近くの森に行き、思い出しながら隠し場所を探します。

すると、ひとりの老人がうずくまっているのが見えました。「どうしたのかなぁ、急いでいるんだけどなぁ、、、」どうしてもほおっておけなかったケントが老人に近づくと、老人は「薬草を頼む」と言います。ケントは、小さな頃から、おばあちゃんや両親に薬草の見つけ方や使い方を教わっていたので、すぐに近くにある薬草を見つけることができました。老人は薬草のおかげで、無事に動けるようになりました。

ほっとしたケントでしたが、急に鍵のことを思い出して慌てます。すると、薬草を採ったあたりで、キラリと光るものが。近づいてみると、薬草に囲まれた大きな木の根元の小さな穴に、探していた鍵があったのです。鍵を見つけて大喜びのケントは、急いで家に戻り、宝箱から大切なロケットペンダントを取り出し、意気揚々と冒険の旅に出かけました。

ようやくたどり着いた街。ひともお店もいっぱいです。村にはほとんど走っていない自動車がゴーゴーと走り、人びとは忙しそうです。最初こそ、「わ~、凄いなぁ!やっぱり街には何でもある!」と感激しましたが、次第に、人びとが皆、自分以外の人に無関心なように見え、当たり前のように飲むことのできていた美味しいお水もなく、体中を元気にしてくれるようなすがすがしい空気も無いことに気づきます。

そう、確かに街は物で溢れていました。でもケントが意識すらしなかった、美味しい水やきれいな空気、そして、人びとや動物たちとのあたたかな交流は、街には無かったのです。何もないと思っていた村での生活の中には、お金では買えない、かけがえのないものがあって、その中で生きている自分たちはなんて幸せなのだろう、ということに気づいたのでした。

「冒険してよかった。街に来て良かった。」と、この冒険を見守ってくれている家族に感謝しながら、ケントは村に戻りました。そして、幸せは自分たちの足元にあったことに気づいた彼は、先生になり、村の子どもたちに、そのことを伝えるとともに、どんどん冒険して、たくさん経験することの大切さを伝えていきました。

おしまい。

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