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今年のお気に入り作品たち

反応しない練習

『反応しない練習』という本の題名を聞くとどんな本を想像するだろうか?個人的には、「ああ、自己啓発本かな。あまり好きじゃないんだよな」と思った。
しかし、実はこの本、仏教の仏陀の教えをわかりやすく説き、実生活でどのように応用していくと楽に過ごせるかという内容なのだ。

現代社会に生きる私たちはデジタルに揉まれ、多くの刺激を常に受けながら生きている。そのような社会では便利になると同時にストレスも多く抱えながら生きることになり、様々な刺激に敏感になりながら時に人を傷つけたり、そして自分を傷つけることがある。
例えば時間・人を問わずメッセージを受信する。そのメッセージの内容ひとつで我々ば良くも悪くも反応を示しているだろう。そのような出来事にないして仏教の教えを取り入れることによってできる限り反応しないようになり、反応しなければ感情の波の小さい平穏な日常を送れるのではないか、などといった内容になっている。

実際、この本を読んだ後、自分が他者や出来事を見る見方が変わり、割と多くのことを受け入れられるようになったし、怒りや悲しみを感じる頻度も減った。この本の中にも出てくるが、妄想と事実をしっかり切り分けられるようになるのである。
私はよく人の表情や声のトーン、些細なメッセージからその人が何を考えているのか想像し、勝手に不安になったり悲しくなったりすることがあったが、本著を読んでからはそのようなことに反応することなく、より楽に生活を送り人間関係を築くことができるようになった。ネタバレをしたくないのであまり突っ込んだことは書かないが、日々の生活、人間関係に疲れている人はぜひ読んでほしい一冊だ。

流浪の月

これは今年読んだ中で一番衝撃を受けた作品である。
そしてそれと同時にこのようなテーマでうまくストーリーを描ける作家さんが本当にすごい。
本作品はフィクションで、ある女の子が主人公となっている。
その子が誘拐事件の被害者として報道された過去があり、その事件について彼女自身が否定しているものの社会からの見方は「誘拐された被害者でかわいそうな子。むごい事件で心に大きな傷を負った子」となっているのだ。
この作品では現代のメディアがはらむ問題、SNSの問題、性、人間関係などの様々な(個人的に)ホットなテーマが盛りだくさんだった。
今の社会で生きていく中で毎日必ず目にするメディアやSNS。正しい情報を取捨選択しよう、事実をしっかり見極めようとは言っても、その事実の解釈の仕方は個人によって異なる。果たしてその事実は正しいといえるのだろうか。
また現在ようやく同性愛者やその他のセクシュアリティが認められるようにはなってきたが、例えばそれ以外の自分の知らないアイデンティティに出会ったときにやはり皆理解できない、しようとしないで異質なものとして扱ってしまうのではないだろうか?アイデンティティや人との関係性なんて他人が判断するものではないのに、してしまっていないだろうか?本人たちの幸せなように生きていけばよいのになぜ我々はジャッジしてしまうのだろうか。
そんなようなことを作品を通じて自分に問いかけることができた。
また、彼女の両親と暮らしていたアパートの情景描写がとても素敵で、ウキウキするようなベランダの情景はとても好きだった。

N/A

これもセクシュアリティやダイバーシティについて考えさせられる作品である。
先ほども述べたようにLGBTなど多様性が認められるようになった社会の中でもある程度カテゴリー分けされてしまっているような気がする。例えばこの人はゲイ、この人はトランスジェンダー、じゃあこの人は…?となったときにどこにも当てはまらない人がいたら「異質」な人として扱われてしまうのではないか、そんな懸念がまだまだぬぐえない。

主人公の女の子は女子高に通っており、食事を極端に減らしている。その理由は「生理がきてほしくないから」。体は大変細くなっていて、中性的に見えていることから女子高内での人気が高い。ある女性から告白されてから付き合っているが、彼女自身特に同性が好きというわけでも男性に見られたいとも思っていないのだ。そんな「どこにも属さない」彼女が生活している中で感じる生きづらさなどがよく描写されている。

最近私が感じているのはそれぞれある程度大きな枠組みでカテゴリー分けすることは可能かもしれないけれど、本質はそれぞれ違っていて勝手に社会が個人をカテゴライズするのはおかしいのではないかなということだ。
例えば私は男性と付き合ってはいるが可能性として女性と付き合う未来もありえなくはないのかなと感じたり、かっこいいといわれることに喜びを感じたり、結婚願望がなかったり…ほかの人が考える「普通」とは異なる部分もきっとありそれを無視したカテゴリーは乱暴なものだなとも思える。
主人公が女子高生で非常に敏感な心の動きが描写されており、自分だったらと考えざるを得ない作品だ。


#読書の秋2022

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