ラヴ・トレインは進むよ、どこまでも(鈍行だけど)――オージェイズ、グラディス・ナイト、エル・デバージ ライヴ・レポート

今年(8月23日現在)読んだなかで、個人的にいちばんハマったのが、ディーシャ・フィルヨーの『The Secret Lives of Church Ladies』(2020年刊)という短編集。このなかに収録されている「When Eddie Levert Comes」(年老いた母親を介護しているのに、家族でもっとも軽んじられている娘を描いた 傑作)でエディ・リヴァートを久々に思い出し、「オージェイズ、まだコンサートしてんのかな……」と調べてみたところ……

2020年刊ですが、ビヨンセの「Church Girl」がらみで、また話題になっています。

あっ! ラスト・ツアーやってる! それもグラディス・ナイトと! え? ワシントンDC公演はエル課長ことエル・デバージが前座?! あまりの豪華ラインナップに、即決でチケットを買いました。

オージェイズを最後に観たのは、ボルチモアのPier Six Pavilion(現在のMECU Pavilion)という野外ステージ。10年ほど前でしょうか。その時もグラディス・ナイトとのダブル・ヘッドライナーでした。黄色いサテン生地のようなテッカテカのスーツを着て熱唱する3人は、野太い少年隊といった趣で、特にエディ・リヴァートは、汗だくで腰を振りながらの咆哮! ウォーカー使用率の高い会場でしたが(70代以上のお客さんもたくさん!)、ワイルドなセックスアピールにやられて、腰の立たなくなる女性ファンがさらに増えてしまうのでは? と心配になるほどの男汁したたるパフォーマンスでした。(そういえば前述の話でも、昔エディと一夜を過ごしたことがあると言い張る母親が、エディはいつ会いに来てくれるのかと娘にしつこく尋ねるシーンが出てきます。)

<Last Stop on the Love Train --- The O’Jays Farewell Tour>と題されたファイナル・ツアーのワシントンDC公演は、八村塁くんが所属するワシントン・ウィザーズのホーム、キャピタル・ワン・アリーナが会場で、コンサート当日(2022年8月13日)のアリーナ周りは、「アメリカの巣鴨」的な様相を呈していました。

会場がノー・バッグ・ポリシー(クラッチサイズを超えるバッグは持ち込み禁止)だったせいか、荷物検査に時間を取られず、入場がスムーズだったのは新鮮な驚きでした。開演まで30分以上あったため、「いやげものとして優秀なグッズ(←現実は全ての商品が「いやげ」というレヴェルの高さ)」を物色しようと、売り場に足を運びました。幸い7~8人しか並んでいない。よし、これなら楽勝。と並んでみたはいいものの……

Tシャツ購入者は、販売業者さんから「決して乾燥機には入れないように」と念を押されました。

いやあ、コロナ禍でしばらくコンサートに足を運んでいなかったため、中高年のR&Bファンがどれほどマイペース(厚かましい、ともいう)か、すっかり忘れていました。客1人につき、5分くらいかかる。なぜならみんな、各Tシャツのデザインやサイズにこだわり、質問しまくるから。ある男性なんて、「ちょっとあんた、10分以上かかってるじゃない! 早くしてよ!」と後方から罵声が飛んでいたほど。それでもまったく動じずに、熟考を重ねたおっさん、ようやくTシャツ購入、おめでとうお疲れさま……と思ったら……わあ! 値切り始めてる(笑)

しかし、こういうのを含めて、R&Bのコンサートは楽しいんですよ……ビールのコーナーで並びながら、踊っているおっさんもいるし(←酒いらんだろ状態)。とはいえ、Tシャツを買うのに40分ほどかかり、エル課長の出番が始まってしまいました。2曲ほど見逃した……

大きなアリーナなので客の入りを心配していましたが、上の階を除けばかなりお客さんは入っていました。女性客が多かったです。エル課長はバンドなしで、自身のキーボードとバックトラックのみで歌っていました。声はかなり出ていて、体調も良さそう。さんざんドラッグで苦労した61歳(そして12人の子持ち)思えないほど、ピュアで甘酸っぱい歌声が、相変わらずの少年っぽさ(DT感の婉曲表現)を醸し出していました。「Time Will Reveal」、「I Like It」、「I Call Your Name」と歌って、最後は「Rhythm of the Night」。やだ、ここで課長の弱点がっ……歌のほうはプロフェッショナルなのに、ステップが忘年会の万年課長。余興感ハンパねえ……<Essence Music Festival>で初めて彼のパフォーマンスを観た時、このステップの安さに驚いて、「課長」というニックネームをつけてしまったわけですが、デバージ家に日本一詳しいと思われる村長(ブルックリン在住の日本人女性、石黒治恵氏)によれば、ステップのぎこちなさはエル課長だけの問題ではなく、きょうだい全員に共通しているようです。

エッセンス・ミュージック・フェスティヴァルでのエル課長。

エル課長の前座が終わると、グラディス・ナイトの準備ができるまではDJタイム。中高年の観客が大半を占めるコンサートの場合、クエストラヴがDJする時のような小賢しい選曲は求められず、とにかく王道、王道、王道を繋いで盛り上げるのが大切なよう。パーラメントの「Flashlight」 や、KC & ザ・サンシャイン・バンドの「That’s The Way I Like It」、キャメオの「Candy」、ビヨンセのカヴァーによってメインストリームでも知られるようになったメイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリーの「Before I Leg Go」など、会場はカラオケ状態に。キャメオといえば最大のヒット曲は「Word Up」ですが、R&Bコンサートの会場で必ずかかるのは「Candy」です。

キャメオといえば、ラリー・ブラックモンの股間を守る赤いカップ!

2番手のグラディス・ナイトは、アンソニー・デイヴィッドの名曲「4evermore」で登場。ステイプル・シンガーズの「I’ll Take You There」を軽く歌った後は、「Love Overboard」、「I’ve Got To Use My Imagination」、「If I Were Your Woman」、「I Heard It Through the Grapevine」、「Neither One of Us」、「The Way We Were」、「The Makings of You」、「On & On」(カーティス・メイフィールドとの思い出を語りながら)など、有名曲を次から次へと気前よく披露し、「Midnight Train to Georgia」で締めました。

一部の曲でキーは下げていたものの、78歳の現在も声のとおりは見事で、現在も活動している70代以上アーティストの喉ぢからを思い知らされました。Much respect…! グラディスでもうひとつ素敵だったのが、その可愛らしさと親しみやすさ。レジェンド級のアーティストなのに、MCの最中で話の腰を折るように叫んできた女性客に向かっても、「You got lungs, girrrrl!(肺活量ヤバいね!)」なんて答える心の広さ。グラディスと観客のやり取りを見ていて、「黒人ファンはアーティストを親戚あつかいする人が多い。神あつかいはしない」と、R&B好きの黒人女性が以前言っていたのを思い出しました。カニエやケンドリックなどは、白人ファンが増えてロックスターのように崇められるようになりましたが、ブラック・ミュージックでは比較的新しい傾向なのかもしれません(←テキトー言ってるだけなんで、鵜呑みにしないでね)。K・ミッシェルなんて、崇拝どころか観客の女子たちから愛を込めてビッチ、ビッチ言われてましたし、エリック・ロバーソンも、会場のお客さんから「即興で何か歌え」と無理を言われて応えていましたし、確かに対等な感じはするかも。

4人の年齢を足したら302歳でした。素敵すぎる!

グラディスの後はお待ちかね、今回がラスト・ツアーとなるオージェイズの登場! 赤いスーツで「Give the People What They Want」を歌う3人に歓声が沸きますが、あれ? エディさんはどこ? 曲が終わってMCに入り、謎が判明しました。「ミスター・リヴァートは、本日ここにいません」。えええええ!! 何それ、聞いてないよ! 会場はざわめきます。コロナからの肺炎だそうです(心配……)。「事前に分かっていたなら、エディはいませんって発表しとけよ」と思ってしまうのも人情でしょうが、ここのお客さんたちの何がいいって、「ええええ??!」と言った直後に、「せっかくパーティしに来たんだし、とりあえず代役も歌うまいし曲もいいし、まあいっか」と気を取り直して、何事もなかったかのように楽しめること。誰一人として帰ることもなく、観客はそのままエディさん抜きのコンサートを楽しみました。

「Livin’ for the Weekend」、「Backstabbers」(←藤井風くんがカヴァーしていましたが、オリジナルはオージェイズ!)、「Wildflower」、「Brandy」、「Let Me Make Love To You」、「For the Love of Money」など、往年のヒット曲をどんどこ歌ったオージェイズ、もちろん最後はツアー名にも入っている名曲「Love Train」での大団円! 1972年のリリースから50年の歳月を経た「愛の列車」は、さすがにもう鈍行かもだけど、まだまだ元気に走っていました!(と書いてはみましたが、『ソウル・トレイン』出演時の動画を見ていたら、若い頃の彼らもそこまでスピーディ&軽やかな動きではなく、どちらかというと大型トラックっぽかった……)

1958年のデビューから64年(長い……店かよ)。エディさんなしでのラスト・ツアーは、あまりにも寂しすぎる……と思っていたら、「次にお会いする時は、ミスター・リヴァートもいると思います」みたいなことをメンバーが何回か言っていたので、エディさんを入れての仕切り直しツアーがそのうちあるかも?(あってほしい!) ジョージ・クリントン御大も、2020年でツアー引退なんて言っておきながら、素知らぬ顔でいまだにコンサートしているし、ツアー引退するする詐欺ならいくらでも大歓迎。エディさん、早く元気になってまた精力もりっもりの歌声を聞かせてください!

ネタで買ったけど普通に愛用しているスモーキー・ロビンソンのTシャツ。ご長寿Tシャツ万歳!



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