異端の祝祭(芦花公園)

閉鎖的な村に伝わる何某~とか、カルト宗教、そういったワードに反応する人はきっと気に入るであろうホラー小説。
ミステリー要素も強く、読み易い読ませる文章です。

あとこの作品で印象的だった事の一つが、フィクション作品において定番と思われる男女の役割、ジェンダーの逆転現象でした。

この話は島本笑美という就活中の若い女性が、何社も落ちた末にカルト宗教みたいな事やってる変な企業に拾われるとこから始まるのですが

そんな笑美を心配して彼女の兄である陽太が相談した霊能探偵事務所の所長であり本作のヒロイン、佐々木るみ。

若くして探偵事務所を経営する女性、るみ。
深町秋生の描く八神瑛子とか、篠原涼子辺りが演じてそうな、デキる女でございなキャラを想像してたのですが、るみは常に上下のスウェット姿で髪はボサボサ、厚底眼鏡、肥満体、喋り方もアガサクリスティーの名探偵ポワロみたいな感じ。
初対面の人は、大抵るみをおじさんだと解釈するそう。

外見はのほほんとしたおじさんですが、るみは知識が豊富で頭の回転も速く、仕事はできるそうで彼女の助手である青山はるみを素直に尊敬しています。
また、るみは穏やかな表の顔とは裏腹に、かなり強烈な内面の持ち主である事が後に明かされます。
私利私欲に正直で、嗜虐心や暴力性、邪悪な性質であるが、目的は正義というヒロインが活躍するって珍しい気がしました。おまけに外見も悪いし。

そしてるみの助手である青山幸喜、彼は外見美しく人懐っこくて、しっかり者。全体的にキャピキャピしている。

フィクション作品における、ジェンダーが逆転してて面白い。

青山ような男性キャラはともかく、るみのような女性キャラはかなり好き嫌い別れると思います。
彼女は作中で子供の頃に同性からハブられたり、イジメられたりしているのですが、実際こうした女性は女性受けも悪い。女性の多くは美しいもの、キラキラしたものを好みますから。
実は女性の多くも、美女が好きなものなのです。

そう考えると、かなり挑戦した作品だなーと思いました。私は好きです、こういうの。


あと、この作品に出てくるカルト宗教の教義というか神話の話をするシーンが出てくるのですが、そんな事全然知らない子供たちに「知ってて当然だよね?」という風に話してるもんだから、話聞いてる子供たちはガクブル震えてるんですけど、その様子があまりにシュールでこっちは声出して笑っちゃった。
神話の内容が、これまたシュールなんですよ。眼窩女が巨大な眼窩にイエスを身ごもり、牧羊犬の小屋で産んで息を引きとった。イエスは牧羊犬に育てられた云々…こんなんよく思いついたな、と。

カルト宗教の儀式も、かなりシュールでおかしいものなのですが、これリアリティあるなと思いました。
実際、オウムや幸福の科学のように、カルト宗教ってお笑い要素のある場合が少なくないんですよね。
多分、それも戦略のうちなのかなと。そうやって「怖くないよ~」と油断させ「面白そう」と興味を引く効果があるのでは。

そして、そんなカルト宗教のボスであるヤンと名乗る男。
少年の様なあどけない外見、柔和な物腰や物言い、そして何より対面した相手が好意を抱かずにいられない独特な雰囲気。

いるよね、こういう人。ヤンの様に特殊能力を持つまでには至らずとも、何も特異な言動はとっていないのに、相手に好感を抱かせる天才みたいな。こういうの、カリスマ性と言えるのでしょうか?

ヤンはこの特殊な才能で笑美を篭絡するオム・ファタールとして描かれます。
しかし、ヤンの作ったカルト宗教以上に恐ろしい、と作者が青山に言わせた存在が笑美の兄である陽太。
陽太は…DV営業のホストに似ているような、近いような、そんな気がしました。カルト宗教とどちらが怖いかって、どんぐりの背比べじゃないかと思うのだけど…
しかしだとしても、「星屑の王子様」がまだ好意的と思えるくらい容赦ない書かれ方です、陽太は。
芦花公園先生には是非、DV営業のホストを描いたホラーを書いてほしいと思いました。星屑の王子様を超える気がします。


そして陽太の支配下で育った笑美は、支配と従属という人間関係しか築く事ができず、兄やヤンによって植え付けられた世界を周囲に強いるようになる、そんな暗示を感じさせる最後。

これは正に、最近見た映画「オオカミの家」…
同時に青山君らによって大事にならないかも、という希望もあるわけですが。









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