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映画『逆光』パンフレット:編集後記

7月17日、我が街唯一の映画館「シネマ尾道」で、映画『逆光』がいよいよ封切りとなった。

スクリーンに鮮やかに浮かび上がる、尾道の繊細なひと夏に改めて感動を覚えた。それまで資料としてPCで観ていたものと比べ、色といい音といい、臨場感が増していて、山の木漏れ日も、海の泡たちも、瑞々しく心に降り注ぎ、その中で交錯する若者たちの無防備な感性に、何度も息を凝らすのだった。

上映後は須藤監督、渡辺あやさんによる舞台挨拶。監督が感極まって声を詰まらせる場面もあった。本編のみならず、関連イベント、プロモーション、もちろんパンフレット制作にまで細やかにエネルギーを注ぎ込んできたことの証明だったと思う。

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今回パンフレット制作を承り、薄ら関わらせてもらった私でさえ、ああ、やっと初日を迎えられたねよかったね……と、安堵と感慨に浸った次第。

そもそもの発端は、「尾道に住んでいる」という、それだけ。数年前の東京在住時であったらこのチームと知り合うことすら叶わなかったものを、フィルムラボの北村さんのご采配によりお二人をご紹介いただき、パンフレットを、私が作りたいと言ったのか、先方に作ってほしいと頼まれたのか、それすら思い出せないほどの素早さで制作させていただくことが決まったのだった。

もともと渡辺あやさんのファンなんです、はい。『ジョゼと虎と魚たち』、『カーネーション』、『ノーボーイズ、ノークライ』『火の魚』も好きで、いや、なんと言っても『その街のこども』が素晴らしい。未見の方、ぜひともご覧あれ。

その渡辺あやさん脚本の『ワンダーウォール』という作品で、須藤蓮さんのことも知っていました。

NHK大河ドラマ『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』の国旗係さんとしても認識あり。まだお若いでしょ。私からしたらお孫ちゃんみたいな歳の男の子が映画監督ですってーーー。

というところから始まりましたが、すぐに、掛け値なくこの『逆光』の世界観が好きになりましたし、須藤蓮という人の才能と魅力にも、パンくずを拾いながらお菓子の家に向かうような辿々しさで、少しずつ近づいていったのでした。


表紙問題

パンフレット制作にあたり、まず決めるべきは、大きさ、ページ数、そして、予算です。尾道水道に面したU2のデッキにみんなで集まって、参考資料としてラッキーラクーンや過去に作った印刷物、あとは『アメリ』の冊子なども持参して、それぞれの要望を聞き、目安となった仕様の範囲内で何ができるかを考える(いつの日も予算の問題で頭を抱えることは変わらない)。

内容ももちろんすべてがすんなり決まったわけではないけれども、あやさんからご寄稿いただけることになったり、監督からは「脚本も載せましょう」と嬉しいお話があった。そこで私が提案したのは両面表紙で、縦書きの脚本は右開き、A to Z 形式で構成する逆光トリビアは横書きで左開き、というもの。みなさん好意的に聞き入れてくれて、そのとき既にぼんやりとではあるけれど、パンフレットの形が見えていたような気がする。

……と思ったのも束の間、最初に大きく意見が割れたのは、表紙でした。デザインはラッキーラクーンもお願いしている、青屋貴行さん。いつものように何点かの表紙案が届きました。

脚本の表紙はカチッと毅然としていて、反対側のABC BOOKの表紙はポップに、けれど両方開いてみると繋がっているという、『逆光』の内容にもリンクするような表裏一体となるイメージ。青屋くんはこのリクエストに見事に応えてくれていて、ピンクとブルーのキャッチーなデザインを私は気に入ったのですが、須藤監督はオレンジと濃いブルーのものがいいと言う。あやさんはじめ、パンフレットのグループLINEでもオレンジver.が好評のよう。

後日、対面で打ち合わせしたときも、監督は何度も「映画を観たあとに手に取りたくなる色」と繰り返し、あたかもロビーでパンフを手に取るようなジェスチャーを交えてこちらを説得してきたのでした。

クライアントがそう仰るなら、そういたしましょう、と受け入れつつ、表紙問題はその後も持ち越されることになる(もちろん、パンフレットが完成した今はこれが大正解だったと思っています)。

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内容としては、監督はじめキャストの方々のインタビュー、劇伴を作られた大友良英さんのお話も伺いたいし、A to Z の構成も細かく確認していきたい。さらに脚本をどう載せるか、クレジット、写真、みーこちゃん(木越明さん)にイラストも描いてほしい……。A5サイズ、表紙まわり併せて44ページの冊子の中で、この全部を実現することになった。

A to Zの項目はみんなでワイワイ考えたものの、現実的な、インタビューのスケジューリングと場所の決定、必要な写真やクレジットのデータの手配、A to Zの項目に対するコメントなどはすべて監督のグッジョブでした。

それらを受け取り、台割作り、インタビュー、原稿執筆、写真撮影(キャストの方々)、ラフ割からのデザイン出しもろもろが私の仕事です。

映画では文江の姉役で出演されている、シネマ尾道支配人・河本清順さんにもお話を伺いました。ありがとうございました。


俳優さんたち

東京にて、俳優のみなさんにお会いした。

最初は、中崎敏さん。取材場所となるマンションの入口で彼と遭遇。はじめまして、と挨拶するやいなや、「甘いものはお好きですか?」ときた(♡)。近所の和菓子屋さんでどら焼きを買ってきたのでみんなで食べましょうと微笑む彼は「吉岡」の面影を色濃く残していた。

インタビューでは少年時代から今後の展望まで、忌憚なく話してくれて、特に最後の須藤監督に対する思いは胸打たれるものがあった。

パンフレットのA to ZはAの「晃」から始まり、Zは晃が眠る姿(zzz…)で終わるのだけれど、眠る晃の傍ら(対向ページ)で中崎さんが晃への思いを語っている。

さらに、映画の中で吉岡が腰掛けていた椅子は、尾道ハンドクラフト&カフェ YES。のエイジさん作なのだが、どんな椅子に座っていたかによって吉岡の演技も変わっていたと豪語する須藤監督の話に感銘し(パンフレット内インタビュー参照)、椅子の写真も入れてみる(この写真を撮るために、お休みだったお店をわざわざ開けてくれてご協力いただいたエイジさんに感謝)。

小さなこだわり。誰も気づかないだろうけれど、一人でグッと来てしまう、私だけの(?)大事な見開きなのでした。

みーこ役の木越明さんはお会いした途端、「うわ、みーこだ……♡」と心の中で呟いてしまったくらい、みーこの天然の美しさを湛えつつ、とてもやさしくて聡明な方でした。一つ一つの質問に丁寧に答えながら、ときどき自然に尾道弁が混ざる。尾道商店街で買ったアクセサリーをつけて登場しているシーンがあることとか、コインランドリーで知り合ったおねえさんのこととか、尾道滞在中のエピソードはどれもショートストーリーのようにかわいらしい。

イラストも描いていただいた。「みーこが描いた」という設定で、ロケ地がわかる地図になっている。届いたデータを監督に送ったらすぐに「いやん♡かわいい♡」と返信がありました。

さて、この映画で私が最も共感したのは、文江でした。ずっと昔に同じようなことがあったから。つまりは、晃のような友達が私にもいて、彼の悩みを聞かされ、私も少なからず戸惑いを抱いていたから。

なので、富山えり子さんにお会いしたときは、勝手に親近感を抱いてしまい、本当のところ文江は晃に対してどんな気持ちでいるんでしょう? などという質問を投げかけ、富山さんの役作りについてネホリハホリ聞いてしまいました。そしてその答えに、そうか、そうなのか、そうですよね……と、深く納得(パンフレット参照)。文江の、あの凛とした清潔さ、美しさにも通じるお話なのでした。

俳優さんたちはどなたも『逆光』での役柄を匂わせながらも、すでに違う時代の違う場所でいきいきと暮らしている、その眩しさを体感しました。

その後、原稿を書きながら、ああ、こんな体験もまた、渡辺あやさんのおっしゃる「永遠の一瞬」なのかもしれないと思いました。


大友良英さん

最終入稿日ギリギリになって、須藤監督のご尽力により、大友良英さんのお時間をいただくことができ、リモートでインタビューさせていただきました。「早速ですが、映画の感想を聞かせてください」と言ったら、「ええ〜、いきなり〜?(笑)」と、大友さん。けれどそこからは立て板に水、『逆光』に対する思いや、光を意識した作曲、尾道について、ZOOMの制限時間いっぱいまで多岐にわたるお話を聞かせてくれました。「いい作品は人を繋げる」という言葉も印象的でした。

『その街のこども』は元より、『あまちゃん』『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』ファンの私にとって、大友さんの、音符の一つ一つにみなぎるエネルギー、体の芯から沸き起こるようなパワフルな音楽は日々の糧となっておりまして。

後日(7/23)、尾道・浄泉寺で行なわれた大友さんの即興ライブには心から感動しました。電車の音や蝉の声が容赦なく聴こえてくる中、大友さんのエレキも毅然と唸ります。「反戦歌を歌います」と言って加川良の「教訓 I」の弾き語りをされたのだけれど、その日はたまたま東京五輪開会式の日でもあり、『いだてん』の「今の日本は世界に見せたい日本ですか?」という名台詞を想起しながら聴いていたら、なんとも目頭が熱くなるのでした。

アンコールでは、渡辺あやさん、須藤監督、大友さん、そして会場のお客さんたちと一緒に「その街のこども」を歌う中、場内では尾道のこどもたちがはしゃぎまわっていて、あのドラマのせつなさと、この場の可笑しみが混ざり合い、同時に音楽の逞しさを知ることになりました。

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さいごに

もしも8年前、尾道に引っ越して来ていなかったら、あやさんや蓮くんとも出会っておらず、映画のパンフレットを作ることもなく、大友さんの浄泉寺ライブにも行けてなかったのだと思うと、不思議な気持ちです。

8月23日まで、広島・蔦屋書店で開かれている『逆光』フェアで、あやさん、蓮くん、書店の方々が選書した「『逆光』をより深く楽しむための本」のコーナーがあるそうで、こういった文化的な広がりも、この映画の大きな特徴の一つだと思いました。写真集の発行、セレクトショップでの衣装の展示&グッズ販売、とどまることを知らないアイデアとエネルギー、素晴らしいな。

ならば、と。より深くなるかどうかはわかりませんが、イメージが膨らむかもしれない曲を選んでみたりして。

駅前映画館/The東南西北
Sugar Town/Nancy Sinatra
愛するってこわい/じゅん&ネネ
All I've Got To Do/Susanna Hoffs
カレーライス/遠藤賢司

どうかなー。
エンケンさんの「カレーライス」の歌詞には、テレビを見ていたら誰かがお腹を切っちゃった、というくだりがある。「ふーん、痛いだろうにね」と。

こういう余波の部分で遊ばせてくれるのも、この映画の包容力あればこそ。そうして小さな想像の蕾がいつか花開くことがあったら、さらにおもしろいことになる可能性もあるわけで。

渡辺あやさんの鋭くひたむきな感性、須藤蓮くんのあくなき情熱、そして、俳優・スタッフ・映画館・プロモーターからなる逆光チームのみなさんの楽しそうな笑顔が舞い降りた2021年の尾道の夏は、もう、眩しいったらありません。

さまざまなご縁に感謝します。ありがとうございました。

あと、言い残したことは……あるような気もするけど。今日のところはこのへんで。また来週!

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追伸。尾道で、海を背に写真を撮るとすべて"逆光"になるそうです。


☆オマケ☆
最初の打ち合わせ後、デザイナーさんに提出したラフ割。

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☆オマケ・2☆
「文江」になりたい夏でした……。

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