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ものがたり

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夢 物 語

わたしは父と屋上のベランダにいた。 すると 烏が 一羽 飛んできて 父の頭のてっぺんをつついた。 軽く ちょんちょん と。 それから わたしの頭に飛びうつり ちょんちょん と。 わたしは とても 怖かった。 父は 相変わらずのその性格で 烏を 煽った。 わたしは とても 怖くなった。 ”烏が 怒ったら 頭に 穴が開いてしまう” 父は わたしに向かって 笑った。 わたしは 父に向かって 睨んだ。 そのあいだも 烏は 森に かえることなく わたしと 父の

とある 私のおはなし

あるところに、偉い社長さんの秘書をしているかわいらしい女の子がいました。 女の子はなにをしたいのかわからず、しばらく笑顔で秘書をがんばっていました。 まわりのひとからは、羨ましがられました。 たくさんの国に出かけ、すばらしい経験をしました。 あたらしいことがたくさんあり、まるで夢の中にいるようでした。 しかし、彼女はくるしみをかかえていました。 あたらしいできごとは、彼女のくるしみをすこしのあいだやわらげてくれました。 ぜいたくな生活にこわさと居心地のわるさをかんじるよ

そのあとの おはなし

女の子は すっかり 女性 となりました。 偉い かしこい 社長さんのもとから飛びだし 彼女を育ててくれたひとたちのもとから飛びだし 彼女は この数年のあいだ ひとり 旅に出かけました。 一等車に乗り 一等の宿に身をやすめ そんな贅沢な生活からは すっかりと縁とおくなりました。 陶器の貯金ばこ にコツコツと貯めこんでおいた コインも 2年まえには ずっしり と それは彼女をしばし安心させてくれるだけの 重みが あったものの あっという間に すっかり 乾いた 寂しい 音 

惑星

おなじ言葉を話し、 おなじ歴史を学び、 おなじ様子をしている。 いつからだろう。 おなじはずなのに、言葉が通じなくなったのは。 いつからだろう。 おなじ言葉を持っていないのに、ことばが通じるようになったのは。 いろんな色を持つシャボン玉みたいな惑星が浮いている。 びょ~んびょん跳ねている。いいや、跳ねるのを嫌うジィっとしたやつもいる。 それは惑星のような丸くくっきりとした世界ではないかもしれない。 空気のようなもっと混じり合って温度みたいな存在かもしれない。 いつか

故郷

その船はとても長い時間と距離を旅していた。 スペインからポルトガル、サウジアラビアを経てようやく日本へきた。 その船は小さく、あるひとりの少女がそれを動かしていた。 その船は本日、「母」という名前の国の港を目指し入港しようとしていた。 それは彼女の故郷であり、それは彼女をいつも複雑な気持ちにさせる空間だった。 その船はいつもは静かに、でも早く進む。 他の船と交流するときは、少しざわっと揺れるように進む。 母の船と交流するときは、転覆するほどに揺れに揺れて進む。 そして、い

少年と椅子

少年は とある椅子を探して旅をしていた ルンマーン砂漠を歩きはじめてから もう10日は経ったころだろうか 「どこまでいっても 燃えるような砂だ  いや この砂は実際 燃えているのかもしれない」 熱い砂を足裏に感じ 気が滅入りながらも 少年の気持ちは高ぶっていた 「ようやく探していたものが見つかるんだ…!」 長い旅に 終わりを諭したのはガーバという街で偶然 出会った老婆の言葉だった 「炎のような砂漠にお前が探し求めてきたものがあるよ  時の経過を感じさせる壁 が目印だ