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『メタバースの「住める」化と「to Earn」を「Mars4」から考える』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】・Web3ニュース2022.6.29

■火星の土地がNFTで買える?「Mars4」

「火星の土地がNFTで売られるってよ!0.4ETHくらい。ほしいなぁ~」
と妻から聞いたのは一昨日。

まだこのニュースを目にしていなかった私。

「むかし月の土地を売ってたやつの火星版?今っぽくNFTにして勝手に売り出した人が現れたのね。」と応答。

月や火星の土地なんて「誰でも勝手に売る」ことはできてしまうし、何なら同じ土地を別の人が売ることもできます。

「そういうんじゃなくて、土地の上に建物を作ったりするメタバースみたいなやつ。」と妻。

あぁなるほど。火星をモチーフにしたThe SANDBOXみたいなサービスをやろうとしてる人がいるのか。

「原野商法かもしれないから気を付けてね。土地0.4ETHが高いか安いかはちゃんと都市開発が進むかどうかだから。」

「原野商法ってなに?」

「価値のない山林の土地を、『ここに線路と駅が引かれる計画があるんです。ここが駅前になったらすごい値段になりますよ。安いうちに買いませんか?』って誘ってくるけど実際には開発計画はないっていう、昔からよくある詐欺の手口だよ。

メタバースだと初めから詐欺るつもりでお金だけ集めて逃げる人もいるし、ちゃんとやる気があっても開発費が足りなくて失敗したり、メタバースの中のお店が流行らなくて失敗することもある。

土地を先に買って値上がりするかどうかを運に任せるのはただのギャンブルだから、メタバースの中でやられるお店だとかのプロジェクトが成功するかどうかが大事だよ。」

すると妻。
「メタバースの中でやるゲームみたい。みんながゲームで楽しむなら土地は値上がりするかなと思って。」

ようやく合点。

火星の土地をNFTにして勝手に売ってるわけじゃない。
SNSメタバースのサービスでもない。

これ、大規模なオープンワールド型のPlay to Earnゲームだ。


■大規模な「to Earn」サービスは成功するか?

オープンワールドゲームはPlay Stationなどでも昔からたくさんリリースされていて、大勢のファンもいます。

 実はメタバースのようなバーチャル空間は過去にいくつも存在している。例えば、筆者らが学生時代に熱中したMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)は、「オンライン上の空間である」「コミュニケーションが存在する」「経済活動が存在している」という点では、すでにメタバースの構成要素は満たしている。

メタバースに近しいゲームはこの記事に紹介されている通り、

1997年に発表された「ウルティマオンライン」、98年にサービスが開始された韓国の「リネージュ」、2002年に開始された「ラグナロクオンライン」、日本発では02年に開始された「ファイナルファンタジーXI」や、10年に開始された「ファイナルファンタジーXIV」など多くのタイトルが存在する。

とかなり昔からたくさんあります。

メタバースが「住める」ようになり、生活費を稼げるようになる世界観というのはイメージされていましたし、今回の「Mars4」も土地を買い、開墾して資源を集め、建築するというゲーム性は「火星に住む」ようなものだろうとイメージできます。

しかしこれを「to Earn」の文脈から見るといろいろ心配な点があります。


・プレイヤーのEarnの方法が不明確

Mars4公式が発表している収益化の方法はいくつか挙げられています。

運営が得る報酬の種類
 Mars Lands NFTs sales
 In-game NFTs Sales
 NFT Marketplace Transactions
 B2B Land Sales
 Rare NFTs sales
 In-game resources transactions
 Advertising and sponsorships
に加えて
Game Economy Incentivization Pool
が収入だとしています。

これら収入は
Community Pool
に入ります。

プレイヤーへの支払い、つまりEarnは
 Distribution for community
 Liquidity Pool
 Staking Rewards
としています。
具体的に何をやったら稼げるのかが書かれていません。

「プレイヤー」になるためには土地を買うか、土地を借りる必要があるようです。

土地を買った人はゲームをやらなくてもMars4全体の報酬の一部をもらえ、「不労所得」という表現で説明されている動画も多数あります。

しかし「ゲームをプレイすることで稼げる」という説明は今のところ見当たりません。PlayでEarnできないなら「土地を借りて遊ぶ」スカラーも生まれないはずで、スカラーがいなければ地主も報酬が得られないはずです。

そんなことは運営はわかっているはずなので、正式ローンチまでにはきっとPlayでEarnする仕組みを入れてくると思いますが、今のところ土地の売買とDeFi周りの情報ばかりが先行していて、プレイヤーのEarn方法が不明確なのが心配です。


・大規模ゲームは開発も維持費も高額

広大で美麗なオープンワールドゲームですから開発費も膨大です。
加えてブロックチェーン連携部分、トークン政策、DeFiなど通常のゲームにはないものも多数あります。

土地NFTを売る、NFTアイテム課金させるなどの収益だけで運営していけるのか心配です。

しかも通常のゲームやスマホゲームと違ってプレイヤーにはEarn報酬を払わなければなりません。Earn原資が大きくないと、または循環するお金の額が大きくないとEarnがショボくて「Play to Earn」の売り文句ではスカラーが集められない可能性があります。

かなり大人数のプレイヤーを集め、皆が課金する状態にならないと土地販売だけでは大規模ゲームは維持しづらいんじゃないか、というのが心配です。


・ゲーム開始後の追加課金は誰が払う?

地主は「不労所得」なのでゲームをやらない前提だとしたら、ゲームプレイでのNFTアイテム課金はスカラーさんがやるのでしょうか?そんなはずはありません。稼ぎに来たのに追加課金が必要ならスカラーにはなりません。


・EarnのためのPlayに時間がかかりすぎる

ゲームプレイのデモ動画では、鉱物資源を採掘して材料を集め、資材を組み合わせて建物を建築していました。

鉱物資源を探すために広大なマップを移動するのも時間がかかりますし、必要な資源量を採掘するのも時間がかかります。建築も楽しいですが時間がかかります。

最終的に出来上がった建物から莫大な報酬が手に入るならそれだけの時間を費やす価値があるかもしれませんが、今のところ建てた建物が収益源になるのかすらわかりません。

STEPNのように10分歩くだけで稼げるようなEarn設計の方が、報酬を目的とするなら圧倒的に楽です。


「to Earn」を謳うならある程度魅力的な収益額が必要ですし、多くの参加者を集めるなら時間も短い方がいい。「Play」ではあるので短すぎても面白くありませんからちょうどいいバランスが必要です。

そういう意味では現状「to Earn」はライトなゲームの方が向いていると思います。短時間で望外の報酬が得られ、運営も開発費・維持費を抑えられることからユーザーのEarn期待に応えやすくなります。

「Mars4」はPlay to Earnがメインではなく、住めるメタバース方向か、新しいオープンワールドゲームのかたち、なのかもしれません。


■メタバースの「住める」化も同じ課題

未来、メタバースが「住める」ようになることが期待されていますが、同じ問題を抱えるはずです。

美麗で広大で機能もリッチなメタバース。大勢の参加者が現実世界と同じように経済活動を行っている。

これを実現させるための初期開発費や維持費は相当なもので、損益分岐点を超えるユーザー数や課金量も相当です。運営側が維持費として徴収する「税金」もかなり高くなる恐れがあり、だったらシンプルなECサイトの方がいい、となりかねません。

または経済的に大成功したメタバースが登場したとしても「地主が一番儲かる」のは納得感が薄いような気がします。不動産業はもちろんひとつの産業ですが、「Mars4」のようにバース内の経済活動全体から報酬をもらえる権利を与えるのはやりすぎで、自分の土地、自分の建物から報酬を得られるようにするのが真っ当だろうと思います。

メタバースの「住める」化はとても夢があって期待しているのですが、実際には越えなければならないハードルがたくさんありそうだな、というのを「Mars4」のニュースで改めて感じました。

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