『国内スタートアップ評価額ランクインしたビットキー社のブロックチェーン観が深い』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.11.1

■国内スタートアップ評価額ランキング 3位「スマートニュース」、2位「GVE」、1位は?

1位は機械学習などの最先端技術を実用化する「Preferrerd Networks」で評価額は3539億円。2位はCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)プラットフォームを開発するGVE(2245億円)、3位にはニュースアプリを運営する「スマートニュース」(2004億円)がランクインした。

今日から11月ですが10月1日時点での「国内スタートアップ評価額ランキング」をご紹介します。

1位は機械学習や深層学習など最先端技術を実用化するという企業「Preferrerd Networks」で3,539億円、
2位はCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)プラットフォームを開発する「GVE」で2,245億円、
3位はお馴染み「スマートニュース」で2,004億円とのこと。

CBDCプラットフォームのGVE社が2位で2,245億円と評価されていることを鑑みると、将来CDBCが実用化されることが非常に期待されていることが伺えます。


■20位までを俯瞰した共通点

スタートアップの時価総額TOP20を俯瞰した共通点としては

・実用化前の先進技術を活用
・社会的課題の解決を目的とした企業が多め
・デジタルテクノロジー関連が多め

の3点が挙げられると思います。

これは最近のスタートアップの常で、すでに枯れた分野はスタートアップであまり扱われないこと、実用化出来たらすごいよね、に挑戦するのがスタートアップに期待されること、スピーディーな事業化にデジタルテクノロジーが相性がいいことが理由だろうと思います。

DX文脈の企業もいくつかランクインしていますが、DXの旬は過ぎている感がありスタートアップというより成熟期に入っていきそうです。

いわゆるweb3関連の企業はまだTOP20に登場していませんが、海外だと例えばOpenSeaは2022年1月時点の時価総額が130億米ドル(約1兆9,500億円)と桁違いの規模感のweb3スタートアップも登場しています。

日本ではweb3企業の海外流出が起きていることもTOP20のようなランキングに挙がりづらい原因です。特に独自トークンを発行する場合はトークンの発行企業をBVIなど海外に設立し連結対象外とせざるを得ないこともあり、エクイティの評価額だけだと顕在化しづらいということもあります。

将来もし日本国内で独自トークンを発行できるようになったら海外法人を連結対象にすることで時価評価額が一気に上がるweb3企業もあるかもしれません。


■20位の「ビットキー」のブロックチェーンの考え方が深い

20位の「ビットキー」が非常に興味深いと感じました。

ブロックチェーン技術を基盤としたスマートロック「bitlock」

と記述されているのですが、ビットキー社のWebサイトのビジョンのページを見ても、ブロックチェーンという言葉は登場しません。

ブロックチェーンを想起させるような図はあちこちにあるのですが、ブロックチェーン技術を声高に主張することがないスタンスです。また非常に抽象化された言葉遣いになっています。

2020年9月のブロックチェーンExpoでのインタビュー記事では示唆に富んだ視点を提示されています。

このビットキーのプラットフォームなのですが、当初IDと権利をやりとりできるということで、ブロックチェーンから着想を得て、創業前からブロックチェーンについて研究していたんですが、少し課題があるなと思って、現状では採用に至っていません

まず2020年時点ではブロックチェーンそのものは採用していないとのこと。
その理由が

実際にブロックチェーンに刻まれるべきトランザクションの正当性や正しさに関しては、課題感があるのではないかなというのが我々の理解です。実際刻むための取引のデータの真正性をどのように担保するのか、言い換えれば社会的な営みとどれだけ正しさを合わせていくのかが、大きな課題と感じています。

つまり、ブロックチェーンに刻まれたデータは改竄不可能で、改竄不可能にする技術を分散型システムで非中央集権的に実現できるのはよいが、書き込まれるデータ自体が信用できない。という理解です。

オフィスの電子キーを例に取ると、
1.社員ごとに個別に発行した電子キーをICカードに書き込む
 「誰が・いつ・誰のIDを発行したか」をログ記録して管理する
2.ICカードキーの使用履歴をログとして記録する
 「誰が・いつドアを開けたか」を管理する

この1.と2.のプロセスにブロックチェーン技術を入れれば改竄不可能でより強固なセキュリティが担保できる、と喧伝されがちです。

しかし1.ではID発行権限を持つ人へのなりすましを防ぐ必要があります。
2.ではカードキーの貸し借りや紛失、盗難によって第三者がドアを開けるケースもあります。

ログデータがブロックチェーンに刻まれているから改竄不可能で正しいデータだ、とは言い切れない状況が多々あります。

IDやロックなどセキュリティ周りのソリューションを提供するビットキーとしては「ブロックチェーンだから安全」のような誤った表現はできないはずですし、現にしていません。

NFTアートが「唯一無二」と表現されることの違和感も同じです。ビットキー社が言う実際刻むための取引のデータの真正性は、NFTだからということで担保されるものではありません。

ビットキー社が興味深いと感じるのは、この根本的な問題に正面から向き合った結果、最終製品やサービスに「ブロックチェーンだから」とか「NFTだから」ということを一切表現しない、市場アピールのためにブロックチェーン技術を喧伝しないという選択をしたにも関わらず時価総額20位と非常に高い評価を得ていることです。

以前ご紹介したスターバックスのNFTによるロイヤルティプログラムにNFTという言葉を使わない「スマートデザイン」という発想にもつながるものを感じます。

これからスタートアップ時価総額TOP20にはweb3企業がもっと入ってくるのだろうと期待も予想もしていますが、ランクインするweb3企業は声高にブロックチェーンだNFTだと言わずにひっそりと裏側で技術をぶん回し、本質的に社会問題を解決しようとするところが上位になるような気がしています。

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