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【宮沢賢治と私】③ ~小林敏也氏の『銀河鉄道の夜』

 画本・宮沢賢治シリーズでこだわりの絵本作りを続けている、小林敏也氏。青梅市に「山猫あとりゑ」をかまえ、その生活ぶりもまるで賢治さんのようだと、私は思っています。

 「絵本が私の表現の最終形」とおっしゃる小林敏也氏の絵本作りは、たいへんなこだわりを感じます。木版やスクラッチの手法で作られる絵本は、原画はモノクロですが、印刷の色指定などの手法を最大限に生かした作品に仕上がります。紙質にもこだわり、クラフト紙などに白インクを生かして印刷するなど、敏也流のアレンジが詰め込まれています。

 展示へのこだわりも相当なものです。当館で敏也氏の展示をさせて頂くときは、自ら監修をしてくださいます。『銀河鉄道の夜』を展示したときなどは、当館2階の奥の部屋に、スクラッチボードにアクリルをかぶせた形で、隙間無く一直線に並べて原画を展示したのです。私たちは走る夜汽車の中から、移り変わる景色を眺めるような感覚で原画を堪能しました。そして、さらに私たちを驚かせたこだわりの展示を提案して下さいました。

 敏也氏は、シベリウスの交響曲第6番が『銀河鉄道の夜』にぴったりだと気づきました。『銀河鉄道の夜』のスライドを作成し(当時はスライド映写機でした)展示室の1部屋を映写室にして、大きなスクリーンに映しながら、シベリウスの交響曲第6番を流しました。しかも画面が変わるタイミングは曲想にあわせてあり、特に第1楽章で、星の光る静かな野原の中を、汽車が次第にこちらに近づきながら白い煙を吐いて空に登っていくシーンは、ドッドッドッドッと低く刻むリズムが、実際に汽車が走っているかのようでぞっとするほどでした。

 敏也氏はイーハトーヴのハームキア(花巻市)から、宮沢賢治賞を贈られました。画本・宮沢賢治シリーズの中でも『銀河鉄道の夜』は、賢治と敏也氏の魂を結びつけた作品だと、私は感じるのです。

 今や賢治がのりうつったかのような敏也氏の表現は、私たちの魂をゆさぶるのです。 

(絵本美術館 森のおうち 館長 酒井倫子)

「宮沢賢治絵本原画展」
2022年1月28日(金)~2022年4月12日(火)
【展示作品】
『ポラーノの広場』宮沢賢治/作 みやこしあきこ/絵 (ミキハウス)
『注文の多い料理店』宮沢賢治/作 高野玲子/画 (TBSブリタニカ)
『土神ときつね』宮沢賢治/作 高野玲子/絵 (くもん出版)

※同時展示「あべ弘士の動物カレンダー展」

絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(12月~2月16:30閉館、
最終入館は閉館30分前まで、最終日15:30閉館)
休館日●木曜(祝日振り替え、変更日あり・当館HPカレンダー参照)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL 0263-83-5670 FAX 0263-83-5885 

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