人類のリプでラノベ書く【第1話】

第1話 サイボーグ牛泥棒


 名前は【闇姫(0)】だった。自分の名前だけ覚えていた。

 背中には床の感触。視界は暗く、夜の闇が覆う。

 やがて眼が慣れてくる。

 夜の【廃墟(1)】で眠っていたようだ。

 それ以外は思い出せない。名前以外に自分が何者なのかはわからない。

 手元には【鳥かご(2)】があった。

 鳥かごの中身は空っぽだ。

 空っぽ。自分の脳みそと一緒だなと苦笑する。

「名前……」

 鳥かごのネームプレートには【オルタナティブ(3)】と書かれている。

 オルタナティブ。

 確か『代替り』とか『可変型』とか、そういう意味。

 ここに入っていた鳥の名前が、オルタナティブ?

 でも、鳥はいない。

 鳥がいたら食料には困らなかったのにな……。

 闇姫はお腹を鳴らした。

「ここは」

 月明かりを頼りに、廃墟を歩く。

 むき出しの鉄骨。剥がれた壁紙。穴の空いた屋根などがみえてくる。

 廃墟の全体像をみたいと思い、崩れかけの階段を降りていく。

【夏と雨の匂いがする(4)】。

 廃墟を進むと地下への階段がみえた。

 階段を降りて進むと、紫色の灯りの地下通路にでる。

 ガシャンガシャンと音が聞こえる。サイボーグめいた存在の足音だ。

 足音は近づいてくる。話しかけるべきか……。

 何事もチャンレンジだ。

 足音の主が現れる。

 地下通路で闇姫は思い切って姿をみせる。

「あの……。え!?」

「なんだ、てめぇは」

声の主は牛を担いだ。機械人間だった。すさまじいパワーだ。第一印象は【サイボーグ牛泥棒(5)】である。

「俺のことは内緒な。後で食わせてやっからよ」

「いえ。いいですけど。あなたは。牛泥棒?」

 闇姫は戸惑った。

「半分、正解。塩分は溶解。俺の名前は説明不要」

 サイボーグは韻を踏みたがるようだ。
 さすがは機械でできているだけはある。

「では、正解は?」
「俺は【サイボーグ牛泥棒(5’)】と呼ばれている。役職を与えられてここで仕事をしている」

 彼は見た目のままの名前のようだ。
 サイボーグ牛泥棒は語る。

「東西に道があるだろ。西が俺らの家。東は『いっちゃならねえ場所』だ。特にお嬢ちゃんのような真っ黒なお嬢ちゃんは、身元が確認できないから殺されやすい」

「私が、真っ黒?」
「ああ。真っ黒だよ」

 闇姫は自分の体が真っ黒なことを知った。

 地下通路のガラスに身体を映してみると、たしかに真っ黒である。

 闇姫は、黒いシルエットだけの存在だったのだ。

 シャドー?

 わからない。

 サイボーグ牛泥棒は丁寧に忠告する。

「どこにいくかはわからないが東にだけはいくなよ。じゃあ俺は仕事があるからな。俺にあいたきゃ西へこい」

 それだけ言い残し、サイボーグ牛泥棒は牛を担いで去っていった。

「東に行くなと言われたら、そりゃあ」

 闇姫は東を向いた。

「行くなって言われた方にいくよね」

 闇姫は自分の性格がわかってくる。

 もともと、こういう性格なのか。記憶が失われてから、こうなったのかはわからないけど。

 今は地下通路を東に進んだ。

「お?」

 東の通路を抜けると【アメリカン(6)】な牧場にでた。

「牧場だ」

 緑の草が茂り、牛が、跋扈している。

 んもぅ、と寝ぼけた牛の鳴き声があたりに響く。

 サイボーグ牛泥棒は、この牧場から牛を盗んでいたのだ。

「楽園みたいだ」

 あわよくば、牛の乳が飲めるかも知れない。

 そう、喜んだ瞬間、闇姫の頬を『ぎいぃぃん!』と、熱線(レーザー)がかすめた。

 頬が熱い。ちょっと血がでている。

 自分の姿は、すべてが闇なのに、血がでたりするのか。

「侵入者には死を、か」

 レーザーの出どころは、牧場の中央に備えられた、自動防衛兵器だった。

 赤色のカメラアイが闇姫を捉えている。

 地下通路へ戻ると攻撃は止んだ。

「牧場は魅力的だが、進めないか」

 さっきの【サイボーグ牛泥棒】は東の牧場から来て、南の通路へ向かっていた。

 つまり東の牧場から牛を盗んでいたのだ。

「あいつが安全という保証はないが、レーザーよりは話が通じるだろう」

 闇姫はサイボーグ牛泥棒に追いつくべく、地下通路を進んだ。


第2話 機械技師


 牛を担いでいたサイボーグ牛泥棒を追って、地下通路を歩く。

 地下通路は、東西南北の十字路となっている。

 東には牛の住む地下牧場があり、西にはサイボーグ牛泥棒の家があるらしい。

 闇姫はサイボーグを追って、地下通路を西へ向かう。

「ご丁寧に、方角が書かれているのが幸いだ。ここは文明の跡地だったのかもしれないね」

 十字路を抜け、西の通路をでると、長い蔦に覆われた道が現れる。

 さきほどの東の道は地下牧場だった。

 明るい人工ライトに照らされ、気候の管理された施設。

 しかし西の道は牧場とは対照的。

 蔦に囲まれた湿っぽい【廃墟】だ。

 泥の地面に足跡を発見。

 先程のサイボーグのものだ。

 闇姫は足跡を追って、蔦に覆われた暗がりの道を進む。

(人間にはつらい道だなぁ)

 自分が人間かもわからないけど。

 蔦の向こうに小さなあかりが浮かんだ。

 眼を凝らすと、突き当りに小屋がみえる。

 細密機械やジャンクに囲まれた小屋だった。

「お邪魔して、いいのかな」

 ドアをノックし開く。

「誰か、いますか?」

 返事はない。

「サイボーグ、いますか?」

「おお、お前か!」

 サイボーグ牛泥棒の声がした。気さくなサイボーグだ。

 闇姫は少し安心する。

「入っていいかい?」

「【ウェルカム(7)】だがよぉ。悪いが俺は今、手が離せないんだ。勝手にあがってくれよ」

「じゃあ、遠慮無く。お邪魔します」

 闇姫が小屋の扉を開き、足を踏み入れると、サイボーグ牛泥棒は小屋の暗闇で横たわっていた。

「よぅ」

 暗闇の部屋には、ろうそくの明かりが灯っている。
 ろうそくの明かりの下では、先程の牛の骨を被ったサイボーグが仰向けで眠っている。

 だが、その胴体には、機械の内蔵がむき出しになっていた。

「どうしたの? それ」
「修理中」

 サイボーグ牛泥棒は、にこりと笑った。
 機械の顔が笑ったわけじゃないけれど、たぶん彼は笑っている。そんな気がした。

 部屋の奥からはさらに、人がでてくる。
 フードの人影だった。

「来客かい?」
「はじめまして。闇姫です」
「はじめまして。機械技師です」

 フードの人影は、【機械技師(8)】と名乗った。

「闇姫さんは。どこか修理してほしいのかい?」

 闇姫は自分の体をみやる。
 全身真っ黒だ。修理する必要はなさそうだった。

「いえ。特に問題はなさそうです」
「そうか。では【現ナマ(9)】はあるかい?」
「現ナマ……」

「ここに泊まるなら【ヤモリ(10)】は頂いている。素寒貧なら、一日だけならタダでいいがね。のさばるつもりなら、サイボーグが相手になる」

 内臓むき出しのサイボーグ牛泥棒が「俺は強いぜ」と息巻いていた。

「ヤモリってのは、通貨の単位のことかい?」
「何もしらないのか?」
「何せ全身真っ黒だからね。でも、お金かぁ。困ったな」

 闇姫は自分の真っ暗闇な懐をさぐってみる。金はなかったが、勾玉のようなものがあった。

「お腹から勾玉がでてきたぞ。これでどうだろう」

 闇姫は懐から球めいたものを差し出した。

「ん……それは!」

 機械技師は闇姫の出した球をまじまじと鑑定する。
 まじまじと見たのち、機械技師は冷や汗をたらした。

「この球は……【陰陽(11)】!」
「価値があるもの?」
「……200000ヤモリ、いや。300000ヤモリはくだらないな」

 闇姫の懐に入っていた球は、中々の価値があるようだった。

「この陰陽と引き換えに、一宿一飯しか提供できないのは、ちょっとフェアじゃないな」

 機械技師は頭を抱えた。
 機械の内蔵をむき出しに寝そべっていたサイボーグ牛泥棒が、口出しする。

「おいおい。黙ってればよかっただろ。もったいねえ。いまからでも締め上げてやるぜ?」

「それは困る」

 闇姫は困ってしまった。
 機械技師がサイボーグの内蔵をつねると、おとなしくなる。

「少し黙って。サギュウ」
「きゅう」

 サイボーグ牛泥棒はサギュウという名前のようだ。機械技師は『陰陽の勾玉』をまじまじと見つめた。

「この陰陽には何かがインストールされている。サギュウにもメリットはあるよ。ちょっと貸してみてくれ」

 機械技師は陰陽を手に取り、サイボーグ牛泥棒の、むき出しの内臓にぴたりと嵌めた。

「うおぉおおお?」
「やはり。君の持っていたこの陰陽の勾玉は、機械生命に何らかのプログラムをインストールできるもののようだ。実際サギュウはこの陰陽を嵌めることで、プログラムを拡張させることができている」

 機械技師は、サイボーグに配線やらディスプレイやらをつなぐ。

「ふむ。インストールされていたのは、【明智光秀(12)】の戦闘プログラムと【宵闇ノ呪詛(13)】のプログラムだ。明智光秀はまだわかるが、宵闇ノ呪詛ってのはわからないな。とにかく、サイボーグの行動を決定づける性格ってことだろうか……」

 機械技師の言葉が本当なら、目の前のサイボーグは明智光秀の戦闘力を手に入れたということになる。
 明智光秀が誰なのかは、闇姫はもちろん知らない。

 そのとき闇姫のお腹がきゅうぅぅ、と鳴った。

「こんな真っ黒な体でも、お腹はなる」
「君から貰う宿泊料金は、この陰陽のプログラムでよしとしよう。丁重にもてなすよ。30泊までならただにしてやる」

 機械技師はどうやら、闇姫を泊めてくれるようだ。

「今ある食べ物は、かき氷と向日葵(14)の種。タンパク質はバッタ(15)。炭水化物はベビースターラーメン(16)の備蓄。果物は下の階層から取り寄せたものだけど、真っ赤なりんご(17)がある」

「豪勢だね」

 主食はバッタとベビースターラーメンだ。
 ふたりで、ボリボリボリ、バリバリバリ、シャリシャリと、げっ歯類のように食事をする。

「しかし何故このラインナップ?」
「もう工場がこれくらいしか動いていないんだ。この階層はバッタとベビースターラーメンしか作れない」

「ひどい話だね」
「でもひまわりの種は高級品さ。これは僕が栽培した、本物のひまわりからね」

 闇姫が尋ねると機械技師は得意げに応えた。

「喉がつまるなぁ……」
「冷えた麦茶(18)もあるよ」

「これも造ったのかい?」
「これは下の階層から輸入した」

「下にもあるの。階層が……」
「ここは由緒ただしき最上階だからなあ」
「殺伐としているけど」

「そりゃあ地上は支配されているから。人間は地下に生きてるんだよ」
「支配ね」

「教育を受けた人間なら誰もが教わってることだ。そんなこともしらなかったのか?」


「私は地上から来たから」


 機械技師がぶひゅう、と麦茶を吹きだす。

「上からきたって? 無理でしょう。冗談を。てっきり下の階層から上がってきたのかと」
「起きたら草原で寝ていた」

「いやいやいや! 処分されるのが落ちだよ」
「どうして?」

「いえない。感知されたらやられる」
「そういうもの」

 闇姫はしゅんとした。
 機械技師はタオルで、吹き零した麦茶をふく。

 頭のフードをとったとき一瞬見えたのだが、可愛らしい顔立ちだった。
 ひとまず、ひまわりの種、バッタ、ベビースターラーメン、真っ赤なりんごなど食事を終える。

「「ふぅ。お腹いっぱい(19)」」 

 機械技師とは仲良くなった気がした。



 その日は機械技師の小屋に泊まった。
 寝床の中で闇姫は「下の階層にいってみようと思う」と機械技師に話した。

「じゃあさぁ。お使い頼んでいい? 護衛にサイボーグもつけるからさ」
「承諾した。急いでいるわけじゃないから。お使いくらいは大丈夫」
「交渉成立だな」

 機械技師は嬉しそうに口元を釣り上げる。

「あとひとつ。ここにくるときに牧場があったんだけど」
「あそこに入ったのか? サイボーグが『入るな』って警告したはずだ。サイボーグはあそこに人を入れないようにプログラムされている」

「入るなと言われれば、入りたくなる」
「君は人間みたいなやつだな」

「レーザーが飛んできた」
「ご愁傷様だ」

「あの牧場はなんなんだ?」
「この最上層区画は居心地は悪いが、かつての世界の名残が残っている。あの牧場はかつての世界の遺物なんだ。だから厳重に管理されているのさ」

 そう機械技師は教えてくれた。
 闇姫は目をつむり、下の世界について思いを馳せる。

「お使いで運んでほしいのはコレだ」
「【クラリネット(20)】?」

「相手はクラ・リネットさんという女性だ。クラリネットをつくる仕事をしている。中身の秘密は厳守で」

「本当に名前が適当なんだな」
「気にすんな。そういうもんさ。じゃあつかの間だけど、さようなら(21)」
「ああ。さようなら」

 闇姫が去った後、機械技師はぽつりとつぶやく。

「僕だって。【取り戻したい(22)】からね」

 闇姫はすでに行ってしまったので、言葉は届かない。


1 廃墟 ノースカントリー トゥリー様 
2 鳥かご tom様
3 オルタナティブ ふたつき様 
4 夏と雨の匂いがする。 カナイ様 
5 サイボーグ牛泥棒 T清様 
6 アメリカン ガチムチ様
7 ウェルカム カワサッキ様
8 機械技師 ask様 
9 現ナマ いい様
10 ヤモリ ねころく様
11 陰陽 4℃様
12 明智光秀 あらがみバイソン様
13 宵闇ノ呪詛 椎名小夜子様 
14 かき氷と向日葵 青空りさ様 
15 バッタ おかざき様
16 ベビースターラーメン 空箱零士様
17 真っ赤なりんご しんろうさん
18 冷えた麦茶 蒼夜彗華様 
19 お腹いっぱい くまさん様 
20 クラリネット しんぷさん様 
21 さようなら クロモ様 
22 取り戻したい つわぶき すずり様


今のところは何もありませんが、下↓↓↓に絵をつけたいので余裕ある人は100円ください。絵師を雇います。絵師にお金を回したいんです。宜しくお願いします。


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