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一途な24年

今日、ジムに行った帰りに、ビルの一階にある雑貨屋に立ち寄ろうと歩いていると、何かすごいものを見た気がした。
さっさと通り過ぎてしまったのだが「これは見ておくべきものだぞ」と脳がアラームを鳴らすので、10メートルほど引き返したところ、普段はそこにない看板があった。
それにはこう書かれていた。

「iPhone12が1円であなたに!」


え?!
iPhoneって、あのiPhoneですよね。機種変更のたびに必ず10万円ほど、命を削られる、あれのことですよね?それが1円?
さすが私の脳、爆安にきっちり反応してくる。

立ち止まって看板をよく読むと、auの乗り換えキャンペーンらしかった。
さっきから後ろで、タイミングを計っていたお兄さんが、声をかけてくる。
「お時間あるようでしたら、ご説明できますよ?そちらにおかけになって、お話だけでも」
「ぜひ、お話聞かせてくださいっ!」
食い気味に答える私。

いろいろ質問してみると、月額基本料金が2000円ほど安くなるうえ、機種代金は1円でいいとのことだった。
うんうん、乗り換えるしかないでしょう、これは。
そこで、次のステップ、メモリや色を選ぼうと思ったのだけれど、キャンペーンでは64GB・ブラックしか扱っていないということだった。
うーん、もしかすると、不便になるかもしれないなあと一瞬思ったが、1円の破壊力の前には、多少の不便は我慢できる自信がある。

さあ、私にサインを書かせてくれたまえよ、と待ち構えていたのだが、電話でお店とやり取りしていたお兄さんが言うには、今、在庫がちょうどなくなってしまい、明日にならないと届かないという。

仕方ないので、明日再訪することにして、時間の予約だけして帰ってきた。

そして、今、ちょっとしみじみしている。

私が携帯電話を初めて持ったのは、1998年のことだった。当時は「J-フォン」という会社が存在しており、メールアドレスの後半は「@jp-t.ne.jp」だった。この途中に出てくる「t」が何かというと、携帯を契約した地域を表していたらしい。私は関東で契約したので「t」がサブドメインだったが、関西は「k」、北海道は「d」など、細かく決まっていたようだ。
携帯電話本体には、意味があるのかないのかわからない「アンテナ」がついていて、それをラジオのように伸ばして電話をかけていた。当然、インターネット接続などできるはずもなく、主な使用用途は「通話」と「メール」だ。

それが、2000年代に入り、しばらくすると、「J-フォン」が「Vodafone」という外資系の会社のグループ会社に組み入れられ、またしてもアドレスの後半が変わる。「@t.vodafone.ne.jp」ここでも「t」は受け継がれていた。3G回線で「早い」と言われ、テキストベースのサイトなら、携帯電話でもアクセスできるようになった頃である。

さらに数年後、2006年「Vodafone」はソフトバンクに買収されて日本の携帯電話事業から撤退するのである。

そこから16年、私はずっとソフトバンクユーザーだ。ソフトバンクになる以前から、一度も他社への乗り換えを経験したことがないので、24年間、一途に同じ会社と契約し続けてきたわけである。

「乗り換え割引」や「乗り換えキャンペーン」をうまく利用し、とっかえひっかえしてきた人たちは、かなりお安く携帯電話を使ってきたのではないかと思う。それに比べて、私は、特にメリットのない24年であった。強いてあげれば、電波がつながらなくて困る経験を、さほどしてこなかったところがメリットだったと言えるかもしれないが。

しかし、私はそんな平凡な幸せを捨て、あと1年で銀婚式というところで、ソフトバンクを見限ることになってしまった。24年も付き合っていれば、もう糟糠の妻状態と言ってもいいのに、ソフトバンクはその間、私に、感謝状の一枚もよこさなかったのだから、仕方ない。

さらばソフトバンクよ。
明日から私は、auの妻として生きていくのである。

**連続投稿133日目**



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