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「取材・執筆・推敲」は、本当の教科書なんだって話をしたい

これが何だか、わかるだろうか?

古賀史健さんの「取材・執筆・推敲」を読まれた方なら、当然ご存じのことと思うが、この黄色い正方形に近い紙は「桃太郎」のシーンを切り取ったコマである。
全部で30コマある。

もともとは、分厚い「取材・執筆・推敲」のページの中に綴じ込まれており、ミシン目で切り取れるように作られていたものだ。
なぜ、この、いかにも作りにくそうなページが、本書に付属していたのかというと、このコマを使って実際に「文章の構成の作り方」を実習形式で学べるようにという配慮からだ。

目次にもあるように、『何を捨て、何を残すか』を考える訓練として、この桃太郎のコマを使うのである。
30コマある桃太郎の全ストーリーの中から、10コマだけを選んで「桃太郎」を伝えようとしたら、何を基準に取捨選択をすればよいのか。
その教材として、このコマを用いた実習を、本を読みながら一人でもできるように、組み込まれていたのであった。

2021年から2022年にわたって古賀さんが開校された「Batons Writing College」通称「バトンズの学校」。
そこで、古賀さんとノンフィクションライターの石戸諭さんの対談を、記事にするという課題が出た。
お二人の対談は、90分近くあった。
全部面白い。
削るべきところがわからない。
どこも削れない。
このままでよくない?
私は途方に暮れた。

文字起こし原稿は、5万字を超えていたと記憶している。
これを、前編・後編に分けて、各3000~4000文字の原稿にするのだ。
刈って刈って刈りこまなくては、原稿にならない。
何を捨て、何を残せばいいのだろう。

私は当時、駆け出しのWEBライターであり、一回の記事は長くても1500文字程度しか書いたことがなかった。
取材もインタビューもしたことがなく、何もかもが初めての経験だった。

古賀さんから「こう進めるといいよ」という、全員に向けたレクチャーはあったものの、何しろもともとは5万字の「会話」だ。
話は跳ぶし、また戻るし、単語の連想からまるで関係のないところに向かうこともあり、これを頭の中だけで構成するなんて、どうやっても無理だと思った。

そこで、私は、学校の教科書として使われていた「取材・執筆・推敲」を引っ張り出し、『第5章 構成をどう考えるか』を馬鹿正直に最初からやってみたのである。
会話をブロック単位に分割し、そのブロックで言われていることを、小さな紙に書きだし、似ている内容をまとめてホチキスで綴じて重複を無くし、ここは大事だというところにピンクのマーカーで印をつけ、読みやすいようストーリーを考えながらメモを床に並べて、順番を組み立てる。
時間はものすごくかかったが、何とか話にまとまりができ、大切なエッセンスを伝えられるものになった。
結果、提出したその課題は、初めて古賀さんから「よかったです」とほめていただける原稿になっていた。

我流で文章を書いてきた私は、正直、他人が書いた文章読本で、自分の文章が変わるなんて、考えたこともなかった。
だって、これまで読んできたそのたぐいの本は、心構えや理想を説くようなものばかりで、実践に使えるものがほとんど無かったから。
あったとしても、「一文は短く」とか「起承転結・序破急で書く」とか、だいたい似通った内容であり、それ以外に何か、アドバイスはないんでしょうか?と寝転がって、斜め読みすることが多かった。

それが、である。

「取材・執筆・推敲」は、完璧な教科書であった。
公式やその導き方が書かれた数学の教科書のように、即、実践で使える知識が書かれたものだった。
その通りにやれば(できれば)、ライティングの能力が5割増し(もっとかも)に爆上がりするのである。

「文章って、教えられるものだったんだ!」

衝撃だった。
古賀さんの「取材・執筆・推敲」を読むまで、「文章はフィーリングだよ」とか「たくさん本を読めば、書けるようになるよ」程度のことしか考えておらず、まさか、ライティングの実践的知識を体系的に教える/教わることができるなんて思ってもいなかったから。

それ以来、何かあればすぐに手が届くよう、机の一番近くの棚に教科書を置き、仕事をしてきた。
いつか、このスキルが活かせる時が来るといいな、と思いながら。

つい最近、ひょんなことからお知り合いの編集者さんが立ち上げた会社の外部ライターとして、採用していただき、初めて1時間のインタビューを記事にする仕事をいただいた。
嬉々として、あの小さなメモを作る私。
A4の裏紙を16分割した紙片に、段落ごとの要点を書きだしたそれらは、こんな量になった。

そうして、書かせていただいたのがこちらの記事である。

もちろん、優秀な編集さんがたくさん手直しをしてくださったから、読めるものになっているのは、知っている。
さすがに「全部自力だ」と思い上がるほど、愚かではないつもりだ。
でも、1時間の会話から、ストーリーを作ったのは、自称「古賀チルドレン」である私なのだ。
これは、誇っていいことだと思う。

55歳からライターを目指した私は、58歳にしてようやく、インタビューライティングのお仕事をいただけるようになった。
とても、うれしい。
とびあがるほど、うれしい。

それもこれも、古賀さんと、この教科書のおかげである。

「書けない」「書き方がわからない」と悩んでいるライターさんは、絶対読んだ方がいい。
仕事の幅が、間違いなく広がるだろう。
今すぐには変わらなくても、絶対に絶対に、違う世界を見せてくれる本だと思う。

古賀さん、どうもありがとうございました。

**連続投稿647日目**

✳︎今気づいた。このメモの束は、違うインタビューのメモだ。こういうところが、3年もかかった理由なんだろうな。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。 サポートは、お年玉みたいなものだと思ってますので、甘やかさず、年一くらいにしておいてください。精進します。