ジャッカロープを探して 2

           mosoyaro

 私の名前は松山紗里、27歳福岡市内の会社で働いている。独身。
実を言うと私も現在進行形で最低な男と付き合っていて縁を切れずに悩んでいる。
男の名前は貴一、5歳年上の32歳、2年前から付き合い始めた。
元々は私の高校の時からの親友 さとみ の彼氏だった。
貴一は今、音楽関係の照明の仕事をしているがその前はロックバンドのボーカルだった。
歌が上手く、見た目もカッコいい。
バンドをやめた今でもすごくモテる。
そのせいか女癖が悪く金使いも荒い、ルーズだ。
さとみと付き合っていた時も勝手に彼女のカードを使って買い物したり、
キャシングしたりしてお金の事でよく揉めていた。
さとみは浮気相手の女から嫌がらせされたりもしていた。
尽くされたり貢がれたりする事が貴一の中では当たり前なのだ。
そんな彼がなぜ私に興味を持ったのかはわからない。
正直わたしは見た目、美人でもないし可愛くもないうえ、お金持ちの娘でもなかった。
見た目ならさとみの方が断然美人だ。それに私は貴一を好きだったわけでもない。むしろ苦手な方だった。
さとみから色んな悩みを聞いていたし、好みじゃなかったから。
外見はかっこいいけど、中身は最低なのを知っていた。
何故そうなったかは自分でもよくわからない。
貴一から好きだと言われた時も、付き合うなんてあり得ないと思っていたのに、、、、結局親友から彼氏を奪ってしまった。
寂しさからだったのか、魔がさしたのかはわからない、馬鹿な私はそこから抜け出せなくなった。

私と付き合うようになっても、相変わらず女癖も金使いも最悪なままで、喧嘩がたえない。
私はいつも別れようと思っている。
でもなぜか上手に誤魔化され嘘でならべた言葉を信じさせられ別れられない。
ちゃんとした本音なんて一回も聞けたことなど無いのに。
こんなはずじゃなかった。
こんな事をウジウジ悩んでいる自分が心底嫌いだった。

「どうしたの?深いため息なんてついて。待たせてごめんね」
気がつくとすみれさんが目の前に座っていた。
隣の席から聞こえてくる話に夢中で、待ち合わせの時間が30分過ぎていた事も気づいてなかった。
すみれさんはしきりに謝っている。

「今日は休みの日にありがとう。自分から呼び出しといて遅れてきて申し訳ない。奢るからなんでも好きなもの注文して良いよ」
「良いですよ、すみれさんにはいつもご馳走になってるし。
私に頼みたい事ってなんですか?珍しいですよね」
すみれさんは隣の席をチラッと見て
「ここはちょっと話しずらいね。
場所変えようか、個室がある所がいいかな。そこで食事しよう」

隣の3人の話の続きを聞きたかったけど我慢して次の店に向かった

天神には食事の店は沢山あるけど、個室となると数軒しか思い浮かばない。
「薬院駅の方でも良いですか、お寿司屋さんですけど」
「良いよ、ゆっくり話せるなら」 

一駅歩いて薬院の寿司屋に入った。
人気の店でいつもは予約しないたと入れない。
ダメ元で電話してみたらちょうど2人キャンセルが出たみたいで予約が取れた。ラッキー

通された個室に入る。
ここの店はランチでも安くない。
1人では絶対に入らない店だ。
すみれさんは会社の先輩にあたる。
会社で毎日顔を合わせるけど最近忙しそうで、ゆっくり話すのは久しぶりだった。
注文したコースの寿司を一通り食べ、お茶を飲みながら最後のデザートを待っている時、すみれさんが話を切り出した。

「仙の事知ってるよね」
「はい、ニュースで見ました。大変でしたね、まさかあの人を殺すなんて、
びっくりしました。
会社では他の人に聞かれたらまずいので話をしませんでしたが、結局どうなりましたか?」
「やっと先日裁判が終わって、懲役7年の判決が出て服役中、刑務所にいる。
ほんと、えらい事してくれたわ。
私達は犯罪者の身内になったのよ、恥ずかしい。
この前兄弟と仙の旦那と子供で話し合ったの、それで仙とは全員縁を切ることにした。
弁護士さんとも話をして。
法的に絶縁って出来るみたい。
今後刑務所から出てきて、どんな事が起きても皆んな突っぱねることに決めたの」
「それで良いんですか。兄弟なのに、見捨てるって事ですよね」
「そうするしかないのよ 私達には。
だってそうでしょ、今まで散々いろんな事を尻拭いしてきた。
その度に仙に何度もこれが最後だからと言い聞かせてきたけど、この有様よもう無理、いくら兄弟だからってもう無理なの」

気持ちは良くわかっていた。事件が起こるたびに話を聞いてきたので。

その度に悩み苦しんできた事も。

すみれさんは私にとって第二の母と言う人だった。
職場の先輩で歳が20歳以上も離れていたけど入社してから何故だか気が合い、私のことを娘のように可愛がってくれた。
すみれさんには不動産関係の仕事をしている夫がいる。
子供がいない共働きで生活に余裕があった。
いつも高そうな指輪、シャネルの時計を身につけていて、財布などの持ち物も洋服も綺麗な大人の女性。
一人暮らしの私に美味しいものをご馳走してくれたり珍しい場所に連れて行ってくれたり、悩みを聞いてくれたりする優しい人。

「それで私にお願いって何ですか」
「最初弁護士に頼もうって思ったけど、実はね刑務所に行って仙に絶縁宣言をしてきてほしいの」

「えっ、絶縁宣言って、、、私が
仙さんに?」
想像もしなかったお願いだ。
「そう、内容は弁護士と話してこっちで考えるからそれを読み上げできてもらえないかな。
私達はもう誰もあの子と関わりたくない、だけど誰かがやらなくちゃいけない事。
面会して読み上げて帰ってくるだけで良いの。
ね、サリーお願いお願いします。
こんな事を頼める人あなた以外いない」
手を合わせている。即答して良い内容じゃない。だけどしないといけない。

しばらく考えて私は心を決めた。
「読み上げてくるだけで良いんですね。確認ですけど本当にそれ以上はないんですよね。
わかりました、私で力になれるなら引き受けます」
本当は嫌だった。だけど渋々そう答えた自分がいた。

              つづく

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