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反ワク・チラシの正体と見えない集団

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

郵便受けに投げ込んでいるのは誰か

反ワクチン、反マスクを呼びかけるチラシ

コロナ禍で発生した諸問題をこれまでに40回近く記事に取り上げてきた過程で、反マスク派・反ワクチン派の活動をしている人や活動をやめた人から話を聞く機会があった。こうした人々の証言をもとに、今回は郵便受けに投げ込まれる正体不明のチラシについて考えようと思う。

そもそも誰が郵便受けにチラシを投函しているのだろうか。

反マスク派・反ワクチン派の人々が自ら地域を歩き回ってチラシを配る例だけでなく、ポスティング会社に配布を委託している場合もある。このため配布している人をつかまえて問い詰めても埒があかず、ポスティング会社がわかったとしてもチラシ配りを依頼した者を教えてくれるとは限らないのは理解しておきたい。

では何人かで連れ立って配っているのは反マスク派・反ワクチン派なのだろうか。

そうかもしれないし、違うかもしれない。ポスティング会社が障害者施設に仕事を依頼して入所者が連れ立ってチラシを投函していることがある。このほか反マスク・反ワクチンでなくても数人で配る例があるし親子連れのケースもある。

許可なく敷地内に立ち入るなど迷惑行為があった場合は対処しなければならないが、配布している人々が反マスク派・反ワクチン派だったとき詰問して別のトラブルに発展するかもしれない。とくに昨今は反マスク・反ワクチン派の凶暴化に拍車がかかっている。

いずれにしても反マスク派・反ワクチンの異常な主張が書かれたチラシは気持ちのよいものではないし、こうした人が近所に暮らしていそうな気がして心配になるかもしれない。

ワクチン接種会場近くに出没した反ワクチン活動家の場合は、鉄道やバスをつかって街宣にやってきている例が珍しくなく、さらに遠くから支援者がきていた例もあった。ふつうは土地勘のある場所でチラシを投函すると思うが、陰謀論など特殊な考え方に取り憑かれる人は満遍なく散在しているはずだ。さらに異様なできごとがないなら心配しすぎないほうがよいだろう。


チラシをつくっているのは誰か

反マスク派・反ワクチン派は一様ではない。これまでの証言を整理すると反マスク派・反ワクチン派の形態は次のようになる。

  • SNS上でフォロー・フォロワー関係で集団をつくるコロニー

  • SNS上だけでなく特定の人々とオフ会、街宣などをするグループ

  • 著名な活動家と取り巻きのグループ

  • 特定の名称で参加者を募り活動しているグループ

  • 宗教団体、政治結社、企業

反マスク派・反ワクチン派の多くが小さなコロニーをつくり、コロニー間のつながりは弱い。コロニーの住人はSNSでのフォローとフォロワーが数人から100人程度のアカウントが多く、このなかでもアクティブに発言するのは数人から十数人程度だ。

こうしたコロニーで完結しているケースのほか、個々のアカウントがインフルエンサーの強い影響下にあるケースがある。さらにネットの外、現実世界にある集団や団体を重視する人々がいる。

これらが組み合わされたりグラデーションを描くなかに上記のような各集団がある。

そして、チラシを制作しているのは主に、

  • 著名な活動家

  • 特定の名称で参加者を募り活動しているグループ

  • 宗教団体、政治団体、企業

と言える。

ただし「個人が全額を負担してチラシをつくって配布していた」という証言もある。反マスク運動から離脱した人の例として以前紹介した女性は、たびたびオフ会を主催していた金払いのよい男性がチラシをつくるときカンパを申し入れたが断られている。つくられたチラシを見せられたが、どこでどのように配布されたかわからない。

ではチラシ制作と配布にどれくらいの予算が必要なのだろうか。

A4チラシを1万枚制作してローラー配布(投函可能な郵便受け等に無差別に配布)するなら10万円程度から可能だ。モノクロ(単色)で文字ばかりのチラシを、他のチラシといっしょに配布してもらったり自ら配るなら更に安価になる。デザイン、紙、折り加工などにこだわるなら費用がかかるが個人でも不可能な額ではない。

チラシづくりはSNSで発言するのとは違い、意思を届けるまでにデザイン、印刷、配布がハードルとして立ちはだかる。しかしチラシをつくり慣れている個人や組織なら、どこの誰に依頼すればよいか、予算がどれくらい必要か戸惑うことがない。

コロナ禍の経営不振から反マスク・反ワクチン派になった自営業の男性は「自分はつくろうと思わなかったが、やろうと思えばいくらでも方法があった」と言っている。付き合いがあるデザイナーだけでなく、クラウドソーシングでDTPを依頼したり、印刷所にデザインから印刷まで発注するなど最適なものを選べるうえにポスティング業者を相見積もりにかけたり、仲間がいるなら仲間に配らせることもできる。

なかでも面倒なのは企画だろう。ネットで印刷業者が探せるし、そういうところはポスティングまで揃ったセットメニューがある。でも企画を立てるのは自分だ。いくらデザイナーがいても企画がなくて指示できないならチラシはつくれない。企画ができるなら文章はどうにかなるだろう。それなりに見られるものになっていたら慣れた人がつくっている


何のためにつくって配るのか

何のためのかと言えば反マスクや反ワクチンなどの考えかたを普及させて人々の行動をコントロールするためだ。

しかしワクチン接種が完了した人が対象者の80%になり、ブースターショットがいつ実現されるか話題になっているなか、ワクチン忌避のチラシを無差別に配布したところで意味がないのではないかと思われる。これは反マスクの主張を展開するチラシにも言え、いまさら反マスク派に転向する人がどれほどいるだろうか。

では、反マスクの人やワクチン忌避者に「がんばれ」とエールを送るためのチラシなのだろうか。これではあまりに効率が悪い。しかも内容を読むと、マスクやワクチンに肯定的な人に翻意を促すチラシばかりだ。こうなると反マスクや反ワクチン派は現実を正しく認識できていないのかと疑いたくなる。

そこで反マスク・反ワクチンから離脱した人たちから話を聞くと以下のようになった。

チラシ制作は
・現実を正しく認識できない人たちがつくって配布している
・ネットまたはSNSでコロナ禍にまつわる情報に触れる習慣がない人に向けたメッセージ
この2点が大前提としてあるが、

  1. 陰謀論支持と何者かへ批判のため

  2. 世の中の趨勢への焦りから

  3. 選挙運動や集会への勧誘や布教

  4. 結束を高め参加者の忠誠を確認するため

  5. 集めた資金を適切に使っているように見せかけるため

以上5点を目的につくられていたり、つくられている可能性が高い。


1.陰謀論支持と何者かへ批判のため

政府や専門家が名指しされているケースよりひたすらマスクやワクチンの害を説明しているもののほうが多いだろうし、最近は陰謀論をゴリ押しするチラシを見かけなくなった。

こうした傾向について、新しいタイプの陰謀論者が登場していて彼らがチラシをつくっているかもしれないと証言があった。陰謀論が目新しいアンチテーゼの材料ではなくもっと普遍的で常識的なものになった陰謀論者たちであり、いちいち陰謀論の解説からはじめないというのだ。

陰謀論の主張を押し出しすぎると主張を聞いてもらえない。既に常識化しているので前提になる陰謀論から話をはじめる必要がない。と、いう立場だ。

陰謀論者というとバリバリのQアノン信者を想像しがちだが、どこにでもいる政治好きと変わらない感じで陰謀論に馴染んでいる人がいて、そういう人は“らしい陰謀論”を主張しない
このタイプがチラシをつくったという話は聞いていない。しかし、(2021年の)夏に陰謀論はこのままでは伝わらないと話をしている人がいたから可能性はある。陰謀論者の主流ではないと思うが


2.世の中の趨勢への焦りから

2020年半ばから数ヶ月間、反マスク派は勢力拡大が可能で少なくとも半数の人々を味方につけられるとさえ考えていた節がある。2021年の春先は反ワクチン派が同じように考えていただろう。しかし、現実は甘くなかった。

いまどきはマスクをしている人がほとんどで、反マスク派は排除されてとうぜんだと考えている。また接種完了者が80%に達して、億劫だったり拒否していた人まで駆け込み接種をしているため反ワクチン派の孤立感が高まっている。また反マスク・反ワクチン集団から抜けた人々が実に多い。

このため自らの正当性を主張したいがためいまさらチラシをつくって配布している人がいる。

ワクチン接種がはじまる直前から第5波が終わるまで、浮かれたり思い通りにならなくて怒ったり感情のアップダウンが激しかった。いい気になっていたときがあるだけに今は相当ひどい気持ちだろう
勝てると思ってバカにしていたし、自分たちだけ取り残されるとは想像していなかった人が多い。気がついたらこのありさまで、必死になってチラシを撒いている人がいる


3.選挙運動や集会への勧誘や布教

敢えて説明するまでもないだろう。地方選挙に反マスク・反ワクチンを掲げて立候補する者がいて、選挙運動の一環でチラシが配布されている。このほか集会を告知するためのものがある。また宗教法人や、法人格を取得していない宗教的集団がチラシを作成して配布している。

コロナ肺炎について何も主張していなように見える宗教が、宗教の名前を出さず信者や関連組織などにやらせるという話を聞いている
兄弟が新興宗教の信者で研修や祈願でマスクをはずそうと上から言われたという。そこの信者がやっている団体が反マスクや反ワクに浸透している。直接でなくても影響があってとうぜん
あまり言うと陰謀論になるが過激派だっていっちょ噛みしているか、何かやろうとしている思う。反ワクチンにはそっち系の人がいる


4.結束を高め参加者の忠誠を確認するため

上記した1〜3と関係してくるが、チラシをつくるということ、チラシを配るということ、それぞれを集団内部の結束のため行っているグループや組織がある。

各地に街宣車を出して過激な発言を繰り返した人物は、こうして自らのリーダーシップを誇示したうえで賛同者の忠誠を確認したと証言する人がいた。何もしないではいられなかったというのだ。

この例と同じように、幹部クラスがチラシをつくることで存在意義を示し、印刷物という手に触れられるもので運動の意義を確認させ、配布によって参加者は忠誠を示し、これを見て幹部クラスは安心する。

母親が選挙の前から信者で立候補から落選まで全部見ている。興奮状態が異常だった。どうやって貢献するか母親のテンションも異常だ。他県でやる街宣についていったほどだ
駅前デモの実態は募金集めで、募金箱にお金が集まらないと主催者が不機嫌になるので、自分がこれだけ集めてきましたと自腹を切る人がいる。こっそり入れるのではなく、自分が集めてきたというところがポイント


5.集めた資金を適切に使っているように見せかけるため

反マスク・反ワクチンを主張する者が募金やクラウドファンディングを呼びかけると1千万円近い金額が集まる。これほどなくても集団内で活動資金を募るとまとまった金額になったという証言者がある。

他の証言者は、予算を使い切らず余剰金を着服する者がいたと指摘する。彼女は収支報告と言えるようなものは一度も見たことがなく、確認したいと言う人もなかったという。リーダーを信用する、信用する私たちはすばらしい、あいつらとは違うという雰囲気と同調圧力が強いというのだ。

デモをするならバナーをつくったりアンプやスピーカーがいると話しているうちにあっという間に30万を超えた。どうやって使い切ったかわからない。総額がわかっているだけましかもしれない
お金を集めて何もしないとかたちにならない。やった感じを出すくらいにお金を使って、あとは自分のものにする人がいた


チラシの存在感と見えない相手

チラシづくりと配布には外向きの理由と、内向きの理由があった。どちらも紙に印刷されたものとして「かたちある」ところに大きな意味がある。

ネット上にある反マスク・反ワクチン派の極論にどれほど慣れた人でも郵便受けにチラシが入っていればSNSを流し読みするのとは違う「やれやれ」という気分になるだろうし、冒頭に書いたように「近所にもいるのか」と驚く人がいる。これこそ紙に印刷されたチラシを手で触れた経験の大きさだ。

そして既述の通りチラシを企画して、刷り上がって束になって届くことや、刷り上がったチラシを手に取る経験は反マスク・反ワクチンの運動をしている人たちにとっても大きい。チラシの重さを感じながら家々を回って郵便受けに投函するなら、経験から感じたものは数百倍に増幅される。

こうしたことがわかっていてチラシはつくられ配布されている。

さらに言えば、組織だって動くことができて、チラシなど宣伝物をつくり慣れた集団が制作しているケースがとうぜん多く、チラシはかなり計算づくのものだ。

組織だって動ける集団(や整然と企画から配布までできる個人)は反マスク・反ワクチンとひと目でわかる名称で活動しているとは限らない。そもそも反マスク・反ワクチンを名乗っている集団や団体は数少ない。いっけんそうは見えない集団がチラシをつくって投函していると考えほうがよい。

チラシをつくった集団はパンデミックの影響で生まれたのではないから、コロナ禍が去っても存在し続ける。これは個人がやっていても同じだ。しかもチラシをつくってまで何かをしようとした集団や個人がアフターコロナで静かになるはずがない。心配したところでどうにもならないが、外面そとづらからはまったくわからない集団または個人が、コロナ禍で不安を煽り間違った情報を広めていることは知っておいて損はないと思う。

いつも金払いがよかった人は原発反対のときも何種類もチラシをつくったと聞いた。ちゃらくて活動家には見えなかった


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