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【連載】私、公務員辞めます。

高校3年生の夏休み。
私は自室で勉強をすると100%怠けると思ったため、自主的に補講授業を選択し、授業がない時間帯は図書室に通い、夕方になるとその足でそのまま塾の自習室で勉強をしていた。
他の受験生はその後も帰ってから勉強をしていたのかもしれないし、帰ってからもするのは当然のことだったのかもしれないが、ダラダラとやる気が湧かない状態で受験勉強をすることは、私にはどうしても非効率のように感じた。
そのため、私が自宅で勉強することはほとんどと言っていいほどなかった。

そんなある日、母が突然私の部屋に入ってきてキレた。

「塾代を自分で賄ったからって、勉強をしないで良い訳がないでしょうが!!これまで黙って見ていたけど、もう我慢できない!!
○○ちゃん(お隣の一つ上のお姉さん)も、▲▲くん(3軒隣の一つ上のお兄さん)も当然塾にも行きながら毎日朝から晩まで勉強してたって!!なんであなたはしないの?!?!したくないなら受験なんてしなかったらいいんでしょ?!
私はあなたに大学に行ってくれなんて頼んでない!!私は高校卒で働いていたし、別に何不自由な思いはしてない!!そもそも、あなたに教師なんて向いていないとずっと思ってた!!!!」

衝撃だった。
小さい頃から世間体を気にして、父の目や父方の親戚の目を気にして、いつも自分が正しいと思う理想像を私に説いてきた母がまさかこんなことを言うとは思わなかった。
父方の祖母が教師だった。
教師になることを元々求めたのは母だった。
私が教師を目指すと言って1番誇らしげだったのは母だった。
両親が求めるように生きるのは楽だった。
敷かれたレールを歩けばそれだけで両親の機嫌が良かったから。
求められるがままに生きてきたのに、それを突然否定されて、更には向いていないとまで言われた。
私は母の言葉でどん底に突き落とされた気分になったのと同時に、反抗期だった中学生以来抑えていた母への怒りが爆発した。

「はあ?!何それ?!教師になれって言ったのはお母さんでしょ?!
それを何?!向いてない?!ずっと思ってた?!ふざけんな!!!
勉強はお母さんが見えていないところで毎日してた!!家でやっても、妹の友達が遊びにきたり、お母さんがのぞいてきたり、隣の部屋でテレビ見始めたりするせいで気が散るから、家ではせずに外でその分してるの!!それの何がいけないの?!
他所は他所っていつも言うのはお母さんなのに、こういう時は、他所のお家の話を出すんね!!!ふざけるのも大概にして!!!私はお母さんの承認欲求を満たす道具じゃない!!」

言葉と涙がとめどなく溢れた。

「いつ教師になれなんて言った!!
そんなこと絶対に言ってない!!私のせいにしないで!!」

”絶対”この言葉は、もし後で母が自分の間違いに気付いたとしても、2度と母の中で覆ることはないという合図だ。
その瞬間、私の気持ちがスッと冷めるのを感じた。
そしてとても冷静に

「分かった。大学受験はしない。就職するよ。」

母は面食らったような顔をして、

「え、べ、別に他の大学に行けばいい、、、。」

としどろもどろになっていたが、
私はそんな母には目もくれず、

「受験はしない。大学にも行かない。
それでお母さん困ってないんだもんね。
求めてないことを求められてると思ってた。ごめんね。これ以上このことで話すことはないよね。
じゃあ、私お風呂に入って寝るから。」

母の前から去って、お風呂に向かった。

両親から無償の愛はなかった。
だからこそなのか、私は昔から承認欲求が強かった。
両親の求める私になることで、両親から認めてもらえることが嬉しかった。
両親が私を承認欲求を満たす道具にしていることを私はずっと気付いていた。
だけどずっと気づかないフリをして黙認していた。
だって、道具でいる間は少なくとも私に興味を持ってくれるから。
昔から私は両親に褒められる術をこれしか知らないから。
両親に自分を見て欲しかった。

中学生の頃から両親が嫌いだとずっと思っていた。
だけど、それは違ったのだと今回のことで初めて思い知った。
それと同時に、もう私への期待は無くなるのだろうと思った。
そう思うと何故か心が軽くなるような気がした。


次回更新予定日:5月14日(土)19:00

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