見出し画像

【連載】私、公務員辞めます。

大喧嘩をしてから1週間、母には大学に進学をしないと豪語したものの、今後の自分の人生を考えた時、本当に進学をしないことが正しいのか考えた。

考えた末に、私は進学しないことを選んだ。

進学をした方が今後の人生において選択の幅が広がるのは100も承知だった。
しかし、これまで両親の敷いたレールを歩んできた私にとって、新たに進学をするための目標がなければ勉強に全く身が入らなかった。それに、このままなんとなく大学に進学ができたとしても、私は楽しい方に流されて、俗に言う人生の夏休みを過ごすだけで4年間が終わることは目に見えていた。
そして、今自分のために1番したいことは何かと問われたら

「独り立ちして、実家から距離を置きたい」

本当にただそれだけだった。
そう決めてから私の行動は早かった。
翌日には通っていた塾に足を運んで退塾の手続きを済ませた。

しかし問題はここからだった。
独り立ちをすると決めたはいいものの、進学校に通っている私には今から就職先を探すノウハウを持ち合わせていなかった。
そんなある日、祖父母の家で従姉妹から
「公務員とか向いてそう。」
と言われた。

『公務員』

世間体等々を気にして口うるさい両親も納得する選択肢だと思った。
すぐに携帯で調べて、今すぐ応募できた県の職員に応募した。そして、その旨を担任にSMSで報告した。

担任は今年赴任したばかりの若い男の先生で、私が不登校になった時も懸命に支えてくれて、生徒からの信頼も厚い先生。
そんな先生に、直接話をするためにと後日学校へ呼び出された。

「おはよう〜。」
「おぉ。おはよう。とりあえずあっちやったら他の先生に聞こえないから。」
「はーい。」
「いや。本当に突然でびっくりしたぞ。軽く報告はもらったけど、一体何があったんや。」
先生には両親との関係を全て話していたため、起こったことのありのままを説明した。
「なるほどな。んー。決めたことならそれでいいんだが、受験辞めるの惜しいなあ。夏休み前に受けた小論文模試覚えてるか?」
「あー。なんか全員強制に受けさせられたやつ?」
「そうそれ。それな、つい先日採点されて返ってきたんや。あれ、自分点数学年1位やで。しかもダントツで。」
「え。あれ点数とか順位出るやつなん。すごい適当に受けたわ。」
「俺言ったぞ。」
「え。あ、あー。言ってた気がするなあー。」
「まあ話聞いてなかったのはいいわ。とりあえずな、俺が言いたいのはまだ1回も論文・小論文の練習も準備もしてない状態で、合格基準を大きく上まあった小論文が書けるのであれば、このままの調子で勉強すれば確実に難関大に合格するだけの実力があるってことや。」
先生があまりに真剣な目で私に言うので、私は一瞬ブレそうになった。
しかし、元々母から出されていた大学進学への条件は「自宅から通える距離の国公立大学」だったので、そもそも自宅から通える距離に先生の言う難関大はなく、自宅から通える距離に母の言いなりになることを我慢できるほど通いたいと思える大学はなかった。
「んー。先生にそこまで評価してもらえるのはありがたいけど、やっぱり私は家を出て独り立ちすることが1番自分のためにしたいことだから。」
「そうか。まあ、その環境やったらそうなってしまうのも仕方がないのかもしれんな。ごめんな、知ってたのに何もしてやれんかった。」
「いやいや。先生全く悪くない。むしろずっと振り回してすみません。」
「そんなん気にすることと違うわ!正直に言うとな、大学受験するより大変な選択やと思う。倍率も大学受験の比にならんし、周りからも色々言われると思う。更には、今から試験受けるところで落ちたら、時期も時期だから就職先は中々見つからん。頑張れよ。」
「ありがとう。頑張る。」

そうして夏休みが明けた3ヶ月後、私は無事県の公務員試験に合格した。

次回更新予定日:5月16日(月)06:00

この記事が参加している募集

これからの家族のかたち

多様性を考える

よろしければサポートいただけたら嬉しいです!いただいたサポートはクリエイターとしての活動資金として使わせていただきます。