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#元町の上で Interviews⑦「荒野」

『愛がなんだ』『あの頃。』などの今泉力哉監督が東京・下北沢を舞台にひとりの青年と4人の女性の出会いを描いた群像劇『街の上で』。新型コロナウイルス拡大による上映延期を経て、ついに当館でも5/1(土)より公開いたします。公開を記念し、映画と合わせて映画館がある「街」を楽しんでもらうために近隣の書店や喫茶店の協力のもと、noteにてオンラインマガジンを刊行します。タイトルは「#元町の上で」。お店の人が観た本作の魅力、オススメの書籍やドリンクの紹介、さらに映画館スタッフによるお店へのインタビューなどで〈元町〉という“街”の魅力を伝えたいと思っています。映画も街もお楽しみください。


こんにちは。映画『街の上で』note企画、書店担当の林です。
企画にご参加いただいているそれぞれのお店・ひとの魅力をお伝えするインタビュー7回目。今回は【荒野】店主の森田敦さんにお話を伺いました。


長らく勤めた書店の閉店を機に

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お母さまが本好きで、当たり前のように周りに本がある家で育った森田さん、進んで自ら読書をするようになったのは中学3年生からだと話します。当時学校で実施されていた「読書の時間」で読む本を探しに訪れた図書室で、何気なく手に取った小野不由美の十二国記シリーズ第1作「月の影 影の海」の面白さに夢中になり、同シリーズを追って読むうちに読書の魅力に引き込まれていきました。

大学は社会学部に進み、メディア論を研究する傍ら、空港の中にある新刊書店でアルバイトを始めます(場所柄、有名人に遭遇することも多かったのだとか…!)。そこでは書店の仕事の面白さに開眼し、その後大学院に進んでも、さらには卒業しても同じ書店で働き続けました。すっかりベテランスタッフとなっていた2018年秋に惜しくも閉店が決まり、そこから独立を考え始めたそうです。


新しい感覚の古本屋を

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街には、従来の古本屋ではなく、若い店主たちによる新しい感覚の古書店が増えていました。この企画にも登場する1003さん、大阪・福島のTrumpet(トランペット)さん、大阪・天王寺の一色文庫(現・文鳥堂)さんなどに好んで通っていた森田さんは、店主のセンスを活かし、見せ方にこだわった“古本屋くさくない”古本屋に可能性を感じていました。深夜に開店することで知られる広島県尾道市の古本屋・弐拾dB(にじゅうでしべる)さんを訪れた際、店主が当時20代という若さと知り、それなら自分にもできるはずだと背中を押されたそうです。そして勤務していた書店の閉店から半年足らず、2019年3月に【荒野】をオープンしました。

神戸・元町で店を始めたのは「山と海にはさまれたコンパクトな街のサイズ感が気に入った」から。店づくりでいちばんこだわったのは照明だそうです。現実から切り離せる空間を作るため、むき出しのソケットと電球のアンティーク感が素敵な暖色の電球を数カ所に配置しています。店に足を踏み入れた瞬間、どこか安心する空間でありながら時間の流れをつい忘れそうになるのはそんな細やかな配慮からだったんですね。


荒野に足を踏み出す

店内の書棚やカウンターなどの什器は、すべて森田さんの自作。めちゃくちゃ大変だったのでもう二度とやりたくないと笑って話されますが、目は本気でした…。棚を見て回ると、どこか図書館のような優しさを感じます。「どんな好みの人にも開かれた店でありたい」という森田さんの思いが反映された棚は、風通しが良く、様々な本があるのにとっつきやすい印象です。小説は文庫と単行本がきっちり分けられておらず、そのランダム感が棚に軽やかなリズムを生み出しています。

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【荒野】という店名の由来を聞くと、言葉の響きが好きなのと、クリント・イーストウッドの制作会社「マルパソ・プロダクション」にヒントを得て、と森田さん。「マルパソ」とはスペイン語で「茨の道」の意。そのネーミングに共感し、「自分の店を持つことは、荒野に一歩を踏み出すようなもの」だと命名されました。

文学の“最先端”を届けるべく、今後は新刊書籍も扱いたいと考えているそうです。また、「自分が選ぶ目線以外にも置く商品の幅を広げていきたい」と、一部の棚を貸すことも企画しているのだとか。「それにはまた棚を作らなきゃいけなくなるかも…」とこぼす森田さんでしたが、【荒野】の今後の動きがますます楽しみです!

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荒野
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映画の感想と荒川青にすすめたい本紹介


▽森田さんのいるカウンター、コックピットみたい

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▽青くんもいます(入って右手の壁)

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*おまけ/林の買っちゃった記【荒野編】

いちばん好きな作家は、吉田篤弘です。古本屋で彼の著作を見かけたら持っていてもついつい手が伸びてしまう。その手は彼が夫婦でやっているクラフト・エヴィング商會の著作にも及び、当然パートナーである吉田浩美にも(そして彼らの“娘”である吉田音にも)伸びるのです。

「a piece of cake」吉田浩美(2002年/筑摩書房)

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1冊の本の中に、12冊のちいさな本たちが詰まっています。クラフト・エヴィング商會は著作だけでなく装幀やブックデザインも手がけていて、ファンともなると雑多に本が積み上げられた古本屋であっても、その佇まいと気配ですぐに見つけてしまうのです。


映画『街の上で』元町映画館にて5/1公開

文責:林 未来(元町映画館支配人)

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