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『街の上で』書店座談会 その②/3

『街の上で』アンコール上映を記念して、【#元町の上で】企画に協力していただいた書店のみなさんと『街の上で』を語り合うリモート座談会を行いました。参加していただいたのは1003の奥村千織さん、本の栞の田邉栞さん、荒野の森田敦さん、storage booksの山下和希さん。その①では映画から離れ、書店バナシで盛り上がりました。さて、今回は?


ーーー「#元町の上で」企画で、みなさんには【荒川青のための本棚】というテーマで本棚を作ってもらいました。その際に考えた「青くんってどんな人?」というのがそれぞれ異なっていて、その違いをみなさんも面白がってくれたので改めてお聞きします。青くんってどんな人?


奥村|青くんは、下北沢に住んでて遊ぶ場所も職場もぜーんぶ街の中にあって、青春というにはちょっと年齢が過ぎてるけど、私が過ごしたかった青春時代みたいなものを謳歌してるな〜と思いました。同じ歳くらいで飲みに行ったら友だちになれたかな、という気もする。でも青くんって何を目指してるとか、何が好きとか、個性があんまり見えないとも感じました。古着や読書は好きなんやろうな、音楽もちょっとやってたんやな、でもそれって学生時代にわりとみんな通る道だったりする。じゃあ青くんらしさって何かな?と考えるとがよくわかんないんですよね。

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1003 奥村千織さん)


ーーー青くんの過ごしてる日常が「独身時代の理想像」というのは、たとえばどんなところが?


奥村|たとえばこれは想像ですけど、青くんは学生時代にもあの古着屋さんでバイトしてて、卒業してからもずっと居ついているとか、それで生きていける感じとかが。私もああいう生活、適当に働いて楽しく暮らしたいと思ってた。私は就職決まらずに大学を卒業したせいで実家に戻ったんですよ。それで司書の資格を取って図書館で働き出したので、自由な感じに憧れてて。そういう意味では栞(田邉)さんは理想のタイプかも。


田邉|言われてみれば、好きなことをそのままし続けてますね。青くん側の人生を歩んでるかも。大学を卒業して1年で店を始めましたから。だからってわけじゃないけど、私は青くんがけっこう好きでした。実際にはいないんだけど、絶対友だちにいるわこういうタイプって思ったキャラクター。今の自分の生活とも近くて、下北沢に住んでたらたぶん行く店とかが同じだろうなって思う。

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本の栞 田邉栞さん)


山下|奥村さんが言われてた好きなものがはっきり見えないというのは僕も感じました。それに加えて、「何者かになりたいのになれない」そんな焦りを感じたんですよね。僕もちょっと前まで東京に住んでいたので下北沢には時々行ってたんですけど、映画のように夢を追う者が集まる街というイメージはやっぱりあって。映画を撮るとかライブが決まったとか、そういう声が常にすぐそばを通り過ぎて行く環境で、何かに本気で取り組んではいないけど、そういう人たちにうらやましさを感じているのかなって。そんななか映画に出てくれないかって言われて、「よっしゃこれで俺も何かになれるぞ」と一生懸命頑張るけど、結局ドジこいてうまくいかない。そんな青くんだから「ファン・ゴッホの手紙」を選書したんです。これだけ有名なゴッホも、その日々を切り取ると大したことないんだよってことを教えたくて。

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storage books 山下和希さん)


森田|その感じ、わかります。自分のダメなところが、青くんにも似たようなところあるなって。僕は大学から大学院に行って、そのあと就職せずにバイトしてた本屋を続けていくうちに契約社員になって、30まで働いて店が閉まったから古本屋を始めたんですけど、「このままここにいていいんやろうか」って漠然とした先の見えなさや不安は青くんも感じているのかもしれない。そこは彼の気持ちがちょっとわかる気がする…けどやっぱり友だちにはなれないなって(笑)。青くんのための本棚では、彼は就職しないだろうから、個人で店を始めた人の話とか、ちっちゃいお店の始め方なんかの本を選んだんですよ。

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荒野 森田敦さん)


ーーー青くんに向けて作った本棚では、女性が作るものと男性が作るもののベクトルがちょっと違うように感じました。青くんに対して、山下さんの言うような「何者かになれなくて焦っている」という印象は、私は受けなかったんですよねぇ。


奥村|私もそうです。


ーーーだからそこは、きっと観た人が青くんの中に自分を投影している部分なんですよ。私には、ぼーっと生きてる男子に見えてました(笑)。


森田|でも、彼は音楽をやりたかったんじゃないですか?


田邉|ん?


森田|本屋の田辺さんに音楽のことを聞かれて、「そこはセンシティブなところだ」って話してたじゃないですか。本気でやってたけど夢が破れてしまったので、燃え尽き症候群みたいな感じなんじゃないんかなって思いました。


田邉|うーん、なんかでも、音楽も、楽しくてやってたんだろうなって。大学のときの遊びの一部って感じじゃないのかな。


奥村|私の世代だと、まわりの男子はみんなDJやってたんですよ。学生時代にクラブでイベントをやって夜遊ぶっていうのが主流だったから。でもそれを、10年後に触れられたくないだろうなって気はする。学生時代の遊びだけど、社会人になってから若い子に「え、DJやってたんですか?」とか聞かれたらすっごい恥ずかしいと思うんですよ(笑)。


田邉|本気でやってたことじゃないからこそ、ツッコまれたら「や、そんな、大したことしてないから」っていう反応だったのかも。


山下|みんなは遊びでやってたって言うけど、たぶん、青くんにはそうじゃなかったんですよね。


一同|(笑)


山下|青くんは将来ミュージシャンになりたいと思ってやってたんですよ。でも一時期追いかけてた夢をあきらめたっていうのは、ハタから見たら「遊びでやってたじゃん」ってなると思うんです。だから触れられたくないっていう気持ちじゃないのかな。


ーーー男子の本気は女子に伝わらないって話?


山下|そこの「わかられなさ」も相まって、ああいう反応になったんじゃないかと。


奥村|いや、そこはわかんないですよ(笑)。

その③につづく・・・】


「青くんって掴みどころがないよね」って話をしていたら、いつの間にか男女の分かり合えなさに話が発展していたその②。いよいよ次回は最終回、どんな話が飛び出すでしょうか。その③をお楽しみに!

★座談会その①/3はこちら


映画『街の上で』
元町映画館にて6/11(金)までアンコール上映中!


進行・文責:林 未来(元町映画館支配人)

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