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雨ー。
ある日曜日の夕方、ぱらぱらと雨が振り始めた。

自宅の窓からぼおっと外を眺めていると、少しずつ強くなる雨音と、外の景色が雨に打たれていく様子がわかったけれども、所用があったので出かけることにした。

傘と雨靴を忘れず家を出て、5分ばかり歩くと、私は大通りにいた。
そのまま大通りを進んでいると、自分の少し前の方に、あれやこれやと話しながら、そぞろ歩いてくる人たちの集まりに気がついた。

恐らく30代から40代くらいの男女10人ほど。
意識を向けてみると、5メートルくらい離れた後ろの方にも、同じくらいの人の集まり。漏れ聞こえてくる会話の内容からは、どうやら、前にいる人たちも後ろにいる人たちも、仲間らしいとわかった。

また、雨の音にかき消されて正確な内容はわからなかったけれども、どうやらこの人たちは新興企業の経営者や非営利組織の幹部らしく、世の中の困りごとを解決するために、研修つきの会合に参加しているようだった。なんでも、視野を広く持ち、世の中の仕組みや慣習、関わる人の利害を確認しながら経営を進めるための方法を学んでいる、といったようなことであった。

先を急ぐため視線を前に向けると、ある状態に気がついた。
この集団の先頭で、若者が道案内らしき動きをしているのだが、その若者だけが傘を持たずに雨に打たれている。

青いセーターを着て、地図を確認しながら先導をしている若者だけが、雨に打たれて濡れている。その一方で、他の集いの参加者たちは、それぞれ色とりどりの傘を手に、あれやこれやと歩き話を続けている。案内役らしき若者だけが、会合の参加者全体の動きに気を配っては声をかけ、道を確認しては先導する動きを繰り返している。

大通りを右手に曲がる頃、青いセーターを濡らした若者がこじんまりとした西洋料理店の前で立ち止まった。「こちらですよ」と声をかけ、あとに続いてきた人たちを店内に案内しはじめた。若者に先導されてきた経営者たちは、何事もなかったかのようにおしゃべりを続け、傘を畳んで店内へと流れ込んでいった。

白く吐いた息が、傘を手にした人たちの群れに、雨からのがれる場所を指し示していた。私は、先を急ぐことにした。

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