見出し画像

ドキュメンタリー映画「禅と骨」という形で結実した中村貴寛監督の執念。

中村高寛監督で「禅と骨」というドキュメンタリー映画のドラマ部分を撮影しました。アメリカ人と日本人のハーフで、京都の禅僧として稀有な人生を終えたヘンリミトワさんの一生を追った物語。そのなかでドラマ部分は全体の1/4から1/5くらいに当たります。それでも濃いキャストの面々のお陰でかなりのインパクトを残すことが出来ました。

その映画「禅と骨」が、2019年10月4日にDVDとして発売されました。これで劇場で見てくれた人も、足を運べなかったという人も、もう一度観ていただける機会が出来ました。とりあえず予告編を!

ドキュメンタリーのドラマ部分と言うといわゆる再現ドラマと言われるもので、実際の映像で捕捉しきれない部分を描写するため説明的になりがちです。
中村監督プロデューサーの白尾さんもそれを懸念してて、今回、劇場用映画に匹敵するキャストを起用する事で、いわゆる再現ドラマの枠を超えたものを作り出せたらという目論見があったようです。
かなり贅沢なキャスティングのように見えて、撮影当初から林海象プロデューサーが言い続けているローバジェットならぬノンバジェット映画。つまり予算「0」からのスタートである。佐野史郎さん、永瀬正敏さんら林海象組の常連キャストが名を連ねることで成立したキャスティングでしょう。

画像3

その中では異色なのが、主演のウエンツ瑛士さんです。ウエンツ演じるヘンリミトワさんは、同じようにドイツ系の父親と日本人の母親のもとに生まれたという事もありますが、当時のパスポートの写真もを見てもウエンツ瑛士さんに面影がそっくりです。昭和前半にあの容姿はかなりモテたことでしょう。

画像1


そして、ミトワさんの言動を追っていくと必ず辿り着く人物、それがミトワさんの母親です。それを演じてくれているのが余貴美子さん。実在のミトワさんの母親の存在感は彼女の演技力無しには実現しなかったかも知れません。

画像2

かなり最低限のスタッフィングでコンパクトな撮影にもかかわらず、これだけのキャスティングが実現したのは奇跡に近いですね。もう10年以上の付き合いになりますがプロデューサーの白尾さんの手腕には圧倒されます

この「禅と骨」が異色と云われる所以は劇映画ばりのドラマシーンだけでははありません。もう一つの軸を成すアニメーション作品「ヘンリの赤い靴」も強烈な印象を残します。ドキュメンタリーにおいて、映像の無い部分をアニメーションで補足するというのは良くある手法です。しかし、この映画においては全く違ったアプローチをしています。ミトワさんが生前ずっと言い続けてきた映画への想い。それをミトワさんの死後に中村監督のもと、具現化した物がアニメ「ヘンリの赤い靴」なのである。

画像4

今日マチ子さんキャラクターデザインのこのアニメーションは、女の子が異人さんに連れられて旅立つという、だれもが知ってる童謡「赤い靴」をモチーフにヘンリミトワさんの想いの詰まったストーリーに仕上げられています。それ故にミトワさんの生い立ちと並行して見ることによって、物語に奥行きが生まれてきます。

こういった、ドキュメンタリー本編、ドラマ部分、劇中アニメと様々な視点から一人の男を描き出していくアプローチは中村監督の前作「ヨコハマメリー」と比べても、かなり実験的とも言えます。(監督本人は表現は対象に合わせるものなので、ドキュメンタリーの場合、表現の仕方が変わるのは当然のことだと答えていますが)取材を終えつつもこれでもかと言うほどに素材を積み重ねていく執念には畏れ入ります。なにしろ最初の試写では前後編に分かれて計6時間に及ぶ大作でした。それが2時間7分になったのだから濃さはハンパ無いです。

中村監督はよく取材対象が撮影中に亡くなる事が多いと語っています。取材対象が高齢ということもありますが、その人が存命なうちは撮り続けなければという使命感に駆られるのでは無いでしょうか?

この執念の塊が映画「禅と骨」となって、ここに結実しています。
ドキュメンタリーの新たなアプローチを体験するためにも見ることをお勧めします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?