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『科学的「株」投資術』の要約。バリュー系ファクターのエビデンス

東京大学医学部卒業の医師、KAPPAさんを知っていますか?

医師でありながら、プロのトレーダー以上の実績を持つ投資家でもあります。
KAPPAさんの投資は、テクニカル分析やファンダメンタル分析に頼らず、エビデンス(根拠)をもとにした戦略です。

この記事は、『科学的「株」投資術』の要約を書いています。
本編が気になる方は、AmazonのKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)でどうぞ!

それでは『科学的「株」投資術』の要約を書いて行きましょう。


投資方法を科学的に検証してみよう

テクニカル分析の真実


✓テクニカル分析の有効性は否定されている

1960年代、マサチューセッツ大学、シカゴ大学、スタンフォード大学などの経済学者が中心になって、様々なテクニカル分析の有効性が徹底的に検証されました。

その結果、乖離度やRSIなどの単純なものから

「株価が移動平均線を下から上に抜けたら買いのサイン」
「ヘッド・アンド・ショルダー」
「トリプル・トップ」

上記のようなチャート・パターンまで、ほとんどのテクニカル分析が市場平均を上回れないことが実証されました。

ファンダメンタル分析の真実

✓投資信託の約8割はインデックスに勝てない

投資信託7割~8割はインデックス(株価指数)以下の成績です。

インデックスとは、業績の伸びた企業も落ちた企業も一緒くたに算出した平均株価のこと。

例えば1991年~2003年までアメリカの投資信託で、S&P500のリターンを上回っていたのは全体の26%に過ぎませんでした。

パッシブ運用の真実

✓効率的市場仮説が教える「勝者のゲーム」

パッシブ運用の根拠は、1960年代に生まれた効率的市場仮説です。
「市場は非常に効率的だから、新しい情報は合理的な投資家に瞬く間に広がり、株価は新しい情報に反応する」という考え方。

なので効率的市場仮説では、株価は市場参加者の知識と期待の集積を反映したものであり、ファンダメンタルズ分析で個別銘柄を買っても、ニュースなどの情報を素早くキャッチしても、超過リターンは得られない。

これらの考えを持っているファンナンスの学者曰く、投資戦略は「敗者のゲーム」で、インデックス投資が「勝者のゲーム」

✓インデックスへの投資はアクティブ運用よりマシ

アクティブ型の投資信託のほとんどがインデックスに勝てないですから、アクティブ型の投資信託を買うよりは、インデックスに連動するインデックス・ファンドやETFを買った方がいいでしょう。

行動ファイナンスとFBI

効率的市場仮設への疑問

✓パッシブ運用は負けないゲームにすぎない

パッシブ運用は最初から勝ちをあきらめた方法です。負けないゲームではあるかもしれませんが、とても勝者のゲームとは思えません。

そもそもパッシブ運用の前提となる「効率的市場仮説」は、あくまでも「仮説」です。
効率的市場仮説には様々な問題点が指摘されています。特に次の3つです。

①投資家は合理的な存在ではない
➁非合理な取引は相殺されない
③裁定は限定的にしか機能しない

行動ファイナンスが明かす投資家心理の罠

✓投資家が持つ様々な「認知上のバイアス」

□簡易的意思決定法(ヒューリスティックス)
直観に基づく意思決定方法のこと。簡易的意思決定法には以下のものがあります。

①ランダム系列の誤認知
➁恣意的な値が判断に影響する「アンカリング」
③共通性に囚われる「代表性バイアス」
④接触頻度に惑わされる「利用可能性のバイアス」</b>
・自信過剰と楽観主義
・痛みを嫌う「損失回避の傾向」
・集団極性化(リスキーシフトとコーシャスシフト)

認知上のバイアスから抜け出すための「EBI」

✓認知上のバイアスに左右されないための医療が「EBM」

医学では、今まで理論や経験から当然正しいと信じていたことが、科学的な検証によって正しくないことが珍しくありません。

例えばβカロテンやビタミンEは、抗酸化作用から健康にいいと信じられていましたが、ランダム化比較試験では、βカロテンを飲んだグループの死亡率が飲まないグループより高く、ビタミンEを飲んだグループの死亡率は飲まないグループをと変わらない結果でした。

ですから、医師はβカロテンやビタミンEのサプリメントをすすめたりはしません。このように科学的に検証されたエビデンス(証拠)に基づいて医療を行うことをEBMと言います。

✓投資にもエビデンスを

エビデンスをもとに銘柄を選定する方法をEBIと言います。

ある市場・時期だけに特有な相関関係はなるべく排除して、多くの市場・時期で見られる普遍的な相関関係だけがエビデンスです。

EBIと2ファクター・モデル

✓EBIは複数ファクターの組み合わせで銘柄を選択する

EBIは様々なファクター(要因)のエビデンスをもとに、機械的に銘柄を選定するのが基本です。
複数ファクターによる銘柄選定方法はいくつかありますが、もっとも簡単なのは「2ファクター・モデル」で、2つのファクターによって機械的に銘柄を選定する方法です。

バリュー系ファクターのエビデンス

バリュー系ファクターの有効性

✓バリュー系ファクターでの銘柄選択は有効性が高い

過去の日本株を分析すると、バリュー系(割安)ファクターによる銘柄選定は、ほぼ一貫していて高リターンとなっています。
ただし、PER(株価収益率)とPCFR(株価キャッシュフロー倍率)は標準偏差が小さくブレないんですが、PBRは安定性に欠けていて、EV/EBITDAは平均リターンがやや低くなっています。(「EV/EBITDA」とは、買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)

日本株では、バリュー株のグロース株(非バリュー株)に対する平均超過収益率(期待収益を上回る収益の平均)が高くなっています。なので、日本株はバリュー効果が非常に高いんです。

✓景気に左右されにくいのもバリュー系ファクターの魅力

バリュー系ファクターは、景気に関わらず安定的に有効です。

10年以上の長期にわたるファクターの有効性を調べると、グロース系ファクター(ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)など)が優位なときもあります。しかし、そのような「グロースが優位な時期」でも、PER、PCFRなどのバリュー系ファクターは有効です。

多少の例外はあります。PCFRは景気の山に近いときや、その後で有効性が少し鈍ってしまいます。設備投資が多い「景気敏感株」の影響かと思われます。

「収益のバリュー」のファクター「PER」

✓もっとも使いやすいバリュー系ファクター

PERはもっとも使いやすいファクターです。

PER=株価 ÷ EPS(一株当たり純利益)

「収益のバリュー」のファクター「PCFR」

PCFR=株価 ÷ 1株当たり営業キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、企業が公表しているキャッシュフロー計算書を確認してください。「会社四季報」にも掲載されているので、いちいち計算しなくても大丈夫です。

「資産のバリュー」のファクター「PBR」

✓本来のバリュー株は低PBR株

本来のバリュー株は低PBR銘柄のことです。

PBR=株価 ÷ BPS(1株当たり純資産)

「純資産」とは、企業が保有する資産(総資産)から負債(総負債)を差し引いたもので、貸借対象表の「資本の部」です。

「企業価値のバリュー」のファクター「EV/EBITDA」

EVの計算方法は…

EV=時価総額+有利子負債-(現金・預金+一時金保有有価証券)
(有利子負債=長短期借入金+コマーシャルペーパー+社債+転換社債+新株予約権付社債)

EVとは「企業買収を行うとしたらいくら必要か」とういことです。

EBITDAとは、金利、税金、減価償却などを差し引く前の利益のことです。

EBITDA=税引き前利益+減価償却費+支払金利・割引料-受取利息・配当金

バリュー系ファクターとリターン・リバーサル

✓バリュー株効果の過半はリターン・リバーサル

過去の株価の上昇率が大きい銘柄ほど、次期もハイパフォーマンスが続くことを「モメンタム」といいます。
また、過去の株価の下降率が大きい銘柄ほど、次期のパフォーマンスが良くなることを「リターン・リバーサル」といいます。

日本株では短期のリターン・リバーサルが見られるため、株価の下落で低PBRや低PERに分類される銘柄は、リターン・リバーサルで株価が上昇する可能性があります。

✓それでもリターン・リバーサルではなく割安性が大切な理由

日本株では、短期、長期ともに過去の株価の下落率が大きい銘柄の方が次期のパフォーマンスがいいんですが、欧米では短期(1年以下)の場合はモメンタム、長期の場合はリターン・リバーサルになるエビデンスがあります。

日本株に見られるリターン・リバーサルは、大型株よりも小型株において強いです。また、保有期間が長期にわたるとモメンタム効果が現れます。
国や市場によって、またデータ解析する時期によって違った結果になってしまうリターン・リバーサルは安定的ではありません。

なのでリターン・リバーサル戦略ではなく、割安性によるバリュー株戦略が有効です。

EBIの実践

銘柄選択の手順

✓まず割安性をチェックする

EBIは「割安性」「財務」「収益性」の以上3つの視点からファクターをチェックし、銘柄選定しましょう。
さらに業績予想修正などをチェックし、最終的に決断します。

もっとも重要なのは、割安性のチェックです。EBIの銘柄選定は「割安」が大前提となります。

割安性のファクターは、「PER」「PCFR」「EV/EBITDA」を使用。目安は以下の通りです。

PER<15
PCFR<12
EV/EBITDA<8

✓財務はRODでチェックする

財務のファクターはRODをチェックします。目安は以下の通りです。

ROD>0.3

ただし、財務のファクターはリターンに対する関係性が高くないため絶対的ではありません。
収益性チェックでROA(総資産利益率)またはROIC(投下資本利益率)を使い、収益性の高い銘柄選定をする場合、財務の要素も入ってくるので、RODのチェックは不要です。

✓収益性と収益の質を見る

収益性のファクターは、ROAまたはRO ROICをチェックします。目安は以下の通りです。

ROA>7% あるいはROIC>12%

ただしROAやROICではなく、営業(経常)利益率を見た方がいい場合も存在します。価格支配があり独占的な企業を選ぶ場合です。その場合、以下の目安となります。

営業(経常)利益率>15%

さらに収益性ファクターではなく、収益の質を見るファクターではアクルーアル(会計発生高)が重要です。以下が目安になります。

アクルーアル<0

✓業績修正情報をチェックする

これまで書いてきた方法で銘柄選定(スクリーニング)すると業種に偏りが生じる場合があります。なので、調整はしておくべきです。

最終的に残った銘柄についてチェック。アナリストによる格付けや業務修正情報の有無を調べます。

ここで大切なのは、アナリストの格付けが高い銘柄は避けることです。業務修正情報については、下方修正の出た銘柄は避けましょう。続けて下方修正される可能性があるので、割安であっても避けた方が賢明でしょう。

上方修正の出た銘柄ついては、割安性、財務、収益性が多少悪くても選定してもいいかも。

✓低PBR銘柄の場合の銘柄選定手順

日本株はキャッシュ・リッチ(企業の実質的な無借金経営)な銘柄が多数あります。そのような銘柄選定は、やり方を少し変える必要があるんです。目安は下記の通りです。

PBR<1.5

低PBR銘柄は、ROAやROICは低くなります。営業(経常)利益率も考慮した方がいいでしょう。

営業(経常)利益率>15%

株式を買うときに気を付けること

✓ドル・コスト平均法は必ずしも有利ではない

ドル・コスト平均法とは、定期的に同額を特定の商品に継続して投資することです。株価が下がると買い付ける数量が増加、株価が上がると買い付ける数量が減少します。なので平均購入単価が下がるわけです。

しかし普通に考えてみれば、買い付けている銘柄の株価が上がり続けている場合、ドル・コスト平均法では購入枚数が減るため、一括で買う場合に比べて利益が減ってしまいます。

さらにいえば株価が下がり続けている場合、ドル・コスト平均法では購入枚数が増えてしまうので損失も増えるわけです。

結論をいってしまえば、ドル・コスト平均法は有利でも不利でもないと思います。まさに平均的な投資戦略です。

✓マーケット・タイミングを計るのは不可能

株式相場は波のように上昇と下降を繰り返します。マーケットが上昇する前に株式投資を増やし、下降する前に株式を売却して効率よくリターンを狙う。このような戦略を「マーケット・タイミング」と言います。

しかし株式の上昇は突然発生するものですから、予測するのは不可能だと思います。なので「今が買いどき」「今は投資を控えるべき」などということはありません。

基準を満たす銘柄に淡々と投資することで、最終的に高リターンに結びつきます。

✓集中投資はスマートに見えるが…

分散投資と集中投資、どちらが有利なんでしょうか?
当たり前ですが、集中投資の方が当たればリターンは大きいです。

しかし、エビデンスに基づく科学的な投資を目指すEBIでは、分散投資の方が有利だと言えます。理由は以下の2つです。

・値動きの異なる銘柄を組み合わせれば、リターンの期待値はそのままでリスクを減らすことができる
・割安株の高い平均リターンは、少数の「大化け株」によるところが大きい

保有する銘柄が増えれば増えるほど、「大化け株」を引く可能性は高くなります。
リスク分散効果は20銘柄くらい組み入れれば有効です。

株式を売るときに気を付けること

✓売却を検討すべき4つの場合

①株価の上昇によって割高になったと判断したとき
収益が悪化して一見割高に感じても、一時的だと考えられる場合は保有し続けましょう。

➁明らかに下方修正が続くと判断したとき
エビデンスによれば、下方修正発表後に急落した株価がその後反転して、短期間で元の株価に戻ることが多いです。株価が戻るまで待ってから売った方がいいかもしれませんね。

③他に割安な銘柄を見つけたとき
④必ずしも割高ではないがポジションが大きくなりすぎたとき
ポートフォリオの保有比率が大きくなりすぎたときは、調整のために一部売却を検討しましょう。

まとめ

今回は『科学的「株」投資術』の要約を書きました。
著者は東京大学医学部卒業の医師、KAPPAさんです。

投資をする上で大切なのは、テクニカル分析でもなく、ファンダメンタル分析でもなく、エビデンス(根拠)ということが分かりました。

読んでいて大事だと感じだのは…


・テクニカル分析の有効性は否定されている
・投資信託の約8割はインデックスに勝てない
・パッシブ運用は負けないゲームにすぎない
・バリュー系ファクターでの銘柄選択は有効性が高い
・ドル・コスト平均法は必ずしも有利ではない

こんな感じです。その中でも大事なのは…

パッシブ運用は負けないゲームにすぎない

インデックス投資(パッシブ運用)が安全とはいっても、過度に信用してはいけない。「勝者のゲーム」ではなく「負けないゲーム」にすぎない…

私はインデックス投資の信奉者ですが、『科学的「株」投資術』は勉強になりました。インデックス投資を過度に信用するのは要注意ですね。

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