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14.そして一人旅が始まる ーイラン編~奈落の底に

何とか無事トルコとイランの国境の街にドゥバヤジットに辿り着く。
イスタンブールとは違って東部トルコはクルド人との問題があるせいか
大分荒廃した感じが有って少し怖く
実際に緊迫している場所なんだな、と感じた。

イランに入国してみたら幾つか驚く事があった。
まず、アメリカに敵対している事が至る所で目に付く。
「アメリカを倒せ!」だの「アメリカは敵だ!」と言った絵を
よく目にした。
なので英語が話せる人が少なくて基本ペルシャ語だったから
会話は大変だった。

また当時のイランは厳格にイスラム教の教えに従っていたので
女性の着る服は基本、紺一色で殆ど皆
髪の毛はスカーフで覆っていた。
バスも男性と女性の乗れる場所は区切られていた。

女性は紺一色

僕のイランのイメージは、アッバス・キアロスタミ監督の
「友だちのうちはどこ?」に代表される映画大国だったので
首都のテヘランで全く映画館が探せず映画も観れずガッカリした。

特にテヘランでは観るところ無いので
次の大きな観光地イスファハンに向けて移動する。
ところがバスは到着が大幅に遅れて
なんと深夜の2時にバス停に到着する。

イランで2番目に大きい街イスファハンなのだが
バス停はシンプルな作りで、バス停で泊まれる様な施設になっていない。
とても簡素なバス停でベンチが幾つかあるだけ。

深夜の2時という事も有り、家族を迎えに来た車が去ってしまうと
タクシーもほとんど待っていなかった。
地図で確認して目的のホテルまで、そこまで距離がないので
貧乏旅行者根性で歩いてホテルに向かう事にする。

今思えば旅も長くなってきて気が緩んでいたんだと思う。
トボトボ歩いていると、
「こんな時間に歩いてるのか?ホテルまで乗せてってやるよ!」
みたいなノリで声を掛けてきたイラン人が居た。

警戒心も薄れていて、むしろ「何て親切な人が居たもんだ!」と
喜んで乗せて貰う始末。

バス停から一直線で車だったら10分位で着く所。
ホテルに向かう途中で細い路地に入っていき
もう一人友達をピックアップして乗せた時に
「ん??変だな。」と思ったけど、もう手遅れ。

途中で降りる訳にも行かず、彼が良い人であると信用するしかなかった。
そんな僕の願いとは裏腹に
車はどんどん明かりの少ない山の方に向かっていく。
時間も30分を超えた。

何かの間違いに違いない、きっと彼はホテルに無事届けてくれる筈だ、と
神様に祈る気持ちで居ると
車は更にドライブして人気のない山の中に入っていく。

そして1時間以上経ったあと
森の真っ暗闇の中で、とうとう車が停まる。

「これから一体何が起きるんだろう?」と
怯えていると

「車が故障して停まってしまったから、車から降りて車を押せ」
みたいな感じで言われ
僕ともう一人が車から降りて
僕は車の後ろ
もう一人のオジサンは後部座席のドアを開けて
そのドアを押していた。

するとゆっくり車は走りだし
後部座席のドアを押していたオジサンは
さっと車に乗り込み
一気にスピードあげて
車は走りさっていった。

慌てて咄嗟に車に飛びつくが
あっさり振り落とされ
荷物を丸ごと持っていかれ
場所も分からない深夜の暗闇の森の中で
「ぽつん」と置き去りにされたのだった。





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