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中学生の長男が救急車で運ばれて〇〇で大騒ぎして先生に笑われた事件

 

 去年の夏の夜のこと、お風呂場からガラスの割れる大きな音が響いた。


 よく物を壊す長男がまた何か壊したのかと思ったので、お風呂場に見行くと、お風呂場の出入りするところのドアのガラスが粉々になっていた。そして、腕から血をダラダラたらし、血だらけで裸の長男がお風呂場で放心状態でいた。


 内心焦りながらも長男が不安になると思い、冷静に「ちょっと傷見せて」と腕を見せて貰ったら、見たこともないくらいのえぐい傷だったのだ。白い花が咲いている状態と言えば、わかる人にはわかるかな…。


「うん。これ無理だ。救急車呼ぼう。」と、すぐに110番した。電話の向こうで「警察です」と言われて「すいません!間違えました!」と切って冷静に、119番にかけなおした。

 長男には止血を継続させ、次男にパンツをはかせるように指示を出す。思春期なので母親にパンツはかされるのはプライドが傷つくかなと思ったのだ。親としての配慮であったが二人ともパニックになっているようでバリバリに割れたガラスの上でパンツをはかそうとしているのである。

 「足怪我するからこっちでやって。」と二人を移動させた。

 さすがにズボンもはいておかないと恥ずかしいだろうとその場にあったジャージを私がはかせ、どこかのタイミングでシャツも着させようと適当にTシャツをバックに入れた。

 その間に、次男を一人で家で置いて置くことになってしまうので、実家に連絡して回収してもらい、私は保険証やお金などのチェックをして救急車を待った。

 その間に、長男にどうやって怪我をしたのか聞き込みをすると

「お風呂場で体を拭いて、外に出ようとドアに手を伸ばしたら届かなくて、少し近づいてから手を伸ばしたら今度は思ったよりもドアが近くて思いっきりガラスに手を突っ込んでしまった。焦って引いてしまった。」

ということだったらしい。それを聞いた私は「何年も住んでいる家で距離感間違えるってどういうこと?」と聞いてしまった。

私の発言に対して長男は「俺も知りたい。俺はそういうおっちょこちょい系男子だからしょうがない。」と、しまったなぁという顔して言った。更に「はぁ。縫うのって痛いかなぁ。注射よりも痛いかな?」と、心配をしていた。


 うん。あんたいつも通りでお母さん安心したわ。


 ちなみに冷静に対処できたのは、次男が赤ちゃんの時に同じような怪我をして救急車に乗ったことがあったからだ。



 救急車は、すぐにやってきた。救急隊員は現場を見たいというので、汚部屋のお風呂に案内するはめになった。恥ずかしい。

 廊下や部屋のあちこちに血がしたたっていた。さながら事件現場である。そんな状況を確認してから「息子さん暴れたんですか?」と聞かれる。「いえ…。距離感間違えたみたいで…。ホントすいません…」となる私。


 救急車に乗ってからも「何かイライラしてたの?」と聞かれる長男。基本、怒ったりしない子なのでそれは絶対に無いのだが、傍から見るとそう見えるのだなと感じたやりとりであった。

 上半身裸で救急車に乗ったら、長男の脇下から腹にかけてあるケロイドにも注目され「これ?やけど?」と聞かれる…。「そ、それも…くだらない理由で出来た奴なんです…。」と伝えた。

 小4くらいのときに、脇にできた出来物をいじって化膿させるということを何度も繰り返してやってしまったため、最終的にケロイドになって残ってしまっているのだ。触らないように、触るときは綺麗な手でと言っているのにそれを我慢できず触ってしまってこんなになってしまったのだ。



 病院は家からすぐ近所だったおかげですぐについた。レントゲン撮影を先にしてから処置となったがレントゲン撮影の後から長男の様子がおかしくなっていった。

「ヤバい。トイレ行きたい。」と言う長男に「処置があるから行くなら今だよ」と伝えると「俺は、初めての病院では出さない系男子だから。」とか訳の分からない理由で拒否される。

 「ホントにイイの?」と確認しても「大丈夫」と言うのでそのまま処置することになった。

 長男の傷口に小さなガラス片が入っている可能性もあるので、傷を洗う所からスタートした。

 看護師に傷口をごしごし洗われている長男の背中を見て「君。今の状況にマッチしてる言葉だね!」と笑って医者が言った。処置を待っている間に急いで着せたTシャツのことを指してるようだった。

 「え!?」と思って長男の背中をみると『なんくるないさー』と書いてあった。

 狙った訳ではない。たまたまそのTシャツになったのだ。しかし、Tシャツのおかげで何となく和んだ空気が流れた。



 縫合がスタートする。長男は縫う痛みを想像して恐怖に慄いていた。以前、アレルギー検査で採血するときにうまく採血できなくてすごく痛かったことがトラウマになってしまったのだ。そのため針というものすべてが受け付けない男になってしまっていた。

 縫いだしてからすぐに「ヤバい」とつぶやく長男。

 「ん?どうしたの?」と聞く医者。

 「う〇ちでそう。」とつぶやく長男。

 「え?もう始めちゃったから終わるまで我慢して。」と冷静に言う医者。

 そこから長男は便意との戦いが始まったのである。

 「きたきたきた!!!!駄目だ!駄目だ!!!漏れそう!!」と声だけで大騒ぎする長男に対して「もうしょうがないね。漏らすしかない。」と冷静な医者。そして看護師に「最悪パット当てるしかないね。」と言っていた。

 「だめだ!漏らしちゃダメだ!俺はできる!!俺ならできる!!」と自分自身に暗示をかけようとする長男。そして急にピタっと止まる。

 内心漏らした!漏らした!?と焦る私。

 「ふう…波が過ぎた。」とほっとする長男。その隣でほっとする私。

 

 しかし、数分もすると


 「やばいやばい!第二波きたあああああ!!!!もれるううううう!!!!!」と絶叫が始まったのだ。

 「ぬんんんん。うおおおおおお。ふふうううう。ぬぎぎぎぎぎぎ。」と、縫合中のためじっと我慢しながら叫ぶのだ。


 そんな雄たけびの中でも、医者は冷静に縫合をし続ける。


 早く!早くして!漏れちゃう!ヤバい!と内心焦りつつも、医者をせかすことはできないのでハラハラして見守っていた。


 また急にスンっと静かになる長男。さすがにもう漏らしたか…と思ったが「大丈夫。まだ漏れていない。」とドヤ顔する余裕を見せる。


 数分後、「第三波きたあああ!!!!!もう無理かも!!!無理!!!!漏れるううう!!!」と始まった。


 早く!!早く!!!と祈りつつも、長男の形相があまりにも面白くて笑いが止まらなくなっていた。


 「ちょwwww変顔やめてよwwwww」と言うと、「この顔してるとうまく我慢できるんだからしょうがないじゃん!!」と切羽詰まった声で返された。


 ごめんよ。息子よ。もうおかしすぎてお母さんは笑いが止まらないよ。


 「よし!終わった!」と20針近く縫って医者がいう。


 「漏らしてない。まだ大丈夫!」と長男は急いでトイレにかけこんだのだった。



 「初めての病院でしない系男子じゃないの?」とトイレから出てきた長男に尋ねると、「え?なんのこと?俺そんなこと言った覚えないし。」とドヤ顔してた。

 そして「縫ってた時痛くなかったの?」と確認したら「お腹の痛さがヤバすぎて縫ってるのわからなかった。マジお腹やべぇ。」と、怖がっていた縫合が吹き飛んだようで、ある意味良かったのかもしれない。



 腕の神経を傷つけていなかったのは本当に不幸中の幸いであった。

 夏休み期間の怪我だったので、夏休み明けに友人たちに怪我のことを聞かれたようだが「クマと戦った」と嘘をついている。

 そんな長男は4月からは中学三年生になる。

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